セールスフォースのマーク・ベニオフCEO。今回提供開始したツールの仕様から、約3兆円を投じたSlack買収の狙いが垣間見える。
REUTERS/Denis Balibouse
二酸化炭素(CO2)排出量を可視化する「CO2見える化」サービスの導入が相次ぐなか、顧客関係管理システム最大手のセールスフォース(Salesforce)が2022年3月9日、「Net Zero Cloud(ネット・ゼロ・クラウド)」の提供を日本で開始した。
社内で目覚ましい効果を発揮
セールスフォースは、環境問題や気候危機対策に熱心なマーク・ベニオフ最高経営責任者(CEO)のもと、2021年に100%再生可能エネルギー化を達成するなど、サステナブルな社会の実現に向けた取り組みを進めてきた。
セールスフォースは「サステナブルで場所を選ばない柔軟な勤務モデル」をはじめ、事業活動のさまざまなシーンのCO2排出削減について、シミュレーションしながら取り組んでいる。
出所:「Salesforceの気候変動アクションプラン」より抜粋
今回日本で提供を開始したNet Zero Cloudはもともと、セールスフォースが自社のCO2削減を進めるために開発した、サプライチェーン全体のCO2排出状況を一元管理できる「見える化」ツールだった。
同社はこのツールを使って事業活動全体を検証。調達先と協力してCO2排出量を算出し、最も大きな削減効果が期待できる領域を特定するなどして改善を進めてきた。
そうして2021年、セールスフォースはサプライチェーン全体で、温室効果ガス排出量のネット・ゼロ(温室効果ガス排出量から吸収量を差し引いてゼロにした状態)を達成した。
また、この「社内向けツール」によって生まれた効果は、単なるCO2排出量の削減だけではなかった。
「サステナブルで場所を選ばない柔軟な勤務モデル」や、インフラの活用、出張、サプライヤー(調達先)の支援といったさまざまな側面で、CO2をできるだけ排出しない事業活動へと移行、業務の最適化を進めてきた。
このツールが一般にも通用すると考えたセールスフォースは2019年9月、「Sustainability Cloud(サステナビリティ・クラウド)」として発表。同年末に正式リリースしたところ、世界中で大きな反響を呼んだ。
サステナビリティクラウド部門のゼネラルマネージャー、アリ・アレクサンダー氏は2021年、Business Insiderに対し「引き合いが殺到している」と述べている。
Slackでパートナー企業とリアルタイム共有も
今回日本で提供を開始したNet Zero Cloudは、Sustainability Cloudをバージョンアップし、機能を強化したものだ。日本に先駆け2022年2月に提供開始した英語版は、すでに12カ国12業種で導入されているという。
Net Zero Cloudで行える環境データ管理のイメージ。
出所:セールスフォース発表資料
利用料は、基本の「Starter(スターター)」バージョンが1組織あたり年間576万円(税別)、廃棄物管理など複数の機能を追加した「Growth(グロース)」バージョンは1組織あたり年間2520万円(税別)としている。
Net Zero Cloudには、CO2排出量の算出以外にもさまざまな機能が備わっている。
細かい分析・レポートはもちろん、シミュレーションによる効率化などの提案も行えるため、経営の判断材料として活用することが可能だ。
さらに、CO2吸収源としてカウントできる世界の森林プロジェクトを推奨リストから選んだり、排出量が多くなりがちな「移動」を効率化させるためにコストも含めたシミュレーションを行ったりと、具体的な「次のアクション」をサポートする機能も充実している。
特筆すべきは、パートナー企業とのコミュニケーションにSlackを使っていることだ。
ツールに組み込まれたSlackを使うことで、外部の調達先ともリアルタイムで進捗状況などを共有できる。 例えば、CO2削減スコアの悪いサプライヤーとSlackでディスカッションしたり、アンケートを自動生成したりすることも可能だ。
セールスフォースは2020年、277億ドル(約2兆9000億円、当時)もの巨額を投じてSlackを買収したが、今回のNet Zero Cloudのリリースで、その狙いの片鱗が見えてきたと言えそうだ。
ここ1〜2年で、いわゆる「CO2見える化」サービスを提供する企業が相次いでいるが、Net Zero Cloudは他社製品と比べてどこが優れているのか。
同社のNet Zero Cloudプロダクトマネージャー、細谷優希氏は記者会見でBusiness Insider Japanに対し次のように語った。
「柔軟性やカスタマイズ性に非常に優れているため、お客さまのニーズに合わせた業務設計や運用ができます。また、グローバル展開しているお客さまも、(国内でのみ展開する企業と同様に)地域や国を超えて活用することが可能。操作性の面でも、直感的に、分かりやすい分析の見せ方、グラフィカルなデータへの加工が行えます」(細谷氏)
セールスフォースはこれまで、顧客やパートナー企業からのフィードバックをもとに年3回のバージョンアップを重ねており、今後も順次、機能の充実化を図っていく考えだ。
(文・湯田陽子)