スマホで医療を受けることが当たり前になる時代は来るのだろうか。
撮影:三ツ村崇志
コロナ禍において、院内感染の防止や、待合室の混雑による感染拡大を防ぐことを目的に、オンライン診療の普及が加速してきた。2022年1月にはオンライン診療に関わる指針が改められ、4月からはオンライン診療の診療報酬の引き上げも決まった。
この春以降、オンライン診療の導入の加速が期待される状況といえる。
コロナ禍で2年が経過した今、果たしてオンライン診療はどこまで普及しているのか。オンライン診療大手のメドレーとMICIN、そしてエムスリーと共同会社を設立し注目を集めたLINE、各社の状況を見ていこう。
急成長中のメドレー:全国約2400施設でオンライン診療
メドレーの直近の契約医療機関数(左)は約1万。ただし、オンライン診療サービスだけではなく、調剤薬局などに向けたオンライン服薬指導サービスの導入機関数も含んだ数だ。
出典:メドレー2021年12月期通期決算説明資料
オンライン診療サービスを提供する企業は多数存在するが、その中でまず注目しておきたいのがメドレーだ。
メドレーは、医療従事者の採用事業を主軸に、2016年からオンライン診療システム「CLINICS」の提供を開始している(ブラウザー、アプリで受診可能)。オンライン診療による売り上げは、メドレーの事業全体の4分の1未満ではあるものの確実に成長を続けてきた(オンライン診療やオンライン服薬指導サービスなどのプラットフォーム事業の売り上げが全体の約4分の1)。
CLINICSでは、システムを導入する病院・クリニックがサービス利用料を支払う必要があるものの、患者側の追加負担はない(オンライン診療による医療費は当然患者負担)。
2月14日に発表した同社の2021年12月期通期決算説明資料によると、契約医療機関数は直近で1万施設以上。ただ、この数字は、オンライン診療システムを導入している「病院・クリニック」だけではなく、オンライン服薬指導サービス用のシステム「Pharms」を導入してる薬局の店舗数も含んだものだ。
実際にCLINICSを使ってオンライン診療を実施している病院・クリニックの数をメドレー広報に問い合わせたところ、オンライン診療単体で利用している医療機関数は未公表だとしている。ただし、2021年12月末の時点で、オンライン診療システムと電子カルテサービスを利用している医療機関数を合わせると約2800施設になるとの回答があった。
なお、筆者がCLINICSのサービス画面からオンライン診療を利用できる医療機関を数えたところ、2022年3月7日の段階で、全国で約2400医療機関だった。なお、後述する他社サービスのように、サイトに公開されていない状態で利用できる医療機関はないという。
CLINICSのサービス画面。都道府県ごとにオンライン診療を導入している医療機関数をみると、東京や大阪などの都市圏での普及が先行していることがよく分かる。この傾向は他社でも同様だった。
撮影:三ツ村崇志
また、メドレーの広報に、この春の診療報酬改定や、オンライン診療の指針改定がオンライン診療サービスの普及に与える影響について尋ねると、次のような回答があった。
「医師の裁量のもと柔軟にオンライン診療を実施できるようになったことは、医療機関の方々からも好意的に受け止められています。ベンダーとしては、地域医療を大切にしながらオンライン診療が適切に普及していくよう、引き続き努めていきたいと考えております」(メドレー広報)
メドレーは、2021年12月にドコモとCLINICSの共同運営を開始し、dアカウントと連携できるようにするなど、サービスの拡大を進めている。3月3日には、医療機関が不足してる地域での導入を支援する取り組みも発表するなど、医療への接続性を高めようとする取り組みを続けている。
MICIN:導入実績「5000施設以上」のcuron
MICINが提供するオンライン診療サービス「curon」。
撮影:三ツ村崇志
オンライン診療業界を俯瞰する上で、メドレーと共に注目したいのがMICINだ。
MICINは、CLINICSと同じく2016年からオンライン診療システム「curon(クロン)」の提供を開始している。アプリだけでなくWeb上からでもオンライン診療サービスを利用できる点も同様だ。
料金形態はCLINICSとは対象的に、患者側に一回の受診あたり330円(税込)の負担を求める代わりに、医療機関に対してサービス利用料などの支払いは求めていない。
未上場で決算資料などを公開していないため、細かい売り上げ規模などは不明だが、コロナ禍において利用件数は急伸しているという。
MICINの広報に現時点での契約医療機関数を尋ねると、「導入医療機関数(病院・クリニック)は、5000施設以上です」(MICIN広報)と回答があった。
筆者が実際にアプリから利用可能な医療機関数を数えてみると、約1500施設だった(3月7日時点)。
MICIN広報にこの数のずれについて尋ねると、サービスの検索画面に表示させないようにしている医療機関や、日々の業務の忙しさなどから常にオンライン診療を実施できる状況ではない医療機関が相当数存在することが原因だとしている。
なお、検索で表示されなかったとしても、医療機関が発行するコードを入力すればサービス上でオンライン診療を受診できる。通院している患者の経過観察用にのみオンライン診療を活用するなど、医療施設側のオンライン診療の使い方にもバリエーションがあるようだ。
コロナ禍では、待合室が混雑することから医療への受診控えも起きていた。経過観察などの受診歴のある患者を対象にオンライン診療を導入して混雑緩和を図る事例なども考えられる。
toodtuphoto/Shutterstock.com
春以降の診療報酬体系の改定に対しては、メドレーと同様にポジティブな変化であると期待感を語った。
また、これから先の議論として、
「オンライン診療の対象にできる医学管理料の範囲や、検査や処置等を必ずしも必要としない医学管理料の点数設定など、今後普及にあたり議論すべき内容も残されています。
活用事例が増えていく中で、より現場に即した活発な議論が展開されていくことを望んでいます。また、今年は医療計画策定の議論も進むと思いますが、このような行政の計画にオンライン診療が位置付けられることも普及に必要な要素と考えています」(MICIN広報)
と、オンライン診療の普及に向けてさらに議論を煮詰めていく必要があるとしている。
LINEドクター:医療機関・患者「追加負担ゼロ」も、まだ道半ば
老若男女が利用するLINEでオンライン診療が実現できれば、アクセシビリティが大きく改善しそうだ。
撮影:三ツ村崇志
国内のオンライン診療サービスを語る上で目を離せないのがLINEだ。
LINEは、2019年1月に医療プラットフォーマーのエムスリーとの共同会社としてLINEヘルスケアを設立。新型コロナウイルスの流行を受けて、当初の計画を前倒しした2020年12月に、首都圏の一部医療機関を皮切りにオンライン診療サービス「LINEドクター」の提供を開始した。
サービス開始当初から2022年3月現在に至るまで、患者側、医療機関側どちらに対してもサービス利用料などを求めていない。まずはサービスの認知・拡大を進めていく段階だとしており、今後、追加機能を実装していく中で、ビジネス化を図っていく方針だ。
サービスの利用にスマートフォンが必須とはいえ、日本人の約7割が利用している通話アプリのLINEからシームレスに医療に接続できる仕組みは、ユーザーの利用障壁が低いという意味で大きな利点となる。参入する医療機関が増えれば、インフラ的な存在になる期待もある。
ただ、LINE広報に現在のサービスの利用状況を尋ねると
「『LINEドクター』の診療完了件数は、2021年10月~2022年1月の3カ月の間で約2.8倍に増加、2022年1月の月間診療完了件数は、過去最多を記録しています」(LINE広報)
と、他社と同様サービスは拡大傾向にあるとしながらも、「医療機関数・月間の利用回数については、ともに非開示とさせて頂いております」(LINEヘルスケア広報)との回答にとどまった。
筆者がLINEドクターの公式サイト上に記載されている「利用可能な医療機関」に掲載されている医療機関数を数えたところ358施設だった(3月7日段階)。これについて、LINE広報は「現状まだセッティングが完了していない医療機関や、現状、対面診療が忙しい等の理由で、非表示にしている医療機関も含まれるため、掲載の医療機関数が全てではありません」と語った。
とはいえ、CLINICSやcuronなど、先行する2社のサービスと比較すると、現時点で利用できる施設はかなり限定的だといえるだろう。
なお、メドレーやMICIN同様、今回の診療報酬改定に対する受け止めを尋ねると、
「LINEドクターを導入頂いている医療機関様からも『オンライン診療を始めるきっかけになった』や『これまでは再診のみだったが、初診からも対応する方向で検討をしていきたい』いう声を頂いており、今回の診療報酬の改定や規制緩和は、医療機関側のオンライン診療の導入ハードルを下げ、活用頻度を上げるきっかけになると思います」
と、他社と同様ポジティブな回答だった。
オンライン診療、サービス拡大もいまだ1割強
2021年6月末段階で、電話や情報通信機器を使った診療が可能な医療機関数。全国の医療機関数の1割程度だ。オンライン診療だけに絞ると、さらに少なくなる。
出典:第17回オンライン診療の適切な実施に関する指針の見直しに関する検討会資料
日本全国の医療機関・クリニック数約11万に対して、メドレー、MICIN、LINEというこの業界で注目されるプラットフォーマーのサービスを利用できる医療機関数を全て合計しても、現状1万にも満たない。
そういった意味で、オンライン診療が「当たり前の選択肢」として普及するまでの道のりはまだ長いといえる。
振り返れば、2020年4月にコロナ対策の一環としてオンライン診療などに関する特例措置が講じられたことから、状況が大きく進展し始めた。2020年秋に菅政権(当時)の発足に伴い、特例措置を恒久化する議論が進められ、この春の指針改定につながった。オンライン診療にまつわる診療報酬の引き上げも、オンライン診療の普及を後押しする側面からだ。
「道のりは長い」とはいえ、ここ2年の間にオンライン診療の導入に向けた機運が高まったことは間違いない。この春を起点に、果たしてオンライン診療の活用がどこまで再加速するのか、各社の次の一手に注目したい。
(文・三ツ村崇志)