米自動車大手ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転開発部門クルーズ(Cruise)は、2022年内の自動運転システム搭載車両生産開始、2023年の配車サービス商業運行開始に向けて、着々と準備を進めている模様だ。画像は配車サービス専用車両「オリジン(Origin)」。
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ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転開発部門クルーズ(Cruise)は近年、世界各地で商業展開を予定している自動運転配車サービスの要所を担うリーダーとして、航空業界の経営幹部人材を対象にヘッドハンティングを進めてきた。
サンフランシスコに本拠を置くクルーズは、配車サービスへの参入とスケールアップに特化し、自動運転システムおよび専用車両「オリジン(Origin)」の研究開発に10年近く取り組んできた。
事業計画実現に向けた中核的人材として白羽の矢を立てたのが、2021年前半に同社に加わった、デルタ航空の元最高執行責任者(COO)ギル・ウェストだった。
クルーズの広報担当によれば、安全性や規制対応、効率的な車両マネジメント、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)など、高度に複雑な経営を求められる航空業界のノウハウを取り込むのが狙いという。
ウェストはクルーズの初代COOに就任し、米サンフランシスコなど自動運転配車サービスの商業展開の陣頭指揮を担っている。
また、ウェストは入社後すぐに、2人の航空会社経営幹部を自らヘッドハント。
元サウスウエスト航空バイスプレジデントのアンソニー・グレゴリーは市場開発担当、元ヴァージン・アトランティック航空エクゼグティブバイスプレジデント兼COOのフィル・マハーはオペレーション管理担当、それぞれバイスプレジデントに就任させた。
「航空会社もクルーズも、きわめて高度な技術を必要とするプロダクトを扱っている点は共通しています。特にテクノロジーやデータ・アベイラビリティ(可用性)の信頼性については、プロダクトのマネジメント、そのオペレーション業務まで含めて、重複する部分がかなりあるのです」
米デルタ航空最高執行責任者(COO)を退任後、GMクルーズのCOOに就任したギル・ウェスト。
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ウェストは、ノースウエスト航空との合併を直後に控えた2008年にデルタ航空に入社し、2014年にはCOOに就任。2020年9月に退任し、一度はリタイアの道を選んだ。
ビーチリゾートとして知られる米フロリダ州ネープルズで老後を過ごそうと思っていたところに、クルーズからの経営幹部就任要請を受け、航空会社と自動運転ビジネスの重なりの大きさに気づき、新しいことに挑戦するチャンスと考えて決断したのだという。
クルーズは2013年、カイル・ヴォクト(現暫定最高経営責任者)とダニエル・カン(現最高プロダクト責任者)によって設立された。
2016年にゼネラル・モーターズ(GM)が買収。金額は非公開とされているが、10億ドル超とされる。同社子会社となったGMクルーズには、2018年10月にホンダが30億ドル近くを出資し、前出の配車サービス専用車両「オリジン」の共同開発を進めている。
また、ホンダ出資とほぼ同時(2018年5月)に、ソフトバンクグループも20億ドル超(9億ドル+13億5000万ドルの2段階)をクルーズに出資。ロイター通信によれば、ホンダとの提携は事業開発分野における戦略、ソフトバンクとの提携は財務上のものとされる。
GMのメアリー・バーラCEO兼会長とマーク・ロイス社長は2022年1月、米ミシガン州デトロイトでクルーズに初試乗。
クルーズのヴォクト暫定CEOらの案内で、運転席に人間の運転手を乗せない完全なドライバーレスを体験し、「信じられない」「テクノロジーは間違いなく世界を変える」「喜びを禁じえない」と最高レベルの賞賛を口にしている。
米ゼネラル・モーターズ(GM)のメアリー・バーラ最高経営責任者(CEO)がデトロイトでドライバーレス完全自動運転車両に初試乗した動画。アピールのための演技ではない、感動と驚愕に満ちた雰囲気が伝わってくる。
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クルーズが今後目指すもの
ウェストCOOはInsiderの取材に対し、航空業界とクルーズの重なり合う部分の例として、プロダクトのデュラビリティ(耐久性)を挙げた。
ヘビーユースの航空機でも最長耐用年数は30年に達しており、クルーズにも同水準の耐久性を求め、耐用走行距離100万マイル(約161万キロ)を目指すという。
「いずれもアセット(資産)のライフサイクルがビジネスモデルにきわめて重要な影響を及ぼします。ライフサイクルを延長するスキルとインフラを獲得することが、当社のビジネスモデルの(成否の)カギを握るのです」
バイスプレジデントとして加入したグレゴリーやマハーら航空業界のベテランがチームを率いて専門的知見をもらたしたことにより、クルーズはサンフランシスコの公道で改良版のシボレー・ボルト(Chevy Bolt)に一般乗客を乗せることが可能になり(無料運行)、配車サービス専用車両オリジンも生産開始目前までたどり着くことができた、とウェストは語る。
また、ウェスト率いるチームでは、クルーズがこれまでの研究開発段階ではあまり重視してこなかった、カスタマーエクスペリエンスとカスタマーリレーションズ(=顧客との関係づくり)といったプロダクト出荷時に向けた土台づくりにも取り組んでいるという。
ロイター通信(2月18日付)によれば、GMクルーズは米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に対し、オリジンの製造と商業運行開始に向けた許可申請を提出。2022年後半にも生産開始し、翌23年には納品を予定しているという。
その先、2023年にはアラブ首長国連邦(UAE)の主要都市ドバイで、オリジンを投入した配車サービスの商業運転が計画されている。当初は台数と運行エリアを限定してローンチし、2030年までに4000台までスケールアップする計画。
なお、GMのバーラCEOが自動運転システム搭載のシボレー・ボルトに初試乗した動画(前出)収録の直前、2021年末にダン・アマンCEO(当時)が電撃退任、創業者のヴォクト氏が暫定CEOとしてトップに復帰する人事が発表され、さまざまの憶測と懸念を呼んだ。
アマン前CEOは元GM社長で、2019年1月からクルーズのCEOに就任。ブルームバーグ(2021年12月10日)は、配車サービス事業に特化して上場する展開を主張したアマン氏に対し、親会社のトップであるバーラCEOはスピンアウトに反対し、グループ内における自動運転技術の応用機会の拡大などを主張。その意見の食い違いが解任劇を生んだと指摘している。
(翻訳・編集・情報補足:川村力)