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- ウクライナ侵攻に対する西側諸国の制裁で、高い教育を受けた中流階級の人々がロシアを離れる可能性が高いと、経済学者は指摘している。
- こうした頭脳流出は、ロシア経済にとってマイナスになるだろう。
- ある経済学者は、ロシアは制裁によって経済発展が損なわれたイランのようになるかもしれないと話している。
"ロシアを去りたいかどうか"は問題ではないと、カリフォルニア大学ロサンゼルス校の経済学教授オレグ・イツコキ(Oleg Itskhoki)氏はInsiderに語った。問題は"いつ去るか"とそれが"できるかどうか"だという。
「ロシアを去りたがっている人は今、たくさんいます。ただ、制裁の影響で移動には厳しい制限があります」とイツコキ氏は話した。
「そのため、ロシアを去ろうとする人が増えていても、実際に去ることができる人は少なくなっています」と同氏は付け加えた。
「こうした動きは高い教育を受けた、情報に通じた人々に顕著です」
ロシアによるウクライナ侵攻を受け、西側諸国はさまざまな制裁を課し、ロシアは孤立化し、財政的に制約を受けている。外国政府はロシア人を物理的にも孤立させている。少なくとも33の海外の航空会社がロシアへのフライトを取りやめ、ヨーロッパの大半の国がロシアの飛行機に対し、自国の領空の飛行を禁止している。
こうした中、数千人のロシア人がこの1週間で国外へ脱出したと、テレグラフは報じている。そのほとんどは、高い教育を受けた都会に住む中流階級といった、金銭的に余裕のある人々だ。ただ、こうした人々に対し、ロシアは1万ドル(約116万円)以上の持ち出しを禁止している —— 人と金を国内にとどめておくためだ。
これはロシアが長年、頭を悩ませてきた問題だ。ロシアの「頭脳流出」は、高い教育や訓練を受けた多くの人々が東南アジアや東ヨーロッパ、アメリカといった海外へと移住する形で起きている。シンクタンクのアトランティック・カウンシルによると、2019年の時点でプーチン氏が大統領に就任して以来、200万人もの人々がロシアを去っていて、その多くは起業家やクリエイター、研究者だという。
経済学者たちは、ロシアのウクライナに対する軍事行動とそれに続く西側諸国による制裁が、この問題を長期的に悪化させるだろうとInsiderに語っている。そして、頭脳流出と孤立化によって、ロシアの近年の発展が無に帰す恐れがあるという。
ロシア経済の見通しについて、ペンシルベニア大学の経済学教授ニコライ・ルサノフ(Nikolai Roussanov)氏は「長い目で見れば、頭脳流出がロシアにとって最大の問題になる可能性があります」とInsiderに語った。
海外の企業や研究機関の"ロシア離れ"とそれに追随する裕福な若者たち
西側諸国の制裁がロシアの頭脳流出にどのような影響を及ぼすかはまだはっきりしないと、ルサノフ氏は話している。ただ、数年前から始まった"大量流出"が加速することは避けられないだろうと、同氏は見ている。
「この10年、ロシアを去る人々はポツポツと見られました」とルサノフ氏は言い、こうした動きは「海外の研究機関がロシアの研究機関との関係を断つことで加速するでしょう —— テクノロジーや金融の分野もです」と付け加えた。
ルサノフ氏もイツコキ氏も、こうした業界で働く若いロシア人たちは仕事を続けるために、シンプルに海外の企業や研究機関などについてロシアを出ていくし、こうした企業や研究機関などの戦争に反対する姿勢に影響を受けるだろうと指摘する。
「高い教育を受けた人々は検閲があったり、基本的人権が制約される独裁国家での生活を好まず、それが頭脳流出につながります」とイツコキ氏は語った。
こうした頭脳流出はロシア経済の健全性を損なうだろうと、ルサノフ氏は言う。
頭脳流出は「当然、革新や創造を通じて成長を促進する、ロシアの人的資本に非常にネガティブな結果をもたらすでしょう」とルサノフ氏は語った。同氏は「こうした人々は個人消費も多いため、消費需要が低下するでしょう」とも話した。
「孤立化」と「頭脳流出」でロシアは大きく変わる可能性も
頭脳流出はロシアにとって「最も緊急の」課題ではなかったと、イツコキ氏は語った。
ただ、それは「いろいろな意味で破滅的で、経済的破滅もその1つです」と指摘し、ロシア経済は20年前よりも悪化していると付け加えた。
「この12年あまりの経済成長は平均してゼロで、若者にとってのチャンスはどんどん減っています」とイツコキ氏は言う。
「若い世代は不釣り合いに締め出されていて、2000年代の最初の10年にあったようなチャンスを得られませんでした」
イツコキ氏は、各国政府の制裁や企業の撤退がこれほど急速に広がったのは、ロシアが隣接するヨーロッパの民主主義国家を侵略したからだと指摘する。それはロシアを「これまで見たことがないような類の経済的、政治的、学術的、文化的な孤立」に追いやっていると言い、ロシアは近い将来、西側諸国の制裁によって経済発展が損なわれたイランのようになる恐れもあると話した。
「これはロシアの一般市民にとって、信じられないほど大きな犠牲と痛みを伴うものになるでしょう」とイツコキ氏は語った。
「この孤立は何十年と続く可能性もあります」
(翻訳、編集:山口佳美)