Courtesy of Avery Heilbron
エイブリー・ハイルブロン(Avery Heilbron)は、幼い頃からお金を貯めることの大切さを理解していた。
「我が家では華美なものを買ったり、浪費したりすることはありませんでした。私も質素であることにかけては常に意識してきたつもりです」
しかし、彼は貯蓄した資金をどう運用するかについては知らなかった。
コルビー・カレッジ(Colby College)で数学と統計を学んだハイルブロンは、2018年の卒業後、データアナリストの仕事に就いた。資産運用について独学で勉強を始めた彼は、仕事の後や週末には、パーソナルファイナンスの本に目を通すのが習慣になった。
彼はこうした文献に触発され、お金をもっと有効に働かせる方法を探した。目を通した文献では、経済的自由という考え方が紹介されていたが、その点について、ハイルブロンは既に達成している。
「理論的には、現在の投資によって、経済的自由を手に入れることができました。いつ仕事を辞めても生活できます」
ハイルブロンは27歳にして、合計3軒の不動産を所有している。ボストンに2軒、現在住んでいるノースカロライナ州ダーラムに1軒だ。Insiderは、事実確認のために住宅ローン書類も確認した。そして彼は現在、収入の80%以上を貯金しているという。
しかし彼にとっては、「FIRE」(経済的自立、早期退職)というライフスタイルは、「FIRO」(経済的自立、選択的退職)ほど魅力的なものではなかった。
「会社勤め自体は辞めたいですけど……。辞めたら辞めたで、次は何をすればいいのか分かりませんからね。さすがに一日中自宅の椅子に座っているという訳にもいきませんし」
ハイルブロンは現在もデータアナリストとしてフルタイムで働いており、2021年には税引き前で9万5000ドル(約1270万円、1ドル=134円換算)の高給を得ている。加えて、保有する不動産やさまざまな副業で年間10万ドル(約1340万円)以上の収入を得ている。
そんなハイルブロンのお金に対する考え方を変え、現在の彼を形作った2冊を紹介しよう。
1. 『Retire on Real Estate』
不動産投資家のカイ・アンダーソン(Kai Anderson)が書いた『Retire on Real Estate』(未訳:不動産でリタイアしよう)は、ハイルブロンを不動産所有へと向かわせることになった著作である。
「この本を読んで、不動産を投資や老後の生活の糧にするという考えに目覚めました」
ハイルブロンは、できるだけ早く家を買うという目標を立て、給料の中から最大限を貯金するようになった。アンダーソンのガイドを読み、不動産関連の人気ポッドキャスト「ビガーポケット(BiggerPockets)」のエピソードを聞く中で、「ハウスハッキング」と呼ばれる手法を知った。
住み始めたボストンの物件を自らリフォームするハイルブロン。
Courtesy of Avery Heilbron
ハウスハッキングとは、物件を購入して賃貸に出し、同時に自身もその一室に住むことで住宅ローンの支払いを相殺する戦略のことだ。
彼が購入した最初の物件は、ボストン郊外にある52万5000ドル(約7000万円)の二世帯用住宅である。FHA(連邦住宅局)から融資を受けることで、頭金は3.5%(約1万8000ドル、約240万円)で済み、毎月3300ドル(44万円)を返済することになった。
FHAローンは購入物件を「主たる住居」にすることを条件に定めているため、彼はガールフレンドと一緒に1階の2ベッドルームのユニットに引っ越した。そして、1階にさらにルームメイトを見つけ、2階はファミリー向けに貸し出した。
ガールフレンド、ルームメイト、そして2階に引っ越してきたファミリーの家賃を合わせると、ハイルブロンの家賃収入は月3600ドル(約48万円)にもなった。つまり、彼は家賃を払わずタダで生活していただけでなく、住宅ローン3300ドル(44万円)を払っても、毎月300ドル(約4万円)の利益を得ていたのだ。
ハイルブロンは、現在もまだ不動産ポートフォリオを構築中だが、ボストンにある2つの不動産からすでに年間10万ドル以上の収益を上げていると、YouTubeの動画で説明している。
長期的な資産形成を考えるなら、「不動産が100%ベストだと思う」と彼は語る。
「始めるには時間と忍耐、そしてある程度の貯蓄が必要です。でも、正しく行えばキャッシュフローを生み出すことができるし、長期的な視点を持っていれば将来的に物件の価値も上がります。さらに、多くの税制優遇も受けられるのです」
2. 『Set for Life』
スコット・トレンチ(Scott Trench)による『Set for Life』(未訳:一生安泰の資産運用)は、経済的に自由になるために、収入の50%以上を貯蓄し、かつ収入を増やす方法を説いた一冊だ。
「本のタイトルが『Set for Life』なのには理由があります。経済的に自分の人生をセットアップすることを謳っていて、自分の人生をどう組み立てていくか、その青写真を描いているからです」
彼はトレンチの節約術を使い、コーヒーなどの小さな買い物の節約を気にするよりも、「ビッグ3」(住居費、交通費、食費)の出費を管理することに集中した。そのおかげで、彼は給料の大半を貯金することができている。ハウスハッキングがその最たる例だ。
また、収入を増やす方法も見つけた。彼は不動産以外でも、パーソナルコーチング、YouTubeやTikTokなどのソーシャルメディアからも副収入を得ており、合わせて20万人近いフォロワーがいる。
ただ、トレンチの哲学は時に厳格に過ぎると思うこともあるとハイルブロンは指摘する。
「例えば、運転中なら音楽は時間の無駄だから絶対に聴かず、読書をするかオーディオブックを聴くように、とトレンチは書いています」
しかし、その著者の厳しさこそがハイルブロンには響いたのだという。
「トレンチの想定読者は、会社勤めを始めたばかりで、初任給が中央値あるいは平均値の人たちです。それでも、貯蓄に真摯に取り組みながら、お金を増やすために投資を行い、経済的自由を手に入れようと努力する人たちを応援しているのです」
(編集・野田翔)