Visaプリペイドカードの発行やアプリを開発するKyashは、新たな資金調達を発表した。
出典:Kyash
キャッシュレス決済ベンチャーの「Kyash」は3月17日、国内外の事業会社やベンチャーキャピタルから約49億円の資金調達(シリーズD、後期の資金調達)を発表した。これによりKyashの累計調達額は約128億円となった。
出資をしたのはシリーズCまでに出資をした事業者を含めた国内外の13社だ。
代表的な顔ぶれには、今回が初の出資となる日本郵政グループの投資ファンド・JPインベストメントと、ジャック・ドーシー(Jack Dorsey)氏が創業し、2021年12月にSquareから社名変更した決済企業Blockも含まれる。
ジャック・ドーシー創業のBlockがKyashに出資
今回Kyashに出資したのは、JPインベストメント(日本)、Block(アメリカ)、Greyhound Capital(イギリス)、Altos Ventures(アメリカ)、Goodwater Capital(アメリカ)、StepStone Group(アメリカ)、Yitu Capital(香港)、SMBC日興証券(日本)、三井住友海上キャピタル(日本)、AGキャピタル(日本)、ジャフコグループ(日本)、SMBCベンチャーキャピタル(日本)、W ventures(日本)。
出典:Kyash
特にBlockにとって、開示されている限りアジアで初の出資先がKyashになったという事実には、キャッシュレス業界的にも注目すべき動きだ。
2021年、グーグルによるプリン買収(7月発表)やペイパルによるペイディ買収(9月発表)など、日本での事業展開のために海外事業者が日本のベンチャー企業を買収する例が続いた。
もちろん、今回のBlockによるKyashへの出資は、買収という規模ではない。
ただ、Blockは2021年8月にオーストラリアの後払い決済サービス「Afterpay」を290億ドル(約3兆1800億円)で買収すると発表済みだ。日本でも何らかの新事業のために、Kyashの持つ技術や資産を活用する可能性も考えられる。
Business Insider Japanは、Kyash広報にBlockとの今後の提携について質問したが「今後の取り組みについては、弊社からお答えしかねます」と回答を避けた。
Blockの日本法人であるSquare株式会社の広報も「ノーコメント」としている。
東京五輪にも採用された法人送金機能が評価に
Kyashの鷹取真一社長。
撮影:小林優多郎
Kyash社長の鷹取真一氏は、今回の資金調達にあたり「(2020年8月に法人事業を売却して)1番最初の資金調達。コンシューマー向けに完全にコミットした意思決定に対する評価でもあると思っている」とコメント。
KyashはVisaプリペイドカードの発行から、決済に関わる処理、フロントエンドとなるアプリ開発まで自社で行う技術ポートフォリオが強みとなっている。ただ、鷹取氏は、決済以外にも「Kyash法人送金サービス」も評価につながった、と説明する。
Kyash法人送金サービスとは、企業がギグワーカーなどの個人に対して報酬や売上金を支払う際の利用が想定されるサービスのこと。受け取り側にリアルタイムに近い形で、報酬をKyashの残高として送金でき、そのままVisa加盟店で使うか、登録した銀行口座やセブンATMで出金できる(出金手数料は220円/回)。
2021年に開催された東京五輪のボランティア(写真はイメージです)。
REUTERS
Kyash法人送金サービスは、正式サービスを開始した2021年12月にはKDDIの関連会社のフードデリバリー「menu」が配達員向けの報酬支払いとして導入。また、正式サービス前には2021年夏に開催された「東京オリンピック・パラリンピック」でのボランティア向けの交通費相当(1日1000円)の支払いにも利用されていた。
報酬を受け取る個人は、Kyashへのユーザー登録や、必要な場合は物理カードの発行などやや手間もかかるが(東京2020大会ではカードが配布された)、事業者側は比較的少額な報酬を既存の口座振替を使うよりリアルタイムかつ多くの頻度、安価な手数料で送金できるメリットがある。
単なるVisaプリペイドの決済サービスとしてだけではなく「自分のお金を使う、団体や企業から受け取れる、そういう箱になっていくという期待感」(鷹取氏)が、今回の評価につながった形だ。
競合が増える中、上場も「選択肢の1つとして残っている」
Kyashのアプリと物理カード。
撮影:小林優多郎
とはいえ、国内のキャッシュレス業界全体を見渡すと、Kyashの先行きは手放しで順風満帆とは言いきれない。
主に2つの理由がある。
1つは、前出のグーグルとペイパルら海外勢の日本での本格展開も控え、さらにKyash同様のプリペイドカードやアプリを提供する「Revolut」や「Wise(旧TransferWise)」「MIXI M(旧6gram)」「B/43(スマートバンク)」などの競合も国内外で登場していること。
さらにもう1つは、Kyash自身の不安要素だ。
Kyashは2020年12月に、残高に対して年利1%の利息をつけるサービス「残高利息」を発表したが、サービス開始直前に撤回している。
当時、「サービス名称及び内容を見直す」としていたが、2022年3月17日時点でもKyashアプリ内で運用をしたり、利息がつくサービスは始まっていない(Kyashは決済や送金をする上で必要な「資金移動業」の許認可は受けているが、銀行免許や金融商品取引業者の認可は取得していない)。
Kyashの「イマすぐ入金」のイメージ。
出典:Kyash
また、2021年7月から提供中の後払いサービス「イマすぐ入金」もSNSなどで批判を受けている。同様の手法をとっているのはKyashだけではないが、定められている固定の手数料が、申込金額によっては高額な「実質年率」に相当するという声がある。
鷹取氏は「(日本には)潜在市場はかなりある」と話し、今後もコンシューマー向けの「デジタルバンク」としての道を進むとしている。
今回調達した約49億円は「さらに強いチームをつくっていくための投資」「ユーザーに正しくKyashのサービスを知ってもらうための投資」(いずれも鷹取氏)に充てる計画。
今後の上場計画について質問したが、鷹取氏は具体的な計画の明言を避けた。
ただし、「(上場はコンシューマー向けのサービスを展開する上で)認知と社会的信頼という意味で大きなメリットがある」とし、「選択肢の1つとしては残っている」と語っていた。
(文、撮影・小林優多郎)
(2022年3月17日 10:35更新)Square株式会社広報のコメントを追記しました。