スマートフォン上のTwitterのロゴ。
REUTERS/Dado Ruvic/Illustration
Twitterの創業者、ジャック・ドーシーが2021年12月にCEOの職から退くことを発表し、会社のチーフ・テクノロジー・オフィサーだったパラグ・アグラワル(Parag Agrawal)にバトンを渡すことになった。
ワシントン・ポストが入手した全社メールによれば、最初の1週間でアグラワルはすでに大幅な組織変更によって会社を変えようとしていた。その結果、エンジニアリング部門のヘッドだったマイケル・モンターノ(Michael Montano)とチーフ・デザイン・オフィサーのダントリー・デイビス(Dantley Davis)は実質2021年末で退職となった。
Twitterの新CEO、パラグ・アグラワル。
アグラワルがトップに就任したのは、2021年2月に設定された売上目標を達成するため、Twitterが収益性の高い製品を試し始めていた重要なタイミングだった。最近Twitterは、Blueという有料サブスクリプションサービス、Clubhouseのような音声でのチャットルーム、クリエイターがコンテンツへのアクセスを有料で提供することができるチケット制スペースなどの機能を導入したばかりだ。また今回は、デマ情報やヘイトスピーチへの対応を迫るプレッシャーが強まる中での組織変更でもあった。
「Twitterは今、岐路に立っています。アグラワルには、SNS間の激しい競争の真っただ中、規制にもうまく対応しながら、会社の成長も回復させなくてはならないという、多くの課題がこれから待っています」と言うのは、ウェドブッシュ・セキュリティーズ(Wedbush Securities)でエクイティ・リサーチ担当マネージング・ディレクターを務めるダニエル・アイブス(Daniel Ives)だ。
ドーシーは自分の退職を伝えるレターの中で、「アグラワルは立派なCEOになると心の底から信じている」とアグラワルのリーダーシップへの信頼を表明している。しかし、この発表があった日にTwitterの株価は4.1%下落しており、投資家を説得するには至らなかったようだ。
アグラワルはすでに新CEOとして自分のカラーを出し始めている。2月に2人目の子どもが生まれたら数週間育休を取る予定だと言っていたアグラワルだが、3月になって、オフィスを再開し、出勤したい人は誰でもオフィスで仕事ができるようになるということも発表した。
「自分が一番生産的でクリエイティブになれると感じるところで仕事をしてほしい。これは永久に在宅勤務でもかまわないということだ。毎日オフィスに来たいならそれでもいい。週の何日かは出勤して、他の日は在宅でももちろんかまわない。実際、ほとんどの人がそう希望している」とアグラワルはツイートしている。
Insiderは、ウォール街のアナリスト、危機管理広報の専門家、レピュテーション・マネジメントのコンサルタント、フリーランスクリエイターに、アグラワルのCEO就任後最初の数カ月において、成功を左右する優先事項は何かについて聞いた。
事業への集中
ドーシーはその食生活(1日1食)、外見(魔法使いのようなヒゲ)、セルフケアの習慣(氷風呂とサウナ)などでメディアからかなり注目されていた。
一方、アグラワルは知名度の低い人物だったが、それは、Facebookとの比較で見劣りしてしまうTwitterのユーザー数と収入を伸ばすことに専念するにはいいことなのかもしれない。ウォールストリート・ジャーナルによれば、Facebookのアクティブユーザーが2021年11月時点で29億人だった一方、Twitterの1日のアクティブユーザーは2021年末までに2億1600万人になると予想されていた。Twitterの2021年第3四半期の売上は12億8000万ドル(約1500億円、1ドル=117円換算)だったが、Facebookは290億ドル(約3兆4000億円)だった。
「シリコンバレーが第2世代のリーダーたちの時代に入ろうとしている今、『何を食べ、何を食べず、何を飲み、何を吸っているか』という議論に煩わされずに物事をやり遂げるのは、知名度の低い幹部たちになりつつある。シリコンバレーの有名人たちの時代は終わりつつある」と、危機対応の広報を行うレヴィック(Levick)の会長兼CEOであるリチャード・レヴィック(Richard Levick)は言う。
同様に、アイブスも「ドーシーはTwitterというプラットフォームについてさまざまな議論を招くような人物だったが、今の話題は次の成長段階は何か、そこにどう到達するのか、ということにシフトしている」と話す。
プロダクトの刷新
Twitterは分かりづらいと批判するユーザーもいる。ザ・ニューヨーカーに寄せた記事でカイル・チェイカ(Kyle Chayka)は、「2021年のTwitterのデザイン変更はアプリを使いにくくした」と書いている。「フォローする」ボタンの見た目が変わったために、多くのユーザーが誤って他のアカウントをアンフォローしてしまったからだ。
投資家の信頼を回復するために、アグラワルはプロダクト刷新計画、つまり「消費者と投資家にとってのTwitterの可能性のすべて」を見せる必要があると言うのは、レピュテーション・マネジメント・コンサルタンツ(Reputation Management Consultants)の会長兼CEOのエリック・シファー(Eric Schiffer)だ。
「つまり、プロダクトを今よりはるかに使いやすくし、それをアグラワルが投資家に対して詳しく説明するということです」と言うシファーは、アグラワルはそれにはうってつけのポジションにいる人物だと話す。
「彼は、CTOでありプロダクトを主にやってきた役員です。そのことは、ユーザー体験やプロダクトの今後の計画を今より高いレベルに持っていき、収益機会を最大化する能力を証明するものとして、彼の強みになるでしょう」
SNSコンサルタントのマット・ナヴァラ(Matt Navarra)は、「トップ記事(Top Articles)」やツイート送信を遅らせる機能を持つBlueについては評価しており、こうした新機能を今後Twitterがどうパッケージングするのか楽しみにしているという。
ナヴァラは「収益化を考えないとならないクリエイター、またフリーランスとして、Twitterに費やす時間をマネタイズし、見ている人からより多くの価値を引き出すことができる機能やクリエイティブ・ツールの追加があればTwitterにもっと時間を使おうと思う」と話す。
社員の士気を高める
経営陣に対する社員の信頼を回復し、社員にとっての仕事のしやすさを改善することも、アグラワルに託された課題だ。
2021年8月にはニューヨーク・タイムズが、Twitterの社内の雰囲気が悪化していることを記事にした。Twitterの人事部門のトップであるジェニファー・クリスティ(Jennifer Christie)は同紙に対し、複数のチームから、職場に心理的安全性がないという声が挙がったと話している。
レヴィックは、社員アンケートの「悪い結果は気にせず」そして「社員に自分を知ってもらうことに集中」した方がいいだろうと言う。また、「不透明さに対する恐れを和らげる」には社内コミュニケーションを継続的に行うのがいいとも話す。
優先事項は他にも
それ以外に優先すべき重要事項として、Twitter上でのデマ情報への対応がある。特にトランプ前大統領が2024年の大統領選に出馬した場合や新たに議会で公聴会が行われた場合に備えることが必要だ。
シファーは言う。「創業者が自分の創り上げた王国のトップの座を、カリスマ性がそこまで強くないプロダクト重視のエンジニアに譲ったら業績がさらによくなった、という会社の歴史の1ページに、アグラワルの話も加わることになるはずです」
(翻訳・田原真梨子、編集・大門小百合)