ディマさんの足を枕に眠る飼い猫のピクシー。
Courtesy of Dima
- ロシアによるウクライナ侵攻を受け、ディマさんとタチアナさん、2人の飼い猫スコッティとピクシーは首都キーウ(ロシア語表記:キエフ)を離れた。
- その途中で、彼らは渋滞やガソリン不足、近距離での爆撃に見舞われた。
- 空爆を逃れ、小さな町に落ち着くまでの経験をディマさんはInsiderに語った。
2月24日朝、ディマさんは爆発音で目覚めた。最初はよく分からなかったが、2度目の爆発音でロシアが自分たちの住んでいるキーウを攻撃しているのだと分かった。
ディマさんはベッドを飛び出し、荷造りを始めた。妻のタチアナさんはまだ眠っていた。
「彼女はよく眠っていました」とソフトウエア・エンジニアのディマさんはInsiderに語った。
「彼女を起こしたのはわたしです。できるだけやさしく起こそうとしたんですが、彼女は(爆発音に)気付いてパニックになっていました」
ただ、2人がこの日、街を出ることはなかった。街を出ようとする車の長い列ができていて、ほとんど動いていなかったし、ディマさんとタチアナさんの車にはガソリンが半分ほどしか入っていなかった。渋滞につかまっている間にガス欠になることを恐れたのだ。
キーウでは街を出て行こうとする車が長い列を作っていた(2022年2月24日)。
Valentyn Ogirenko/Reuters
「動くべきか、とどまるべきか、それがどのくらい危険なのか… 分かりませんでした」とディマさんは振り返った。
「チャンスを逃したら、動くのが本当に難しくなります」
飼い猫のスコッティとピクシー。タチアナさんの祖父母の家で窓の外を眺めている。
Courtesy of Dima
翌日、道路が比較的空いているように見えたので、2人は飼い猫のスコッティとピクシーをキャリーバッグに入れて、車で南へ向かった。
20マイル(約32キロメートル)ほど離れたバシリキーウには友人が住んでいた。ディマさんによると、2時間のドライブで3度、軍の検問所で文書を見せなければならなかったという。
ディマさんとタチアナさんは、バシリキーウの方が安全だろうと考えていたが、到着から数時間後には爆発音がとどろいた。
「頭上で空爆の音が聞こえていれば、ゲームをするのも難しい」
バシリキーウから3マイルほど離れた場所にはウクライナ軍の基地があり、ディマさんとタチアナさんがバシリキーウに滞在した3日の間にロシアは3~4回その基地を攻撃したと、ディマさんは語った。
日中は遠くで時々銃撃音が聞こえる以外は落ち着いていた。ただ、午後10時頃になると、爆風で窓がガタガタ言い始めたという。
「本当に怖いのは、空爆の後に地上での銃撃が続いた時です。兵士たちが運ばれてきて、地上戦があるのだと分かります」とディマさんは語った。
「こうした経験は愉快なものではありません。ストレスを感じますし、次の爆弾がものすごく近い場所に落ちるかもしれないんです」
ディマさんとタチアナさんはボルシチを作ったり、掃除をしたり、犬と遊んだりして、気を紛らわせようとした。夜はゲームをしてみた。
「頭上で空爆の音が聞こえていれば、ゲームをするのも難しいですが、ただ恐怖に震えているより、何かしている方が絶対にましだと思うんです」とディマさんは話した。
ただ、夜の空爆を3日間経験した2人は、ロシア軍が住宅地を爆撃しているとのニュースを目にして、さらに西へ移動しようと決めた。ディマさんとタチアナさんは再び荷造りをした。バシリキーウの友人も自分の車に飼い犬と飼い猫を乗せた。2台の車はガソリンを探しつつ、西へと向かった。タチアナさんの祖父母が暮らしているウクライナ中部の小さな鉄道の町を目指した。
ガソリンを売っているガソリンスタンドは1つしか見つからなかった。長い行列ができていて、現金での支払いしか受け付けていなかったが、彼らはなんとか燃料を補給できた。
「ガソリンが手に入るとすぐに気持ちも明るくなって、自分たちが目指している場所にどうしたら行けるか、考え出すことができました」とディマさんは語った。
大きな音に臆病で、小さなキャリーバッグでの移動が苦手なねこたちにとっては、特に辛い経験だった。
「ねこは冒険好きではありません。小さい頃からずっとアパートに住んでいたんです」
今は平和でも…
タチアナさんの祖父母が住む町には「戦士になることは永遠に生きること」と書かれた看板が。
Courtesy of Dima
ディマさんとタチアナさんはもともと、車で西部へ向かい、安全な場所で落ち着いたら、そこで戦争を支援するボランティアをするつもりだった。ただ、現時点でディマさんとタチアナさん、その友人とペットは小さな鉄道の町にとどまっている。
ディマさんは軍を支援し、検問所で活動する市民軍に加わりたいと考えている。
「ニュースを読んで、積極的に手伝えないことがもどかしくて… 自分が役に立てる場所にいたいんです」とディマさんは語った。
「落としどころを探しています。わたしたちが役に立てて、彼女の安全も確保できるところを」とディマさんはタチアナさんについて話した。
ただ、ウクライナ西部の都市では中部や東部から避難してきた人でアパートがいっぱいになっているため、彼らは今もとどまる場所のあるタチアナさんの祖父母の家にいる。
ここ数日、町ではコーヒーを見つけることもできない。これまで毎日コーヒーを飲んでいたディマさんとタチアナさんにとっては辛いことだ。ただ、2人は最近、今でも営業しているコーヒーショップを見つけたという。
「ここでの生活は本当に普通です。国内で戦争が起きているとは思えないほどです。買い物に行く人もいれば、自転車に乗っている人もいます」とディマさんは語った。電話取材をしていると、後ろからは鳥の声も聞こえた。
「大惨事の兆候は全くありません」
ディマさんとタチアナさんが滞在している小さな町の様子。
Courtesy of Dima
1時間半後、ディマさんは「鳥がさえずっているだけではありませんでした」との一文を添えて、空襲警報を録音したデータを送って来た。
警報は1日に何度か鳴るものの、空爆は受けていないという。今のところ、警報や銃撃音を耳にすることなく夜を過ごすことができているという。
ただ、この平和な状態がいつまで続くかは分からない。
(翻訳、編集:山口佳美)