Mac StudioとStudio Display。
撮影:西田宗千佳
3月18日に発売を控えた「Mac Studio」と「Studio Display」の先行レビューをお届けする。
Mac Studioは3月9日に行われたアップルの新製品発表会で公開された新モデルで、アップルの独自半導体(Appleシリコン)への移行を進めている、Macのハイエンド製品にあたる。
今回試用したセットだと、98万4600円(税込)という高額な組み合わせになる。だが、それだけの品質はある。
撮影:西田宗千佳
今回試用したのは最上位モデル。新プロセッサー「M1 Ultra」の中でも最上位バージョンにあたる、GPUコアが64個、メモリー128GB・ストレージが2TBというカスタマイズモデル。販売価格は74万1800円(税込)という高価なものだ。
それだけに性能もかなりのものだった。
アップルの自信作がどこまでの性能なのか、WindowsのゲーミングPCとも比較しながらチェックしていく。
最上位モデルは銅製ファン、「ハイパワーでぶん回す」設計
Mac Studio。Mac miniと設置面積は同じだが、高さが9.5cmとかなり厚くなった。
撮影:西田宗千佳
Mac Studioは、「Mac miniを三段重ね」にしたような厚みのある外観をしている。ハイエンドデスクトップPCとしては小さな製品だが、商品パッケージなどはそこまで小さくない。
ちょっと驚くのは、Mac Studioが見た目に反して非常に重い、ということだ。正確に言えば、M1 Ultraを搭載した上位モデルが重い。
全モデル、サイズはまったく同じだが、上位モデルは3.6kg、M1 Maxを搭載した下位モデルは2.7kgと重量がかなり違う。
ほぼ立方体のパッケージ。意外と大きい。キーボードやマウスは付属しない。
撮影:西田宗千佳
理由は、M1 Ultraの冷却機構にある。
上位モデルも下位モデルも機構自体は同じで、ボディの中のほとんどを冷却機構が占めているのだが、M1 Ultra搭載モデルは材質が銅、M1 Max搭載モデルは材質がアルミになっている。
理由は銅の方が熱伝導率は高く、効率的に冷却できるからだ。
その効果はのちほど検証するが、Mac Studioという製品は「ハイパワーなプロセッサーをぶん回し、ファンで熱をどんどん逃す」ことを前提とした設計であり、ボディーデザインもそのためにつくられている。
だから背面と底面には吸排気口の存在が目立つ。表には一切見せず、見えづらいところがアップルらしい。
背面。上部に吸排気用の領域が大きく取られている。インターフェースは左から、Thunderbolt 4/USB Type-C×4、10Gb Ethernet、電源、USB Type-A×2、HDMI、ヘッドホン端子。
撮影:西田宗千佳
底面にはロゴとともに、吸排気用の穴が。
撮影:西田宗千佳
Mac miniと違うところはインターフェースがさらに豊富になっているところだ。
Mac miniはThunderbolt 4/USB Type-Cの端子が背面に2つ、USB Type-A端子が2つだったが、Mac Studioでは背面に4つ、前面に2つ増えている。
このうち前面の端子は、M1 Max搭載モデルではUSB Type-C、M1 Ultra搭載モデルではThunderbolt 4/USB Type-Cと機能が微妙に異なっている。さらにSDカードスロットも前面に用意された。またイーサネット端子もより高速な10Gb Ethernetとなっている。
本体正面。Thunderbolt 4/USB Type-C×2(M1 MaxモデルではUSB Type-C×2)と、SDXCカードスロット(UHS-II)がある。
撮影:西田宗千佳
内部でのメモリーやストレージの増設には対応しないが、これだけインターフェースがあれば、かなり幅広い用途に対応できる。
コアの数だけ速い、シンプルな高性能
比較対象に使った、ASUS製のゲーミングPC「ROG Zephyrus G14」2021年モデル。2021年5月購入時の価格は24万円程度。
撮影:西田宗千佳
では、肝心の性能をチェックしていこう。
今回は、あえてWindowsのゲーミングPCも用意した。筆者が日常的に使っている、ASUSの「ROG Zephyrus G14」(2021年モデル)だ。
CPUはAMD Ryzen 9 5900HS、GPUはNVIDIA GeForce RTX 3060 Max-Qを搭載し、発売から1年が経過した今も「ミドルクラスとしては十分な能力がある」製品だと思う。クラスとしては「M1 Pro搭載のMacBook Pro」に近いが、GPUはより強力だ。
Windows PCも比較に入れたので、3つのマルチプラットフォーム・ベンチマークテストで比較してみたい。
まずは「Geekbench 5」。定番のものだが、それだけに過去機種のデータも豊富だ。こちらでは、CPUとGPUそれぞれテストしている。
Geekbench 5。MacやiPhoneなど、アップル製品のベンチマークでは定番のものだ。
画像:筆者によるスクリーンショット
次に「Cinebench R23」。CG生成に関するベンチマークだが、主にCPUを使う。
Cinebench R23。CG演算のベンチマークだが、主にCPU性能を測る。
画像:筆者によるスクリーンショット
比較機種としては、前出のゲーミングPCのほか、M1搭載の「MacBook Pro 13インチモデル」、M1 Pro搭載の「MacBook Pro 14インチモデル」を用意した。これで、各クラスの製品と比較した場合の性能がわかるだろう。
結果は次のようなものだ。
CineBench R23
図版:筆者による測定し、Business Insider Japanにて作成
Geekbench 5 CPUテスト
図版:筆者による測定し、Business Insider Japanにて作成
CPU性能で見れば、M1 Ultra搭載のMac Studioはまさに「ぶっちぎり」だ。M1 Maxを2つ搭載しているだけに、M1 Proの2倍以上の値を叩き出している。
Geekbench 5の値で見ると、M1もそれなりに健闘しているのだが、Cinebench R23の値だとちょっと見劣りする。
おもしろいのは、どのCPUもシングルコア性能だとさほど違いがない、ということ。
M1とゲーミングPCは8コア、M1 Proが10コア、M1 Ultraは20コアなので、「コア数の暴力」で圧倒的な性能が出ている、とみていいだろう。
Geekbench 5 GPUテスト(OpenCL)
図版:筆者による測定し、Business Insider Japanにて作成
ではGPUはどうか?
こちらはちょっと意外な結果だ。M1/M1 ProよりもM1 Ultraが圧倒的に速いのは変わりないのだが、NVIDIA RTX3060を搭載したゲーミングPCも善戦している。
RTX3060は高性能だが最高性能のGPUではない。そう考えるとちょっとM1 Ultraの性能に疑問が……と思いそうだ
ただ、1点補足しておくと、マルチプラットフォームで比較するため、ここでは「OpenCL」という技術をベースにしたテストをした。けれども、そもそもアップルのGPUは「Metal」という技術に最適化されている。
Open CLの場合、M1 UltraはM1の「4.6倍」の性能だったが、Metalで同じテストをすると、M1 UltraはM1の「4.9倍」になる。だから、M1 Ultraの性能はもうちょっと伸びしろがある、と考えてもいいだろう。
フルパワーで動いても「音がほとんどしない」驚き
上半分以上のスペースには、巨大なファンが入っている。しかし、ほとんど「騒音がしない」というのには驚かされた。
出典:アップル
Mac Studioが30万円クラスのPCの倍の性能を易々と叩き出す、というのはすごいことだ。だが、数字を見て「なんだ、そんなところか」と思った人もいるかもしれない。
Mac Studioのすごいところは、性能だけではなかった。
このテスト中、ほとんど騒音が出なかったことが素晴らしい。
ゲーミングPCは、ちょっと負荷が高くなると、かなりの勢いでファンが回る。上記のテストはファンを全力で回す「TURBOモード」設定で計測したので、掃除機より少し低いレベル(55d B以上)の音がする。
M1搭載のMacBook Proも、騒音・発熱と完全に無縁ではない。負荷が低い時はほぼ無音だが、今回のようなベンチマークテストを繰り返していると発熱が気になってくる。特にCinebenchでは顕著だ。
だが、Mac Studioはそうではなかった。処理負荷をチェックするとプロセッサーが全開で回っているようなシーンでも音がほとんどしない。
吸排気口に手を当てると空気は動いているようなのだが、排気やボディーは暖かい程度だ。かなり熱交換性能には余裕がありそうなので、相当の負荷を長い時間かけても大丈夫だろう。
仕事の妨げとならない静穏な環境で、トップクラスの処理性能を維持できることがMac Studio最大の魅力と言える。これを両立している製品は他にない。
高画質、そして“インテリジェント”なStudio Display
Studio Display。27型で解像度は5K(5120×2880)。標準モデルは低反射コーティングだが、写真のものはさらに反射を抑えた「Nano-textureガラス」採用モデル。
撮影:西田宗千佳
最後に、今回同時に発売される27インチディスプレイ「Studio Display」もセットで試用できたので、触れておきたい。
試用機のStudio Displayはオプションの「Nano-textureガラス」を使ったもので、価格は24万2800円と高価だ。だがその分、表示品質は良い。
以下の写真は、高画質なミニLEDディスプレイを搭載した14インチMacBook Proと並べたものだ。MacBook Proは光沢仕上げであるため、映り込みが強い。
映り込みが少ない「アンチグレア」ディスプレイは、一般に映像の精彩さが失われやすいものだが、Studio Displayはそうではなく、5Kディスプレイらしさを保ってくれる。
光沢液晶の14インチMacBook Proと比較。画質では差が小さい(むしろ14インチMacBook Proの方が輝度は高い)が、映り込みの有無が大きく異なる。
撮影:西田宗千佳
また、高性能なマイクとカメラ、スピーカーを内蔵しているのも特徴。特にカメラの画質は素晴らしく、ビデオ会議には向いたディスプレイだ。
Studio Display内蔵カメラを使い、Zoomで撮影。自分の動きに合わせてフレームが移動する「センターフレーム」の効果がわかる。
撮影:西田宗千佳
iPadに搭載されている「センターフレーム」が組み込まれており、自分の姿を追いかけて画角を調整してくれる。
HDMIに対応していないこと、複数入力に対応していないことなどが気になるが、「Macと組み合わせて使う高品質ディスプレイ」としては十分な価値を持っているといえそうだ。