核融合炉内部の様子。
Tokamak Energy YouTubeチャンネルより
世界で加熱する核融合炉の研究開発競争において、大きなマイルストーンとなる出来事が発表された。
イギリスの核融合ベンチャー、トカマク・エナジー(Tokamaku Energy)は3月10日、民間企業としては初めて、「プラズマ温度」を核融合の商用炉を実現する上で最低限必要な水準とされる1億度に到達させたことを発表した。
1億度の壁を民間で初めて突破
核融合炉を実現するには、燃料とされる水素原子を、電子と原子核が分離したプラズマ状態にした上で衝突させて「核融合反応」を起こさなければならない。核融合反応を起こすための目安とされている温度が、プラズマ温度「1億度」だ。
トカマク・エナジーが開発している核融合炉の実験装置ST40は、「球状トカマク型」と呼ばれるタイプの実験装置。トカマク型と呼ばれるタイプの核融合炉は、核融合炉としては比較的一般的で、国際プロジェクトであるフランスで建設中の国際熱核融合実験炉「ITER」や、日本の量子科学技術研究開発機構が持つ、実験装置「JT-60SA」などもこのタイプだ。
これまで、国の研究機関レベルでは、プラズマ温度を1億度以上にすることが実現されていたが、民間企業として実現した事例は今回が初めて。また、トカマク・エナジーが開発しているコンパクトな球状のトカマク型核融合に関する研究においても、今回の成果が最高温度になるという。
トカマク・エナジーのプレスリリースによると、「わずか5年、5000万ポンド(約76億円)で、今回のマイルストーンが達成されたことになる」としてる。
トカマク・エナジーのクリス・ケルソルCEO。
Tokamak Energy YouTubeチャンネルより
トカマクエナジーのCEOであるクリス・ケルソル(Chris Kelsall)は、プレスリリースの中で
「私たちは、安全で二酸化炭素を排出しない新しいエネルギー源を世界に提供することに一歩近づいた、この画期的な成果を達成できたことを誇りに思います」
とその喜びを語っている。
トカマク・エナジーでは、ST40に高温超伝導(HTS)磁石を組み合わせた実験装置ST-HTSを2020年代半ばに運転開始予定。この実験データは、2030年代初頭に運転開始を目指している世界初の核融合パイロットプラントの設計に生かされることになるという。
(文・三ツ村崇志)