Reuters
中国の清華大学教授が開発した科学技術情報プラットフォーム「AMiner」が、人工知能(AI)分野でグローバル級の実績が認められる女性研究者リストを公表した。
掲載されたのは19カ国で研究に従事する262人。活動拠点はアメリカが161人と61.5%を占める一方、国籍別では中国(香港、マカオ、台湾含む)が71人だった。AMinerは中国人女性研究者の海外流出を課題としながらも、国外で研鑽を重ねるメリットも認めた。
【活動拠点】アメリカが6割占める
このリストは、AMiner過去10年のAI分野でのトップレベルの学術誌・学会での発表、また引用件数などをもとに、研究者をアルゴリズムでスコア化。上位の研究者から女性を抽出し、262人を掲載した。
活動拠点(国)別ではアメリカが最多で、中国が23人、イギリスが14人と続いた。
(注)トップ10(同数含む)のみを記載。
(出所)AMinerの公表結果をもとに筆者作成。
日本からも大阪大の松原靖子准教授と、青山学院大学のホサイン・タヘラ(Tahera Hossain)博士研究員氏の2人がリスト入りした。
AMinerサイトより。ホサイン・タヘラ氏は現在は青山学院大学に所属。
大阪大の公式サイトによると松原氏は「時系列ビッグデータ解析、将来予測」を専門としている。
【所属】グーグル17人、メタとマイクロソフトが11人
所属別で見ると、AI分野の女性研究者を最も多く抱えているのはグーグルで17人だった。上位10組織のうち8組織はアメリカにあり、うち半分が企業。残りは中国の清華大学(5人)とフランス国立情報学自動制御研究所(INRIA、4人)だった。
中国にはバイトダンスやアリババ、バイドゥなどAIでGAFAと肩を並べるメガIT企業があるが、トップレベルの女性はアメリカの企業に流れていることが浮き彫りとなった。
(出所)AMinerの公表結果をもとに筆者作成。
中国を拠点にする23人にフォーカスすると彼女たちは16組織に所属し、内訳は15大学、1企業となっている。
唯一の企業は、ソフトバンク・ビジョン・ファンドが大株主でアリババグループも出資する商湯科技(センスタイム)。画像をAIで認識・分析する技術やシステムを開発するセンスタイムは2021年12月末に香港で上場したが、米財務省が同社への証券投資を禁じる制裁を公表した影響で、上場延期も経験した。
最近でも、「顔認証技術が少数民族ウイグル族の監視に使われ、人権侵害の疑いがある」として、米財務省からアメリカ人による証券投資を禁じる中国企業のリストに加えられ、米中貿易戦争の渦中の1社となっている。
【国籍】中国人が71人、日本人は1人
AMinerは研究者を国籍別には分類していないが、中国人だけは抽出し、71人とカウントした(名前で判断する限り、日本人は松原氏1人のみのようだ)。
(出所)AMinerの公表結果をもとに筆者作成。
中国人71人のうち、中国で研究しているのは23人で、48人が海外を拠点にする。内訳は39人がアメリカ、3人がオーストラリア、2人がカナダ、イギリス、フランス、ドイツ、シンガポールに各1人となっている。
(出所)AMinerの公表結果をもとに筆者作成。
AMinerは研究者スコアから、「スコアが高いほど海外を選び、中国に残っているのは比較的低スコアの研究者」と指摘し、大きな課題と捉えている。中国で研究に従事する23人は全員中国本土の大学を卒業しており、うち17人が海外で研究、仕事の経験がある。
AMinerは中国人の女性研究者が多い一方で、研究者を受け入れる基盤がアメリカに集中していること、また、優秀な女性研究者がアメリカを選ぶ傾向があることから、「中国は女性研究者を支援する環境が劣っている」と問題視し、育児なども含めて女性のキャリア支援の強化を提言した。
AMinerは2020年には、世界で影響のあるAI研究者2000人のリスト「AI2000」を公開している。同リストでも、2000人中1800人がアメリカの組織に所属しており、日本で活動する研究者は5人しかいなかった(日本人で分類すると10人以上いた)。
また、AI2000に掲載された研究者のうち女性は約1割だった。
AI2000も今回の女性研究者リストも、リスト作成者は「AI先進国と言われる中国だが、まだまだアメリカに遠く及ばない」と指摘しているが、日本人にとっては日本の影の薄さも気になるところである。
浦上早苗: 経済ジャーナリスト、法政大学MBA実務家講師、英語・中国語翻訳者。早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社(12年半)を経て、中国・大連に国費博士留学(経営学)および少数民族向けの大学で講師のため6年滞在。著書に『新型コロナ VS 中国14億人』。未婚の母歴13年、42歳にして子連れ初婚