2021年にロシアに関係すると思われるハッカーがコロニアル・パイプラインにランサムウェア攻撃を行った。同社は操業停止に追い込まれ、アメリカの東海岸では燃料不足になった。
Reuters
- ロシア人は世界で最も巧妙なサイバー攻撃の使い手だ
- ウクライナに対してはまだ大規模なサイバー攻撃は行っていないが、近いうちに行われる可能性は残っている。
- サイバー攻撃には大きく5つのタイプがあり、いずれも過去の紛争時に使用されたことがある。
ロシアはウクライナへの地上での侵攻を拡大しており、近い将来、政府、インフラ、一般市民を衰弱させる大規模なサイバー攻撃を仕掛けてくる可能性がある。
サイバー攻撃はロシアが得意とする手法の一つであり、世界で最も洗練されたサイバー攻撃者だという評価を得ている。ロニー・ウォーカー(Ronnie Walker)率いるゴールドマン・サックス(Goldman Sachs)のアナリストがまとめたサイバー攻撃の経済的影響に関する調査結果によると、近年、国家が支援するサイバー攻撃の3分の2はロシアと関係があるとされている。
2022年3月7日に発表されたこの文書によると、一般的な攻撃の種類は5つあり、いずれも世界を舞台に政府を混乱させ、データを盗み、混乱を引き起こすために利用されているという。
- サービス拒否(Denial-of-service:DoS)攻撃は、ハッカーがサーバーをトラフィックで溢れさせてクラッシュさせ、ユーザーがアクセスできないようにするものだ。 2021年、ハッカーはベルギーの政府系インターネットサービスプロバイダーを大規模なDoS攻撃の標的にした。
- マルウェア(Malware:悪意のあるソフトウェア)は、データを盗んだり、ネットワークを混乱させたり破壊したりするために設計されたものだ。1月には、北朝鮮に関係するハッカーがロシアの外交官を標的に、新年の挨拶メールという形でマルウェアを配信した。
- インジェクション(injection)攻撃は、ハッカーがプログラムにコードを注入してプログライムを改変し、リモートでコマンドを実行できるようにするもの。2017年には、ロシアに関係すると思われるハッカーがデータベース言語のSQLを操作し、SQLインジェクションという手法で、アメリカの60以上の大学や政府機関を危険にさらすという事件が起こった。
- フィッシング(Phishing)攻撃とは、一見信頼できそうなメールを送り、情報源を騙してデータを抜き取るもの。北朝鮮に関連する工作員は、標的を定めて行うスピアフィッシングと呼ばれる攻撃で、アメリカの防衛関連企業、エネルギー企業、ハイテク企業、航空宇宙関連企業の従業員から情報を盗んだことがある。
- ブルートフォース(brute force)攻撃を行うハッカーは、ネットワークに侵入するために、試行錯誤を繰り返してユーザーのパスワードなどの認証情報を推測する。2017年、イラン人と思われるハッカーが、イギリス議会のアカウント9000件のパスワードを解読しようと試みた。結局、この攻撃者は30ものアカウント情報の取得に成功した。
ロシアのハッカーは長年にわたりウクライナをターゲットにしてきた
2016年には、ロシアに関連すると思われるハッカーがウクライナの送電網をダウンさせ、数十万人のウクライナ人が停電の被害を受けた。また、ウクライナは2017年にも、銀行や政府、エネルギー会社のコンピューターからデータが消去されるというサイバー攻撃を受けたことがある。
CIAによると「NotPetya」と呼ばれるこの攻撃はロシアのハッカーによって行われた。ゴールドマン・サックスによると、100億ドル以上の被害が出たという。
また、ロシアがウクライナに侵攻する数時間前に、マイクロソフト(Microsoft)はウクライナ政府や銀行のネットワークからデータを消去するように設計された、これまでに見たことのないようなマルウェアを検出した。ニューヨーク・タイムズは、マイクロソフトは数時間以内にこのコードをブロックしたと報じている。
ロシアとウクライナの戦争では、ウクライナのインフラに対する破壊的なサイバー攻撃が行われると専門家は以前から予測していたが、今のところ、それは起こっていない。
「我々は、サイバースペースにおける組織的な暴力やウクライナを波状的に襲う攻撃を想像していたが、そうではなく、乱闘が起こっている」とコロンビア大学の研究者で、サイバー紛争を専門とするジェイソン・ヒーリー(Jason Healey)は、ワシントン・ポストに語っている。
「そしてまだ、それほど大きな喧嘩にはなっていない」
それでも、サイバー攻撃がウクライナ侵攻の一部になる可能性が高まっており、専門家は、それがウクライナ国内にとどまることはないだろうと警告している。
MITスローン経営大学院のスチュアート・マドニック(Stuart Madnick)教授は、3月7日のHarvard Business Reviewに「アメリカとEUがウクライナ支援のために結束していることを考えると、サイバー戦争の対象は広くなるかもしれない」と書いている。
「小競り合いであっても、波及効果によって世界規模になる可能性がある」
(翻訳、編集:Toshihiko Inoue)