企業の利用が増えている、知見者とのマッチングサービス。企業はいま、どんな情報を集めているのか?
撮影:今村拓馬
ビジネスを取り巻く環境が目まぐるしく変化するなか、最新のビジネス領域を攻める企業は外部の人材が持つ「知見」に注目しているようだ。
有識者へのインタビューで、知見・アドバイスを求める企業も増えている。
専門的な知識を持つ人材と知見を求める企業をつなぐ「エキスパート・ネットワーク・サービス(ENS)」の市場も拡大している。ある調査によると、市場規模は毎年15%以上成長し、2021年は19億ドルを突破したという試算もある。
日本ではスポットコンサルのマッチングプラットフォーム「ビザスク」がサービスを拡大させている。2022年1月時点で、法人顧客は1000を突破し、知見を提供するアドバイザーは約16万5000人を超えた(ビザスクが買収したアメリカ企業コールマンとの連携では国内外45万人超)。
注目される「知見者へのインタビュー」で、いま企業が注目しているのはどんな分野か。
ビザスクが発表した「2021年にビジネス相談のニーズが増えたランキング」をみると、急激に需要が伸びた分野の1位が「脱炭素」。以降は2位「DX」、3位「クラウドファンディング」、4位「電気自動車」と続いた。
出典:ビザスクのリリース
これらの注目分野で活躍するアドバイザーたちに、企業はどんな相談を寄せているのか?
副業として「脱炭素」「DX」のアドバイザーをしている2人の人物に聞いた。
エネルギー業界で複数社勤務「波が来ている」
「数年前までは3カ月に1回しか相談はなかったのですが、今では多い時には月5~6件は依頼が入ります。脱炭素の波が来ていると感じます」
エネルギー関連企業に勤めるAさん(40)さんは、脱炭素に関するアドバイザーを務めている。
Aさんは工学部出身。エネルギー業界の複数の企業で働いた経験があり、これまで化石燃料や新電力事業、スマードグリッド(次世代送配電網)事業にも関わってきた。
現在の勤務先では、事業戦略の立案に関わる立場。本業ではエネルギー分野における国内外の他社動向の調査は欠かさないといい、その知見がスポットコンサルにいきている。
Aさんは2015年頃にアドバイザー登録をしたが、依頼が急増したのは、政府が「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と表明した2020年10月以降のことだった。
政府は燃料アンモニア産業など14の重点目標を設定。この流れを受けて企業の関心が一気に高まったという。
相談での収入「月に20万超」も
太陽光発電など、再生可能エネルギーへの関心が高まっている。
REUTERS/Yuka Obayashi
「相談される内容は千差万別。脱炭素の新事業を始めようとする企画段階での相談もありますし、どの技術を取り入れるかという、より具体的な選定についての相談もあります。もちろん、本業の秘匿(ひとく)情報に当たる情報は絶対に出しません」
ビザスクでは、依頼企業とアドバイザーのマッチングが成立した時点で、依頼企業にだけアドバイザーの名前や職歴を開示している。
一方アドバイザー側は、所属している企業の業績や戦略、業務手順、製品の非公開情報、守秘義務を負う情報などは提供してはいけないと定められている。
Aさんの場合、現状はコンサル企業からの依頼が8割だという。コンサルの担当者が、クライアントのメーカーなどの要望に応えるため、情報収集の目的でAさんに相談することが多いようだ。
「バイオマスから太陽光、グリーン水素、アンモニアなどあらゆる分野の質問を受けます。
相談された内容の一部は、インターネット等で情報を補強してインタビューに臨みます。スポットコンサルを通して、知識の幅が広がっており、本業にもいかせる投資効果が高い副業だと感じています」
本業の勤務もリモートがメインになったため、スポットコンサルを受けやすくなり、そこから得られる収入も増えた。
「1時間で4~5万円の収入になるので、スポットコンサルでの収入は多い月で20万を超えることもあります。2018年頃は単価も1時間3万円台だったので、単価が上がったことも大きいです」
社外の人と議論「面白い」
ただ、Aさんは「今は流行の分野なので、今後もニーズが続くかどうかは分らない。まだ家計にインパクトのある額を稼げているわけでもない」と冷静だ。
副業として収入を得るためというより、むしろ「楽しめる業務」としてスポットコンサルを捉えているという。
「社内とは違う議論の場は刺激的です。社内でみると、私が関わっている事業領域は必ずしも収益の柱とは言えず、注目度が高いわけではありません。なので外の企業の方たちと、脱炭素の将来性について話すのは面白い」
ロシアによるウクライナ侵攻により、原油市場の先物価格が大幅に値上がりするなど、エネルギー政策は世界情勢に大きく左右される。
「脱炭素の取り組みはヨーロッパ諸国の政府の動きや企業の動きも注視しないと、変化する論点についていけません。本業でもスポットコンサルでも、市場の最先端の情報に触れていたいと思っています」
金融機関でDXなどのコンサル業務
DX分野のアドバイザリーを担当しているBさんは、北陸の金融機関に勤務している(写真はイメージです)。
撮影:今村拓馬
「脱炭素」に続いて、ビジネス相談のニーズが伸びたのが「DX」分野だ。
「バックオフィス系SaaSベンチャーなどから、『どうすればサービスを地方にも普及させられるか』という相談が増えています」
DX分野のアドバイザーであるBさん(37)は、北陸地区の金融機関に勤務。本業の金融機関では地元の中小企業のDXニーズを実現するためのコンサル事業に関わっている。
「金融機関には、若い社長に代替わりした企業などで、DXを進めたいという相談が増えています。
ただDXと言っても内実は『FAXやノートに手書きだった注文管理を効率的にやりたい』とか、『勤怠管理サービスを入れたいけれどGoogleで探しても数が多くてどれがいいかわからない』という段階での相談も多いです」
Bさんはもともと、都内のスタートアップでの勤務経験があり、SaaSシステムの仕組みにも通じている。
本業でのコンサル事業に役立てるため、月に数件は都内のベンチャー企業と情報交換も欠かさないという。
ベンチャーが提供するサービスと、中小企業との中間に立つBさんには、「中小企業の実態を知りたい」というスポットコンサルの依頼が多いという。
「私たちのような地元の金融機関は、何千、何万の顧客網があります。ビザスクでは、ベンチャー企業から地方での普及の方法を聞かれたり、もっと直接的に『金融機関と提携して販路拡大につなげるには何が必要か』など相談されたりします」
ほかには投資先を検討している金融関連企業やコンサルからの相談もある。
「中小企業の実態を知っているという期待から、投資を検討する企業のサービスについて『現場のユーザーはそのサービスをどう評価しているのか』について聞かれたこともあります。またコンサルからの相談は、企業が開発したツールについて、中小企業のニーズに合っているのかどうかの評価を求められました」
地方「DX需要がなくなることはない」
地方のDX需要は高いという。
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Bさんは2019年頃にビザスクのアドバイザー登録をしたものの、DX分野への相談が増えたのは2020年春のコロナ後だったと語る。
コロナ前にはほぼゼロだった依頼が、2021年には8件に増え、現在は依頼がさらに増えているという。
「金融機関で働いていて感じるのは、DXを進めたい中小企業は多い。地方のDX需要がなくならない限り、そこを狙ったベンダーやコンサルからの、相談依頼もなくならないと思っています」
スポットコンサルは、本業とは別に自分のスキルを役立てられる場とも感じている。
「企業に依頼してコンサルを受けると数か月で何百万円の費用が必要になることもある。それよりも安く相談できるという立ち位置で、アドバイスを続けて行ければと思っています」
(文・横山耕太郎)