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ロシアのウクライナ侵攻により原油価格が急上昇している。エネルギー調査会社のコモディティ市場の専門家は、この高騰は当面続くと警告している。
ライスタッド・エナジー(Rystad Energy)の石油市場責任者ビョルナー・トンハウゲン(Bjørnar Tonhaugen)は最新の研究報告書で、「原油価格は2022年夏には1バレル240ドルに達する可能性がある。これは過去数十年で最大のエネルギー危機であり、非常に重要なエネルギー資源の供給にかつてないほど大きな影響を及ぼす」と記している。
Insiderは、トンハウゲンによる最新の原油価格の見通しと、1バレル240ドルに達した場合に起こりうる、世界的な景気後退のシナリオをまとめた。
原油価格の見通し
バイデン米大統領は2022年3月8日、ロシア産の原油と天然ガスの輸入を禁止すると発表した。バンク・オブ・アメリカ(Bank of America)は、この制裁措置により原油価格が史上最高値となる200ドルにまで押し上げられると警告してきた。
トンハウゲンも価格の高騰には同意見で、次のように指摘する。
「原油市場のボラティリティは極度に高まっており、欧米からのロシア産エネルギー資源に対する厳しい制裁措置により供給がさらに滞るとの予想から、価格が急騰している。
仮に、西側諸国の多くがアメリカと足並みをそろえてロシア産原油の禁輸に踏み切れば、原油市場で日量430万バレルの供給不足が生じることになる。だがロシアに代わる供給源をただちに確保するのは難しい」
IEA(国際エネルギー機関)によると、ロシアはアメリカ、サウジアラビアに次ぐ世界第3位の産油国で、世界の総供給量の約1割を占めている。
トンハウゲンの分析によれば、ロシアを世界の原油市場から締め出せば供給不足が生じ、価格は1バレル240ドル(2022年3月11日時点の107ドルから2倍超の水準)まで上昇するという。
「原油価格は、需要が抑制される水準まで上昇を続けるだろう。そのピークは1バレル当たり240ドルとなる可能性がある」とトンハウゲンは見ている。
不況の懸念
これほどの原油の高騰は、アメリカで40年ぶりの高水準である7.9%のインフレをさらに加速させることになる。バイデン大統領は、アメリカ国民は2022年後半にガソリン価格の「プーチンによる値上げ」を実感することになると警告している。
トンハウゲンは、原油の高騰が世界経済の成長にも打撃を与え、景気後退を引き起こしかねないと指摘している。
「幸いにも、これは最も確率の高いシナリオではないが、金融関係者や専門家、企業の経営陣は、現在の状況を踏まえ物価上昇に備えておくべきである。原油価格の上昇幅が大きいほど、世界経済が2022年第4四半期に早くもリセッションに突入する可能性が高まる」との見方を示す。
リセッションとは、通常2四半期以上連続して経済活動が縮小することを指す。これは、国内総生産(GDP)の変化や失業率などさまざまな月例指標を用いて判定される。
現在、その最悪のシナリオを懸念しているのはトンハウゲンだけではない。Insiderは2022年3月2日付の記事で、同じように景気後退の懸念を表明している著名な専門家7人を紹介している。
歴史の教訓
さらにトンハウゲンは、現在の状況はすでに1990年以来最悪の石油危機であると付言している。
1990年、イラクがクウェートに侵攻した際、両国分を合わせて日量400万バレル以上の供給が途絶えた。原油価格は3カ月の間に1バレル21ドルから46ドルへ急騰した。
「西側諸国がロシア産原油の輸入を禁止、敬遠、あるいは他の調達手段で代替するならば、価格は今後数カ月で再び倍増するだろう。1990年のイラクによるクウェート侵攻以来、石油市場にとって最悪の潜在的危機だ」とトンハウゲンは警鐘を鳴らしている。
(翻訳・西村敦子、編集・常盤亜由子)