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シマオ:皆さん、こんにちは! 「佐藤優のお悩み哲学相談」のお時間がやってまいりました。今日も読者の方からいただいたお悩みについて、佐藤優さんに答えていただきます。さっそくお便りを読んでいきましょう。
コロナの影響で仕事はリモートワークが1年以上続いていますが、以前はあった通勤時間2時間を持て余すようになりました。ただ、フルタイムの仕事はコロナで打撃を受けている業界ということもあり、月給は下がってしまっています。
そこで自宅でできるような副業について調べているのですが、どういったものが自分に合っているのか分かりません。いまは文字起こしの仕事をクラウドソーシングで受けてみていますが、眠くなってしまいます。
本業は嫌いではありませんが、好きとも言えないまま10年ほど勤めています。何か副業を通じて、もう少しやってみたいなと思えるものを探したいのですが、何か基準のようなものはあるでしょうか?
(いずみ、30代前半、会社員、女性)
副業は「代替不能なスキル」と「ニッチな分野」で選ぶ
シマオ:いずみさん、ありがとうございます! 最近は大手企業も副業を認めるところが多くなって、いわゆる副業ブームなんて言われていますね。僕も興味はあるんですけど、「じゃあ何をやるのか?」と言われると悩みます。佐藤さん、何かアドバイスはあるでしょうか?
佐藤さん:いずみさんの本業が分からないので、具体的なアドバイスはしづらいのですが、一般的な企業の総合職と想定してお答えします。いずみさんは、「文字起こし」の副業にチャレンジされているようですが、眠くなるということは、現状はやりがいを感じられていないということでしょう。
シマオ:これは、文字起こしの仕事がそもそも向いていなかったということですよね。
佐藤さん:そうとも限りません。副業にやりがいを感じられるかどうかには、2つのポイントがあります。自分のスキルやキャリアに役立つかどうか、または収入が良いかどうかです。
シマオ:でも、いきなりそんなに都合のいい条件の副業はないんじゃ……?
佐藤さん:副業を探す際に、ポイントを絞れば、その2つの条件を満たすことはそんなに難しいことではありませんよ。
シマオ:どうすればいいんでしょうか?
佐藤さん:その副業に求められるスキルの代替可能性が低いか、ニッチな分野であるか、ということです。文字起こしを例に取れば、ITに対して造詣が深い人なら、その分野の素人などに比べて、IT関連の講演やインタビューを文字に起こす際に的確かつ素早く納品することが可能になります。その結果評判が良ければ、自ずと依頼の数も増えるし、単価も高くなる。
シマオ:なるほど! それなら収入も良いし、文字起こしの内容も自分のスキルやキャリアにも役立つかもしれない。やりがいも出てくるという訳ですね。ただ、人よりも詳しい分野なんてそうそう見つからないんじゃ……。
佐藤さん:何も専門家になれと言っている訳ではありません。例えば、学生時代の専攻や本業に関わることなど、他人より少しだけ詳しく知っていることでいいんです。
シマオ:それなら何とかなるかも。いまの例は文字起こしですけど、他の副業だとどうでしょうか?
佐藤さん:私はプラモデルが趣味ですが、組み立てる時間がなかなか取れません。調べてみたら、そういう時間がない人がお金を出して組み立ててもらう需要は結構あるんです。ちょっと複雑な戦闘機の組み立てと塗装ができるなら、1万~3万円くらい出す人はざらにいます。
シマオ:そんなに!
佐藤さん:他にも私は趣味で、エジプトの猫のオブジェがついた時計やペンなどを集めています。ただ、こうしたものを売っている店はなかなかありません。そういうニッチな需要に対して答えるネットショップなどがもしあれば、高値でも購入することはあると思います。
シマオ:どちらも、代替可能性が低くてニッチということですね。
「副業うつ」を防ぐには?
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シマオ:ただ、本業と副業の時間のバランスも難しいですよね。副業を頑張りすぎて、「副業うつ」になってしまう人もいるらしいです。
佐藤さん:それは明らかに副業に時間を費やしすぎです。現在いずみさんがしているように、本来通勤に使っていた平日2時間に収めているのは良い判断だと思います。
シマオ:でも、それだと副業収入はさほど増えないんじゃないですか?
佐藤さん:副業はあくまで副業ですから、欲張らないことです。いわゆるコンビニなどのアルバイトの時給が1000円として、副業で狙うのはその5割増しの1500円くらいが妥当でしょう。平日毎日やったとしても月6万円、それが天井だと考えてください。
シマオ:でも、月6万円なら結構稼げるという印象がありますね。
佐藤さん:ただ、まずは年収の5%を目指すくらいが一番いいバランスだと思います。私は外交官時代に、東京大学で半期1コマの授業を受け持っていました。それでも、講義ノートの作成から試験の採点までを含めるとそれくらいが限界だったと記憶しています。
シマオ:5%ということは、年収500万円なら年に25万円、月2万円くらいということか。それ以上やると、だんだんと本業に影響を来してしまうと。
佐藤さん:総合職や高度専門職の人は、基本的に会社が目一杯働かせることが多い。必然的に副業ができるような余白の時間はあまりないと思います。ですから、自分がどれだけ副業にかけられるのかはよく考えてください。
「パーパス」か「居心地」か
シマオ:最近、人事や転職の世界では、「パーパス(人生で取り組むべきテーマ)」がキーワードで、やりがいや意義のある働き方を求める人が増えているそうです。いずみさんは本業が好きとは言えないと仰っていますが、副業でそうした働き方を探すことについて、どう思われますか?
佐藤さん:自分の得意分野を活かした副業で上手くいくものがあれば、徐々にそちらへ比重を移していくのは良いと思います。ただ、本業の仕事が10年間あまり面白く感じられない、というのは少し心配です。
シマオ:なぜでしょうか?
佐藤さん:総合職であれば、普通は7、8年かけて高度なスキルを身につけ、10年目くらいは仕事が面白くなってくる時期のはずだからです。つまり、いずみさんはそうしたスキルを身につけられていないか、そもそもスキルが必要のない環境に置かれている可能性があります。
シマオ:このままではまずい、ということ……?
佐藤さん:繰り返しますが、このお便りからだけでは何とも言えません。ただ、もしそうであるなら、今からでも遅くないのでスキルを身につけられるジョブ型の仕事に移ることを考える必要があります。
シマオ:でも、僕も会社に入って10年くらいですが、少しマンネリを感じてしまうことがあります。
佐藤さん:そうであれば、人事などにちゃんと伝えることです。わざわざ転職せずとも、最近は異動希望の申告制度を持っている会社も増えていますし、リカレント教育も充実してきています。会社にとって手放したくない社員であれば、ある程度の希望は通るはずです。
シマオ:手放したくない……。自分がその対象に入っていなかったら、と思うとちょっと怖いです。
佐藤さん:自分が会社からどう見られているかの客観的な見極めは重要です。手放したくない社員なのか、そうでないのか。もしそうでないとしたら、転職や副業の手段を含め、どういう身の振り方をするのか。
シマオ:シビアですね……。
佐藤さん:もちろん、働き方は多様です。自分のやりがいや意義を見つけてハードに働いてもいいし、やりがいよりも「居心地」と給与のバランスの良いところで働いてもいい。本業か副業かだけでなく、そうした視点で自分に合う働き方を見つけることが大切です。
シマオ:単純にブームだからといって副業をするのではなく、自分がどう働くかという視点で考えてみる必要がありそうですね。いずみさん、ご参考になりましたでしょうか。
「佐藤優のお悩み哲学相談」、そろそろお別れのお時間です。引き続き読者の皆さんからのお悩みを募集していますので、こちらのページからどしどしお寄せください! 私生活のお悩み、仕事のお悩み、何でも構いません。
次回の相談は3月23日(水)に公開予定です。それではまた!
佐藤優:1960年東京都生まれ。作家、元外務省主任分析官。85年、同志社大学大学院神学研究科修了。外務省に入省し、在ロシア連邦日本国大使館に勤務。その後、本省国際情報局分析第一課で、主任分析官として対ロシア外交の最前線で活躍。2002年、背任と偽計業務妨害容疑で逮捕、起訴され、09年6月有罪確定。2013年6月に執行猶予期間を満了し、刑の言い渡しが効力を失った。現在は執筆や講演、寄稿などを通して積極的な言論活動を展開している。
(構成・高田秀樹、イラスト・iziz、編集・野田翔)