今回はこちらの応募フォームからお寄せいただいた、読者の方からの「部下のマネジメント」に関するご相談にお答えします。
4月からマネジメントを担う皆さんも、ヒントにしていただければと思います。
お気持ち、よく分かります。
私自身、リクルート勤務時代にマネジャーを経験しました。希望したわけではなく、マネジャーへの昇進を打診された時、最初は「嫌です」と拒否しました。当時は企業の採用支援を行う法人営業だったのですが、クライアントと求職者に向き合うことだけに集中したかったからです。
しかし、上司が言うには「人を育てることは人にしかできない。人を育てることそのものが社会貢献だ」「『マネジャーをやれ』と言った俺に対して、いつか感謝する日が来るはずだ」と……。その言葉に背中を押され、マネジャー昇進を受け入れました。
結論として、上司の予言は当たりました。私はマネジャーを務めることで生み出される価値の大きさを実感したのです。
今も私は、「マネジメントやりたくない」という皆さんに「マネジメント、いいものだよ!」と強くお勧めしています。そして、「では、一度はチャレンジしてみます」と昇進を受け入れた方々は、その後「やってよかった」「意外と自分に向いていた」という声を寄せてくださいます。
マネジャーになって得られるメリット・価値とは、次のようなものだと、私は感じています。
- 一メンバーでいるよりも大きな裁量権が持てるので、自分がやりたいことを実現しやすい
- 生産性がアップし、自分が目指している世界がより大きなスケールで実現できる
- 部下の成長を支援し実感したときには、何物にも代えがたい喜びを感じられる
- 部下たちを応援することで、後々部下たちが自分の「応援団」になってくれる
これを実現するために、私がチームメンバーたちにしてきたことをご紹介します。
「何のためにやるか」を認識すると、自走力が高まる
私自身、新入社員だけを集めた部署のマネジャーを務めたことがあります。
最初のトレーニング期間は、本当に手間がかかりますよね。
お客様へのお礼のメール送信一つとっても、メンバーが書いた文面をチェックし、修正を指示。「自分で書いたほうが早い!」と思ってしまいます。
メンバーの主体性を育てようと考えるマネジャーはなおさらです。一方的に指示するのではなく、まずメンバーに考えさせ、それに対して明確な答えは出さず、ヒントを与えて自分で気づかせる——そのような育成スタイルをとっていると、さらに時間とエネルギーを要します。
ただ、その時期を乗り越えて、メンバーが成長した姿を見ること、そしてチームの生産性がぐんぐん上がり、自分が指示しなくても業績が積み上がっていく経験をすると、マネジメントの面白さにハマります。
とはいえ、「いつまで経っても主体性を持ってくれない」と嘆く声もよく聞こえてきます。
どうすれば、メンバーが「自律」「自走」できるようになるのでしょうか。
最近、「パーパス経営」という言葉をよく聞くと思います。
「パーパス」とは、自社の存在意義・社会に提供する価値を明確化することですが、個人も「自分のパーパスとは何か」を認識することで、仕事へのスタンスが大きく変わります。
ですから私も、新しいチームが編成された時、新しいメンバーが入ってきた時などには、丸1日かけて「パーパスの認識・共有」に取り組みました。
つまりは、「自分の仕事によって誰がどのようにハッピーになるか」を考え、自身の仕事の価値を腹落ちさせるということです。
「BtoBtoC」のビジネスモデルであれば、「自分の仕事によってクライアント企業がどのようにハッピーになり、それによってその先の最終ユーザーがどのようにハッピーになるか」を理解できるようにします。
例えば、私のチームの場合は人材サービスを扱う法人営業部隊でしたから、お客様から「いい人材を紹介してくれてありがとう」と感謝されるだけでなく、転職した人の人生がより良く変わることも伝えていました。もちろん、私自身の体験エピソードも交えて。
ちなみに、私が医療機器メーカーの人事部から「営業の士気が低い。退職者も出ている」という悩みを伺った際、「医療機器を使っている患者さんに直接話を聴く機会を設けてはいかがですか」と提案したことがあります。
その会社は、営業メンバーによる患者さんの訪問・インタビューを実施。営業の方々は、自分たちが普段医療機関に向けて販売している医療機器が患者さんにどのように使われ、どのように喜ばれているか、生の声を聴いて涙を流されたそうです。そこから、意識も行動もがらりと変わったといいます。
例えば、管理部門職などの方であっても、自身の仕事が自社にどのような影響を与え、自社のお客様への価値提供につながるかをイメージすることが大切です。
このように、自身の仕事の価値を認識すること=パーパスを持つことで、それを軸に自身の行動を決め、迷った時は立ち返ることができます。
つまり「自律」「自走」の力が高まるのです。
さて、ここで見つめ直してください。
マネジャーであるあなた自身は、自分の「パーパス」が見えているでしょうか? もし定まっていないのであれば、自分のパーパスを考えるところから始めてみませんか。
あなたは誰にどのように喜ばれ、どのような世界を実現させたいですか。それを認識すると、マネジメントポジションに就くメリットも実感できると思います。
自分1人でやるよりも、チームメンバーと一緒に取り組むことで「足し算」を超えた「掛け算」の効果が生まれ、より大きなスケールで目標を実現できますから。
この連載でも、「パーパスの見つけ方」をお話ししていますので、参考にしてみてください。
ただし、自身のパーパスを見つめ直した結果、「1人でやるほうが効果が高い」と判断したなら、マネジャーを辞退してスペシャリストの道を歩む選択をしてもいいと思います。
「現場同行」「教育担当」で成長を促進
メンバーへの対応に話を戻しましょう。
「パーパス」を話し合い、頭で理解したら、そこに「実体験」が伴ってくることが大切です。
私の場合は営業職でしたから、「営業同行」をよくしていました。新人が、私とお客様のやりとりを見ていて、「この間、もりちさん(私のニックネームです)が言っていたのはこれか」「ここにつながっているのか」と実感すると、ようやく腹落ちします。
1カ月ほど同行していると、そうしたシーンを何回か見せられます。
ですから、どのような職種であっても、お客様や取引先、他部門の人とつながる現場での「バリューチェーン」を見せることが大切だと思います。
もう一つ、私はメンバーに直で指導するだけでなく、間に「教育担当」を置いていました。
教育担当は新人に対し、毎日30分程度の1on1で、1日の振り返りをします。その場では「何をやったか」でなく、「どう感じたか」「疑問に思ったことはあるか」などにフォーカスします。
私は教育担当からの報告を受け、週1回の1on1を実施。教育担当が感じた印象・私が感じた印象をふまえ、その人の感覚を感じ取り、必要に応じて軌道修正を行いました。
たとえチームメンバーが少数でも、教育担当は必ずつけました。「1年先輩」程度の差であっても、教育担当を任せました。
なぜなら、教育を担当するメンバーも成長するからです。
このようなマネジメントの結果、メンバーは「自律」「自走」の力を早期に身につけてくれました。私のチームは社内で売上トップを記録し、MVG(Most Valuable Group)も受賞。私自身は、マネジメントの喜びを実感したのです。
メンバーは、誰もがものすごい力を持っています。モチベーションが低く見えたとしても、それは表現の方法が分からないか、過去の何らかの経験の影響によってフタをしてしまっているだけ。
自分のパーパスに気づいた時、強力なパワーを発揮して勝手に走るようになるものです。
そんな1人ひとりの可能性を信じて任せれば、チームとして大きな成果を挙げられますし、マネジメントのやりがいも見出せると思います。
※この記事は2022年3月21日初出です。
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森本千賀子:獨協大学外国語学部卒業後、リクルート人材センター(現リクルートキャリア)入社。転職エージェントとして幅広い企業に対し人材戦略コンサルティング、採用支援サポートを手がけ実績多数。リクルート在籍時に、個人事業主としてまた2017年3月には株式会社morichを設立し複業を実践。現在も、NPOの理事や社外取締役、顧問など10数枚の名刺を持ちながらパラレルキャリアを体現。2012年NHK「プロフェッショナル〜仕事の流儀〜」に出演。『成功する転職』『無敵の転職』など著書多数。2男の母の顔も持つ。