米金融大手ゴールドマン・サックスは最新の調査レポートで、ウクライナ危機が世界のサプライチェーン(供給網)に与える影響を予測している。
Brendan McDermid/Reuters
先行き見通しの立たないウクライナ紛争は世界の株式市場に甚大な影響をもたらし、コモディティ(商品)価格を高騰させ、投資家たちを金などの安全資産に走らせている。
経済への影響も大きく、多くのストラテジストが景気後退入りの可能性に懸念を表明している。
米金融大手ゴールドマン・サックスのストラテジストらは、最近の調査レポート(3月14日付)のなかで、ロシアのウクライナ軍事侵攻が世界経済にもたらす「3大リスク」を挙げている。
同社エコノミストのユリア・ツェストコヴァ、ダニエル・ミロが率いるチームは、同レポートで次のように指摘する。
「世界全体としてみたとき、ロシアとウクライナからの総輸入額はさほど大きなものではありませんが、コモディティを両国に依存している国は少なくありません。しかも、新型コロナの世界的流行により、グローバルサプライチェーン(世界の供給網)が重大な障害に直面するさなかです」
ゴールドマン・サックスはウクライナ危機に関する最新の調査で、3つのセクターにおける供給不足に注目している。いずれも、想定外のイベント発生によるグローバルサプライチェーンの混乱が、生産減と価格上昇を引き起こした結果だ。
[業界1]石油・ガス
アメリカとイギリスは3月8日、ロシアへの追加制裁措置として、同国産原油および天然ガスの輸入を禁止すると発表。それを受けて、石油メジャーの英BPと英蘭ロイヤル・ダッチ・シェルは、ロシアで保有する資源開発プロジェクトからの撤退を決めた。
国際エネルギー機関(IEA)によれば、ロシアはアメリカとサウジアラビアに次ぐ世界第3位の産油国で、世界の総供給量の約11%を占める。長期にわたる供給途絶となれば、原油価格の上昇につながる可能性が高い。
ただし、IEA臨時閣僚理事会が供給不足の懸念に対応するため石油備蓄の協調放出に合意した(3月1日)ことが報じられ、原油先物価格は北海ブレント、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)ともに1バレル100ドルを下回る水準まで下落した(3月17日時点)。
「アメリカとイギリスによる禁輸措置に加え、ロシア側も特定品目の輸出を禁じる可能性(編集部注:3月10日に通信機器や自動車など200品目の輸出禁止を発表)があり、原油輸出の停止はさらに拡大・長期化するおそれがあります。
ロシア産ウラル原油のブレント価格スプレッドは歴史的な水準まで下落(=両原油の価格差の拡大)、ロシア港湾における石油タンカー入出港も減少しており、ロシア産原油を回避する動きと市場への供給減少がすでに起きていることが見てとれます」
ゴールドマン・サックスのコモディティストラテジストらは、今後数カ月にかけて原油価格は1バレル135ドルに達すると予測している。そうした展開になった場合、インフレ率は0.5%上昇し、世界の国内総生産(GDP)成長率は0.4%低下するという。
[業界2・3]自動車と金属
自動車産業もウクライナ危機の直撃を受ける可能性が高い。
米先物取引仲介ADMインベスターサービスによれば、ロシアとウクライナはともにパラジウム(=触媒や電極に使われるレアメタルの一種)、プラチナ、鉄鋼の主要輸出国。また、ロシアはアルミニウムの世界生産量シェアの4%を占める。いずれも自動車産業にとっては不可欠の金属だ。
「ロシアとウクライナからの自動車部品輸入はすでに減少し、欧州の自動車メーカーの一部は減産に着手しています。現在進行中の部品供給寸断や混乱により、影響を受ける工場の3月の自動車生産台数は6万台近く減少するおそれがあります」
韓国・現代自動車(ヒュンダイ)と仏ルノーについては、すでにロシア工場の稼働停止や生産の一部休止が報じられている。なお、欧州ビジネス協会(AEB)によれば、ロシアにおける販売台数シェアは現代自動車が3位、ルノーが4位を占める。
[業界4]海運
最後に、ゴールドマン・サックスはウクライナ危機が海運需給ひっ迫を引き起こす可能性があると指摘する。
世界海運大手スイスMSC、デンマークのAPモラー・マースク、フランスCMA GGMの3社は、いずれもロシア発着の貨物輸送停止を発表しており、多数の貨物船が黒海(ウクライナ各港)で立ち往生している。
「ロシアとウクライナに関わる輸出入ルートの変更には時間がかかるため、輸送コストの上昇につながるでしょう」
ゴールドマン・サックスによれば、海運需給ひっ迫とそれによるサプライチェーン障害は、小麦や肥料などのコモディティ価格を押し上げるドミノ効果、連鎖反応を引き起こす可能性があるという。
(翻訳・編集:川村力)