アリアナ・ハフィントンは、2007年に燃え尽き症候群で倒れ、頬骨を骨折した。
Nicholas Hunt/Getty Images for Klick, Inc.
- アリアナ・ハフィントンは、コールセンターの従業員がストレスを少なく感じられる新しい方法を開発した。
- 呼吸法や引用句を唱える、犬の写真などを使った60~90秒間の「リセット」だ。
- これは燃え尽き症候群の影響に対処するのではなく予防法だと、ハフィントンはInsiderに語った。
画面のまわりを動く拍動する円にあわせて、前後に揺れる。息を吸って、ゆっくり吐くように指示される。1分後、穏やかな女性の声がこうささやく。
「あなたはリセットされました」
これはアリアナ・ハフィントン(Arianna Huffington)の最新の燃え尽き症候群(バーンアウト)予防法だ。呼吸法やストレッチ、心を動かす言葉などが含まれた60秒から90秒のマイクロインターベンションで、仕事の中で徐々に蓄積されるストレスのサイクルを断ち切ることを目的としている。
ハフィントンは、メディア企業「ハフィントンポスト(現ハフポスト)」を創業し、ウーバーなどの役員を務めたことで知られている。
彼女は、2007年にオーバーワークによってデスクに倒れて頬骨を折って以来、バーンアウト問題について声をあげてきた。2016年には、健康コンサルティング企業スライブ・グローバル(Thrive Global)を設立している。
彼女の新しい方法「スライブ・リセット(Thrive Reset)」は、クラウドソフトウェア企業のジェネシス(Genesys)と共同開発したもので、コールセンターで働く労働者を対象としている。
「ストレスはどんな仕事でも避けられるものではない。だがワークフローに60秒から90秒の休憩を組み込むことでストレスの蓄積を回避できる」と、ハフィントンはInsiderに語った。
このテクニックは、スタンフォード大学のソーシャルサイエンティストで、『Tiny Habits: The Small Changes that Change Everything』の著者であるB.J.フォッグ(B.J. Fogg)の研究にもとづいたものだという。
雇用主は、このソフトウェアを起動させる「きっかけ」を決められる。例えば、長時間通話した後や、上司へ電話しなければならないとき、休みなく電話に対応し続けているときなどだ。そして従業員には、画面やイヤホンから知らされる。
ハフィントンは、彼女自身のリセットの例を挙げた。子どもや犬の写真、さらに仏教の僧侶、ペマ・チョドロン(Pema Chodron)の言葉などをイメージするという。だが彼女は、リセットには人それぞれにいくつかの方法があり、そこから選べばいいと言う。
その方法が個人のワークフローに組み込まれていれば簡単に実行できると、ハフィントンはInsiderに話した。また、これは予防的に設計されているという。
「多くの対応は、何かが起きた後に行われる。それに対処するよりも、まず先を見越してバーンアウトを防ぐことが我々の目的だ」とハフィントンは述べている。
さらにこの方法は、フォーチュン企業10社で試験的に導入され、ストレスレベルの軽減と離職率の低下に繋がったと、彼女は付け加えた。
実際にやってみると、少しぎこちない感じもしたが、特にストレスを感じていない時期にコールセンターではないところで行ったからかもしれない。
健康のためのツールは問題になることがある
過去数年間、マーケットには、燃え尽き症候群を解消し、疲れた人々を助けることをうたう商品や創業者であふれている。
「大退職」につながったパンデミックで、企業がロックダウンの影響や労働者のメンタルヘルスのネガティブなサイクルに気づき、この傾向が加速したように思える。
だが派手なハイテクは注意力が散漫になるという懸念もある。別の研究では、マインドフルネスは罪悪感を抑制し、人間関係に悪影響があることが示唆されている。
「戦術的幸福」は、休息について考えさせることなどで、ストレスやバーンアウトへの対処に役立つ。だが、それだけでは解決にならないと、アライアンス・マンチェスター・ビジネス・スクールの組織心理学教授、キャリー・クーパー(Cary Cooper)はInsiderに語った。
「組織は複雑な問題に対して、単純な解決策を求める傾向がある」とクーパー教授は言う。
「多くの人は、バーンアウトを引き起こす本質的な問題よりも、マインドフルネスな日や玩具、無料の寿司のように簡単なことに目を向ける」
クーパー教授によると、それらは「あればいいが、必須ではない」という。バーンアウトやストレスの本質的な原因に目を向けない限り、問題は解消されない。それは、細かいことまで口を出す上司や、さばききれない仕事量といった組織的な問題で生まれるものだ。
ハフィントンは同意見だ。それは二者択一の状況ではない、と彼女は言う。彼女のツールは、他の取り組みを補完するために作られた、労働者への小さなきっかけを作るためのものだ。
「燃え尽き症候群のサイクルを断ち切ることができれば、従業員の仕事を辞めたい思う気持ちに大きな影響を与えることになるだろう」
(翻訳:Makiko Sato、編集:Toshihiko Inoue)