米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長。3月15、16日に開かれた連邦公開市場委員会(FOMC)では、3年3カ月ぶりの利上げを決定した。問題は今後の動きだが……。
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米連邦準備制度理事会(FRB)が雇用の最大化と物価の安定を同時にバランス良く実現するという困難な取り組みの帳尻を合わせようとすることで、景気後退の可能性が高まっている。
2月の消費者物価指数(CPI)が前年同月比7.9%上昇し、1982年以来の高水準となったインフレを抑制するため、FRBは3月16日にフェデラル・ファンド(FF)金利の誘導目標を25ベーシスポイント(0.25%ポイント)引き上げた。
2018年12月以来3年ぶりの利上げは、きわめて不安定な時期に行われることになった。
ロシアのウクライナ軍事侵攻が誘発した西側諸国による経済制裁とサプライチェーンの混乱を受けてコモディティ価格が上昇し、とりわけ生活必需品である食料とエネルギー価格の高騰に世界中が苦しめられている。
原油価格は3月7日、北海ブレント先物が1バレル139ドルを一時突破、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)先物も130ドルを突破したものの、その後はいずれも100ドルを割り込んで推移。それでも一部の投資家は、今後数カ月以内に200ドルの大台に乗ると予測している。
インフレ圧力のさらなる高まりも感じられる。中国ではオミクロン変異株の感染拡大が急加速し、長春や吉林などの大都市がロックダウン(都市封鎖)され、ハイテク産業の中心地である深センでは工場が閉鎖される事態に陥っている。
相場は激しい乱高下をくり返しているが、株式については広く弱気センチメントに覆われている。ブルームバーグによれば、年初来、世界の株式市場では時価総額にしておよそ12兆ドル(約1400兆円)が吹き飛んだ。
10年物米国債(長期債)と2年物米国債(短期債)の利回り格差を示すイールドカーブは、3月14日に22ベーシスポイント(0.22%)まで格差が縮小したことで、2020年3月以来(2011年以来とする金融関係者もいる)のフラットに近い状態になった。
利回り格差がこれからさらに縮小してゼロを下回るとイールドカーブの逆転が起こり、それは1、2年以内に景気後退入りするシグナルとされることが多い。
英金融調査会社マクロハイブのビラール・ハフィーズ最高経営責任者(CEO)は次のように分析する。
「歴史的に見て、石油危機とFRBの利上げが重なる場合、その後景気後退入りするケースが多いのです。イールドカーブの逆転が景気後退とその後の株式市場の停滞を予測する信頼すべき指標になるとの理解には基本的に賛成です」
イールドカーブから景気後退入りの確率を算出するハフィーズのモデルによれば、年初18%だった確率は現時点で45%まで高まっている。
また、米金融大手ゴールドマン・サックスのストラテジストチームは3月11日付のレポートで、S&P500種株価指数の現在水準を4260として、およそ40%の確率で景気後退の下振れシナリオに向かう可能性があると指摘している(その場合、S&P500種指数は15%低下して3600に)。
「タカ派」FRBの利上げこそ最大のリスク
世界大戦に発展するおそれがあることなど、ウクライナ紛争の帰結をめぐる不確実性が、景気後退の見通しを不透明にしている。
短期的な視点では、最も市場を圧迫しているのは、FRBによる利上げのペース、利上げの程度だ。
市場はすでに7回の利上げを織り込み済みで、さらにウォール街の一部のストラテジストは最大11回もの利上げを予想している。
ただ、ウクライナ紛争が世界経済の成長を鈍化させ、なおかつ高インフレを助長する昨今、積極的すぎる利上げは景気後退を誘発しかねない。
米投資顧問会社スパウティングロック・アセットマネジメントのチーフストラテジスト、リース・ウィリアムは次のように指摘する。
「FRBが今日決定する金融政策はすべて(明日明後日ではなく)半年後の市場と経済に影響を及ぼします。FRBが向き合う難題は、(政策の効果が)はっきりと表れる前にブレーキから足を離さなくてはならないことです。
ただし、経済は当面力強い成長が予想されており、少なくとも最初の数回の利上げが決定的な失敗につながる懸念は必要ないでしょう」
弱気相場と景気後退をいかに乗り切るか
JPモルガン、ドイツ銀行を経て野村證券へと、金融業界で20年超のキャリアを築いてきたマクロハイブのハフィーズ(前出)は、足もとの金利上昇の見通しを踏まえ、株式に対する投資判断を「中立または弱気」に変更した。
「いま株式全般について言えるのは、徹底してディフェンシブ(=景気変動に左右されにくい銘柄を重視する)なスタンスを守ることです。株式市場全体に下押し圧力がかかっていますが、エネルギーやユーティリティ(公益事業)などのセクターは堅調な推移を期待できるでしょう」
債券も株式も急落している現状がある限り、投資家は資金を現金の形で手もとに置くのが賢明というのがハフィーズの考えだ。
実際、米銀大手バンク・オブ・アメリカがファンドマネージャーを対象に実施した調査によれば、世界の投資家たちは2022年を弱気相場と予想し、現金への資金配分を(世界保健機関[WHO]のパンデミック認定直後の)2020年4月以降で最も高い割合(=2022年3月時点で5.9%)に引き上げている。
「現金の利回りはほぼゼロですが、少なくとも資金が失われることはありません。債券や株式に資金を投じることの問題は、こうした(厳しい投資環境が続く)年に損失をこうむる余地があることです。資金を現金の形で持っておけば、株式や債券が割安な水準まで下がったときにいつでも買えるのですから」
ハフィーズによれば、債券や株式の「買い時」はたいてい、人々が景気後退に慌てはじめる時期と重なる。
GDP成長率が減速する懸念は高まっているものの、今後景気後退入りするかどうかについては、多くの人々の見方が一致しているとまでは言えない。
したがって、投資家はイールドカーブの逆転やコモディティ価格の下落、タカ派姿勢のFRBが態度を軟化させるシグナルなど、変化の兆候を注視しつつ数カ月間様子を見る余地がある。
スパウティング・ロック・アセットマネジメントのウィリアム(前出)は、アメリカ経済の力強さを踏まえ、またマクロ視点から懸念される問題の多くはすでに織り込み済みとの判断も併せ、市場の先行きをポジティブにとらえている。
「景気後退を回避できる可能性は十分にあります。もし回避されれば、足もとの調整局面からの脱出が近づき、買い時も見えてくるでしょう」
リターンを得つつ、インフレをヘッジできる投資先として、ウィリアムは配当利回りの高い(=高配当)株、エネルギー株、大型ハイテク株を推奨する。
金利上昇はハイテク株の資本(資金調達)コストを上昇させるため、結果としてネガティブな結果になりがちだが、その価格決定力の強さと売上高の伸びを考えると、これからは「21世紀の消費財」とも言うべき値動きが想定されるという。
「テクノロジー企業はいまや生活に不可欠とも言うべき存在であり、途方もなく力強い景気の追い風が吹かないと収益を上げられないということはもはやないのです」
(翻訳・編集:川村力)