コロナ禍で「おうち時間」が増えて、住まいに関する考え方に変化が起きつつある。住宅業界はその変化を踏まえて事業展開しているが、住宅を買い慣れていない一般消費者は、業者の言葉を素直に信じていいのかどうか、一抹の不安を感じているだろう。
今、需要が伸びている土地とはどのようなものなのか。土地の仕入れをはじめ住宅のスペシャリストを多数擁する新興住宅メーカーのタカマツハウスに、本当のところを教えてもらった。
左:藤原元彦(ふじわら・もとひこ)氏/タカマツハウス代表取締役社長。右:田村盛雄氏/タカマツハウス取締役専務執行役員。
「コロナ禍の影響は確かにあります。毎日通勤しなくてよくなったこと、在宅で仕事する部屋が必要になったことから、郊外の戸建がよく売れています。また、コロナの感染リスクを嫌って共有スペースのあるマンションより戸建を選ぶ方もいます。我が社の分譲建売事業も急速に伸びています」
こう明かしてくれたのは、タカマツハウスの藤原元彦社長だ。タカマツハウスは、髙松建設が2019年に立ち上げた木造分譲住宅メーカー。設立されて間もないが、大手メーカーでエース級だった百戦錬磨の人材が集っており、住宅に関する知見や市場の情報はすでに蓄積されている。不動産売買のプロフェッショナルとして参画した取締役専務執行役員の田村盛雄氏は、直近の状況を次のように分析する。
「コロナ禍で郊外の物件に注目が集まっているのはメディアの取り上げ方の影響もあるでしょう。実際に郊外へと動いている人の多くは、賃貸物件に住んでいる若者や、拠点を移そうと考えたリタイア世代、セカンドハウスを購入した富裕層も含まれていると見ています。
一方で、都心部の土地は値上がりを続けています。もともとリーマンショック以降、緩やかな右肩上がりでしたが、ここ2年は上昇率がさらに大きくなった。都心のよりよい立地の物件の価値はより高まっていると言えるでしょう」(田村氏)
仕入れのプロが選ぶ「値崩れしない」立地
コロナ禍で都心部も郊外も住宅需要は高まっている。だが、一般的に日本は人口減少でさまざまな市場が縮小するといわれている。住宅の買い時や売り時も変わってきそうだが、住宅のプロである藤原社長の見方はこうだ。
「海外投資家から見ると、日本の不動産はまだ安い。20~30年先はわかりませんが、コロナが収束しても当面は上昇トレンドが続くでしょう。ただ、すべての土地が上がるわけではない点に注意が必要です。従来は都市部と地方の二極化が指摘されていましたが、これから起きるのは四極化です。
『東京の城南エリアのように、いつの時代も人気の一等地』『つくばエクスプレス(TX)沿線のように宅地開発で子育て世代が流入して、今後10数年は人気が続くエリア』『市況によって上がったり下がったりするエリア』『人口減少が顕著で、下がりやすいエリア』。検討している土地がどれに該当するのか、見極めることが大切です」(藤原氏)
エリア選択だけでなく、具体的な立地も重要だ。仕入れのプロ、田村氏は次のように力説する。
「駅から近いか、道路に面しているとしたら道路幅が広いか狭いか、さまざまな法令上の制限を受けることがあるのか、土地は傾斜しているのか、周囲にはどのような建物があるか。住宅はあとからリフォームできても、立地は何億円出しても変えられません。私たち仕入れのプロも、立地を重視して用地を購入しています。
ただ、非の打ち所がない満点の立地は簡単に市場に出ません。大切なのは、この魅力があれば他は目をつぶってもいいという強みがあるかどうか。何かしら強みがある土地は流動性が高く、ライフイベントを機に転居する必要が生じたときにも買い換えがスムーズに進むでしょう」(田村氏)
「フェア」な住宅メーカーを見抜く方法
問題は、素人にはどのエリアや立地が値崩れしにくいのかの判断がつきにくいことだろう。住宅購入を検討している消費者は、果たしてどのような住宅メーカーと付き合えばいいのだろうか。業界歴37年の藤原社長は「フェア(公正)かどうかがポイント」と話す。
「住宅業界の営業は実力主義。いい面もありますが『俺の腕で売ってみせる』と意気込むあまり、値崩れにつながる要素を隠す営業もいます。今はネットで現地の様子が分かるので、公正さに欠ける営業はすぐに見破られます。お客様側からすると、ネガティブな情報を伝えない、あるいは後出しで伝える会社は信用しないほうがいい」(藤原氏)
藤原社長がこう言い切るのは、タカマツハウスがフェアであることに自信を持っていることの裏返しでもある。
「社員は会社全体を映す鏡です。社員には、いつも『一流の人間になろう』『一流の人間は正々堂々と仕事をしている』と伝えています」(藤原氏)
実はフェアであることが求められるのは販売の場面だけではない。土地の仕入れで相対するのは不動産の仲介会社。相手も歴戦のプロであり、小手先のテクニックは通用しない。誠実にぶつかってこそ信頼され、いい立地の土地を販売してくれる。田村氏は、こんなエピソードを紹介してくれた。
「ある営業担当が目を付けた土地がありました。立地はいいのですが、競合が仲介会社に提示した価格は私たちより数十万円高かった。お客様に提供する価格を考えるとたとえ数十万円でも妥協はできず、会社としては購入断念の判断を下さざるを得ません。
しかし、営業担当は先方に何度も足を運んでこまめにコミュニケーションをするとともにタカマツハウスに任せていただきたいという熱意を伝えて信頼を勝ち取り、競合より低い価格で仕入れに成功しました。おそらく正直さやひたむきさが伝わって、『タカマツハウスと長く付き合いたい』と思ってもらえたのでしょう」(田村氏)
もう一つ、興味深いエビソードを紹介しよう。新人の営業担当が大手仲介会社に足繁く通ったところ、新人の働きぶりを見た大手仲介会社の社員から「タカマツハウスで働きたい」と逆アプローチがあり、この春から参画することになった。その社員は転職を余儀なくされていたわけではなく、純粋にタカマツハウスに魅力を感じたという。フェアであることが土地だけではなく人も惹きつけたのである。
売上が1年で10倍。急成長するタカマツハウス
タカマツハウスのサイト上では志を同じくする仲間として社員が紹介されている。
現在、タカマツハウスには同社に魅力を感じた人材が続々と集まっている。会社設立2年目の2021年4月は営業担当が28人だったが、2022年3月末には一気に58人まで倍増。大手で活躍中だったエキスパートから業界未経験者で伸びしろがある社員まで、人材は多種多様だ。
経験の浅い社員に対する教育・バックアップの一例だが、2021年宅地建物取引士試験に7名が合格している。これは、通常業務を行いながら勉強を進め、会社側でも講習を開くなどバックアップした結果だという。
バックグラウンドが異なる人材が集まる組織は、一般的にベクトルを合わせることに苦労すると言われる。しかし、タカマツハウスにそうした心配は無用だろう。2021年にフィロソフィーとカルチャーを明文化。トップダウンではなく、社員からヒアリングして策定したが、4つある行動規範の一つは「私たちはフェアである」。フェアであることは、すでにカルチャーとして現場に根づいている。
住宅メーカーとして成長するためには、優れた立地の仕入れが不可欠で、仕入れを増やすには営業担当の増員が欠かせない。タカマツハウスも営業担当の増員とともに、実質的な営業初年度に8億4400万円、2年目約80億円と驚異的なスピードで伸ばしてきた。来季は売上200億円を見込み、仕入れは既に目途がついているという。最後に藤原社長は次のように決意を語ってくれた。
「2024年度には営業担当を180人まで増やして関東圏を網羅して、売上は500億円まで伸ばす計画です。タカマツハウスには、会社と一緒に自分も成長できる機会があります。スペシャリストから未経験者まで、自分は一流の人間になりたいというビジョンを持っている人に、ぜひ仲間になってもらいたいですね」(藤原氏)