インフルエンサーは自営業だ。支えてくれる上司も人事部門もない。そのため、人によっては、従来型の職場なら得られるやる気や業務指示といったものをうらやましく思うこともあるようだ。
実はいまインフルエンサーの中には、上司や人事がいないことで生じるギャップを埋めようと、コーチを雇う人が出てきている。
コーチが支援する内容としては、プレゼン用原稿の準備、ブランド企業のメールアドレスのリスト作成、SNSのトレンドに関するデータなどマーケティング用リソース関連が多い。しかしInsiderがコーチたちに取材したところ、やる気を保つためのサポートが、インフルエンサーたちの最大のニーズの一つのようだ。
23歳のクレア・ヘンリック(Claire Henrick)はInstagramで3万フォロワーを持ち、この1年ファッションインフルエンサーを本業としている。そのかたわら、副業で活動しているのがメンター業だ。
週1回の面談を行い、メンター料は月480ドル(約5万6000円、1ドル=117円換算)。これには初回の面談費120ドル(約1万4000円)も含まれる。毎週面談している顧客は現在6人おり、顧客が「ちょっと話したい」「ベストプラクティスについて質問したい」と思った際はテキストメッセージでも対応する。
「毎日投稿するために誰かにお尻を叩いてほしい人もいますし、フォロワーを獲得したい、安定して閲覧件数を稼ぎたい、という人もいます」とヘンリックは言う。しかしメンターとして一番難しいのは、顧客であるインフルエンサーのモチベーション維持だという。
「インフルエンサーはやるべきことがたくさんあるので、相当な努力が必要です。気が乗らないときでもなんとかして撮影しなければいけないわけですが、そういうスキルセットがないクライアントもいるんです。そういう時は、一緒になって長期的に活動していくための戦略を作る必要があります」
ヘンリックは頻繁に顧客に連絡し、調子はどうか聞くという。背中を押してほしそうな人に対しては毎日リマインダーを設定し、「今日はまだ投稿されていないようですが、コンテンツ作りのアイデアが必要でしょうか?」といったメッセージも送るという。
「インフルエンサーって孤独なの」
インフルエンサー向けのタレント事務所やマネジメント会社も存在し、似たようなコーチングをしてくれるだけでなく、交渉や案件獲得も行ってくれる。ただし、タレントのマネージャーは10~20%のコミッションを取るのが通常だ。またタレント・事務所の双方とも、多くの場合は長期的な付き合いを前提にしている。コーチングはそれとは異なり、クライアントのニーズに応じてセッションごとに、または月額で料金を支払うのが基本だ。
25歳のカイラ・ワラゼック(Kayla Walazek)は自身のSNSアカウントをもっと伸ばそうと取り組んでいる最中だ。いまはボストンでバーテンダーの仕事を本業にしているが、いずれはライフスタイル分野のインフルエンサー業に専念したいと考えている。インフルエンサーのコーチは数人知っており、自分もコーチを依頼しようか検討中だという。
目星をつけているコーチの料金は6週間で250ドル(約2万9000円)。なかには500ドル(約5万9000円)以上の料金を取る人もいるので、比較的払いやすい金額だという。
業界関係者によると、こうしたコーチのセッション1回当たりの料金は、40〜120ドル(約4700〜1万4000円)程度という。ワラゼックは言う。
「支えてくれる友達はたくさんいるけど、友達じゃこの業界のことは分からないので。『今日は調子どう? 分かってると思うけど、メールは送り続けないとだめだよ』と言ってくれるコーチがいたらいいな、インフルエンサーの活動についてカジュアルに相談できる人がいたらな、とか、気持ちの面でサポートしてくれる人がいたらいいなって思うんですよね」
インフルエンサーとしての知名度がまだそれほど大きくないと、ブランド側から断られることも多いという。
「心が折れそうになることもありますね」とワラゼックは言う。
マネージャーもおらず事務所にも所属していないインフルエンサーに、コーチが「気持ちの面でサポート」してくれるなら、それは非常に価値があることだとワラゼックは言う。
「人事みたいなものですね。仕事で何かあったら頼れる存在。インフルエンサー界にはそのあたりが圧倒的に足りてなくて。もっときちんとした構造が必要だと思う」
TikTok / @claireliz_
無料アドバイスを投稿するインフルエンサーも
SNS上には、インフルエンサー向けのアドバイスやモチベーションが上がる投稿もある。一つのジャンルと言えるほどだ。
ヘンリック自身もTikTokで、インフルエンサーとしての活動を始めたばかりの人向けに無料で見られる投稿をしており、フォロワー数が増えている。例えばInstagramのリール投稿の場合、「リールのタブに投稿するべきか、それともメインのアカウントページに投稿したほうがいいのか」という内容の動画や、やる気の出るおなじないなども載せている。
Instagramで1万5000フォロワーを持つライフスタイル・インフルエンサーのリヴ・リース(Liv Reese)は言う。
「インフルエンサーたちがオンラインで経験をシェアしてくれたり、活動を続けるためのヒントをくれたりするのは、ある意味インフルエンサー専用のヘルプデスクみたいなものです。24時間365日助けてくれるわけではありませんけどね」
また、そのような形の支援だと、仕事と私生活の境界が曖昧になってしまう。冒頭のヘンリックは、インフルエンサーとしての自分と、野心あるインフルエンサーたちのコーチとしての自分、インターネットを楽しむ個人としての自分の区別がつきにくく感じることがあるという。
「常にSNSを見ていると、境界線が引けなくなってつらくなることがあるんですよ。SNSを見れば仕事のことを考えてしまうから。
SNSをスクロールしていればつい通知も確認しちゃうじゃないですか。真夜中にメッセージが来れば、携帯を見てるついでに返信しちゃうと思うし。だから今はとにかく、ワークライフバランスを整えなくちゃと思ってます」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)