ベンチャーキャピタル(VC)は過去数年間、まるで1999年のドットコムバブル期のようにスタートアップ企業に気前よく資金を投じてきた。
しかし2022年の現在、スタートアップに対する投資家の熱狂は冷めつつある。レッドポイント・ベンチャーズ(Redpoint Ventures)のローガン・バートレット(Logan Bartlett)とアデル・リー(Adele Li)は現在の状況を分析し、見通しはかなり厳しくなるおそれがあると見ている。
市場の低迷は、2000年代初頭のドットコム不況にも似たスタートアップのバリュエーションの暴落を引き起こしかねない。
現時点では、インフレの進行や一部の上場テクノロジー銘柄の下落といった要素はあるものの、このプライベート資本市場が完全に落ち込むには至っていない。しかし、過去の調整局面と同様に、最終的にはそうなるだろうとバートレットとリーは予想する。
下げ幅50%以上の可能性も
現在の公開株の下落幅は、2年前にコロナ禍が始まった直後の時期を含めても近年の中では突出している。2021年初めには、ソフトウェア会社は予想年間売上高の20.8倍で取引されていた。しかし今や8.8倍に過ぎない、とバートレットらはPitchBookのデータ分析をもとに考察している。
レッドポイント・ベンチャーズのマネージング・ディレクターを務めるローガン・バートレット。
Redpoint Ventures
スタートアップのバリュエーションは往々にして株式市場の影響を受けるものであることを踏まえると、50%以上の下げ幅になる可能性もある。
過去の例を見れば、こうした下落は数年間にわたって続く可能性が高いとバートレットらは言う。ちなみに、ドットコム不況時はバリュエーションの下落が底を打つのに2年半、2008年のリーマンショック時は2年3カ月かかっている。
ドットコム不況は遠い過去の話であり、当時のPets.comなどに比べれば今のスタートアップの財務状態はよほど健全だが、当時の状況とはいよいよ無関係でいられなくなりつつあるとバートレットらは言う。
プレゼン資料に付された講演者メモには、「数週間前なら少々大げさに聞こえたかもしれないが、1999年のドットコムバブル時の状況からますます洞察を収集できる状況になりつつある」
例えば、2021年におけるVCの投資額は前年比で98%上昇したが、これはドットコムバブルだった2000年に前年比97%上昇して以来の急騰だ。
鍵握るヘッジファンドの動き
バートレットらが見るところ、前回との違いがあるとすれば、今回の投資額は投資家たち自身が前代未聞の水準まで吊り上げたことだ。数十億ドル規模のファンドは今や珍しくなく、VCは難局を切り抜けて有望なスタートアップに投資を続けるべく多額のキャッシュを手元に持っている。
この先の命運は、ヘッジファンドのほか、近年のスタートアップ投資熱に大きく貢献したタイガー・グローバル(Tiger Global)のような非伝統的なベンチャー投資家の“食欲”次第だろう。彼らの活動がスタートアップ投資に占める割合は、2011年には56%だったが、2021年は77%にまで上昇した、とレッドポイントのプレゼン資料は指摘している。
仮にこうした投資会社がプライベート資本市場での投資を減らす意思決定をすれば(レイターステージではすでに現実化している)、スタートアップを取り巻くマーケットは相当冷え込むことになりかねない。
(編集・常盤亜由子)