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中国のロシア軍事支援「可能性薄」と言える理由。根深い中ロ“相互不信”理解のカギは「多極化」と専門家

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2019年6月、ロシアの首都モスクワで首脳会談および各種文書の署名式に臨んだ中国の習近平国家主席(左)とプーチン大統領。このときは「史上最高水準の両国関係」「親愛なる友」など蜜月ぶりが際立ったが……。

REUTERS/Evgenia Novozhenina

ロシアのウクライナ軍事侵攻が始まった2月24日から、早くも3週間が過ぎようとしている。

ロシア軍の足踏みが続くなか、アメリカと中国の高官は3月14日、ローマで約7時間にわたる長時間会談を行った。

停戦の実現に向けた両大国の協力合意に期待が集まったが、米中関係とウクライナ情勢をめぐる激しい応酬の場となり、対話の継続以外の合意には至らなかった。

会談はロシアの侵攻開始前から予定されていたもので、バイデン米政権はその前に、ロシアが中国に軍事支援を求めているとの情報をメディアにリークした模様だ。

会談では、アメリカのサリバン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)が、中国外交担当トップの楊潔篪(ヤン・ジエチー)共産党政治局員に対して、ロシアへの軍事・経済支援など、進行中の金融・経済制裁の効果を損なう行動は「重大な結果を招く」と警告した。

それに対し、楊氏は「ロシアとウクライナの交渉ができるだけ早く実質的な成果を得られるよう、国際社会は共同で支持すべきだ」と語る一方、ロシアへの軍事支援の可能性については「ウソの情報を流し、中国をおとしめている」と反論した。

中国国営新華社通信(3月15日付)はこの会談について、2021年11月に行われた米中首脳会談で台湾問題をめぐって両国が展開した主張の大筋を引用しつつ、バイデン大統領が約束した「一つの中国」政策の順守を、口約束ではなく実際の行動で示すよう楊氏が迫ったと伝えている。

中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報(3月15日付)も「圧力をかけるだけでは協力を期待できない」と題した社説を掲載し、ロシアへの軍事支援問題について、「ニセ情報や脅迫を交渉の有利な条件として求めるのは、アメリカの古いやり口」と皮肉り、アメリカは「大国として信頼できると感じさせる具体的な行動をとるべき」として、台湾問題での誠実な対応を迫った。

中国とロシアの相互不信は根深い

ロシア軍は首都キエフを目前に攻めあぐねている。西側諸国がウクライナに供与した携行式の対戦車兵器が想定以上に成果を挙げていることや、ロシア軍の士気の低さと準備不足などがその理由として指摘されている。

ロシアのプーチン大統領はウクライナのゼレンスキー大統領に対し、同国の(1)中立化(2)非武装化(3)クリミア併合と東部2地区についてロシア主権の承認、の3点を要求している。

プーチン大統領はキエフ陥落とゼレンスキー政権の崩壊を達成するまで、ウクライナとの和平交渉を本気で進めるつもりはないとみられる。

ロシアとウクライナの両方と良好な関係にある中国が仲介役を買って出るとすれば、そのあたりが決着してからになるだろう。アメリカに対抗するため、中国とロシアが軍事同盟化するとみるのは正しくないというのが筆者の考えだ。

過去の寄稿(1月18日付)でも指摘したように、中国の外交関係者は筆者に対し、「中国は自然災害に見舞われた1960年代に、同盟関係にあったソ連が技術者を引き揚げたのを忘れていない。中国はあらゆる同盟に反対しており、代わってパートナーシップ協定を結んでいる」と説明する。

今回のウクライナ侵攻についても、中国は事前にロシアから侵攻を知らされていなかったとみられる。

その点を踏まえ、中国の国際政治専門家は「中国とロシアの相互不信は周囲が考えるよりはるかに根深い。中国が支援するとしても、食料などの人道支援や、(ロシアが制裁で締め出された)ドル建て決済を人民元建ての決済に切り替える程度ではないか」と筆者に語る。

「新たな冷戦時代」という深刻な誤解

今回の軍事侵攻は冷戦時代に逆戻りしたような印象を与えた。アメリカの国際政治学者イアン・ブレマーは「新冷戦」と位置づけている(朝日新聞デジタル、3月9日付)。

しかし、そうした見方は、ポスト冷戦期をアメリカ一極支配の時代とみる「幻影」にとらわれた認識ではないかと筆者は考えている。

実際には、ポスト冷戦期から国際秩序の多極化は始まっていたのであり、米同時多発テロ(2001年9月11日)後にアメリカが始めた対テロ戦争にロシアと中国が賛同したため、多極化の進展が見えにくくなっていただけだろう。

この国際社会の変容については、過去の寄稿(2021年7月27日)で元国際司法裁判所長の小和田恒氏(元外務次官)の視点を紹介したので参照していただきたい。

そのように多極化が進んだ世界の現状を伺い知れるのは、ロシアのウクライナ侵攻について国連緊急特別会合が採択した非難決議(3月2日)の投票行動だ。

国連加盟193カ国のうち141カ国が賛成、反対はロシアを含む5カ国だけだったが、注目すべきはむしろ棄権した35カ国で、中国、インド、ブラジル、南アフリカが顔を揃えた。(決議反対の)ロシアを加えれば、著しい経済成長を遂げた新興国5カ国、いわゆる「BRICS」が勢揃いということになる。

なかでも、中国とロシア、インドは他国に依存することなく自己完結できる大国だ。外交の「カード」のひとつなどと軽視すれば、思わぬ反撃に遭うだろう。

バイデン大統領は政権発足当初、ロシアを対中戦略のカウンターバランス(均衡勢力)として利用しようとした。日本でも安倍政権時代に、ロシアを対中抑止に利用しようとする狙いがみられた。

しかし、ウクライナ危機でそれらの狙いは完全に破たんした。ロシアやインドのようなそれぞれ国際政治の一極をなす大国を、外交カードに利用しようというのは無理筋というものだ。

第三次世界大戦の可能性

そのように多極化した世界の構図からウクライナ危機をみると、より緊迫した実相が浮かび上がってくる。

プーチン大統領は侵攻後間もなく、核戦力を「特別態勢」に移すよう命じた。さらに、廃炉作業中のチェルノブイリ原発を占拠し、欧州最大のザポロジエ原発にも攻撃を加えた。

バイデン政権は、ロシアがウクライナで化学兵器を使用する可能性まで指摘している。

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3月15日、ウクライナの首都キエフで会談した同国ゼレンスキー大統領(左)とポーランドなど東欧3カ国首脳。戦線が北大西洋条約機構(NATO)加盟国の領土に及ぶ危険は残されている。

Ukrainian Presidential Press Service/Handout via REUTERS

一方、ウクライナと国境を接し170万人超の避難者を受け入れているポーランドは、同国保有のロシア製「ミグ29」戦闘機をウクライナに軍事支援の一環として供与し、その穴埋めに別途アメリカから戦闘機の供与を受けたいと提案した。

米国防総省は結果的に提案を拒否したものの、一時はその可能性を真剣に検討した模様だ。

もし実現していれば、ロシアは北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるポーランドを攻撃していた可能性もあり(もちろん今後もその可能性は残る)、そうなれば戦線は欧州全域に広がることになる。

バイデン大統領が以前から警告している通り、ロシア軍がNATO加盟国に部隊を展開すれば、第三次世界大戦にエスカレートする危険すらある。

多極化は世界秩序を決めるリーダーがいない「無極化」と同義だ。日米同盟を金科玉条にする日本政府は、多極化した世界を直視した上で、現在の外交姿勢を自問自答する必要があるのではないか。

前出のブレマー氏は、アメリカに安全保障を託す日本など同盟国に対しこう警告する。

「アメリカは主要7カ国(G7)のなかで最も政治的に分断され、機能不全に陥っている。アメリカに依存していると、ロシアに直面しているNATOの同盟国にとっても、中国に直面しているアジアの同盟国にとっても、より多くの不確実性を生み出す」

(文・岡田充

※記事中の固有名詞は筆者の表現を用いています


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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