アマゾンの時価総額は1兆4200億ドル(約168兆9800億円、1ドル=119円換算)にのぼり、世界第5位の規模を誇る。そのアマゾンが、1対20の株式分割と100億ドル(約1兆1900億円)の自株買いを発表した。
アマゾンは多くの人の投資ポートフォリオの中核をなす一社であり、投資家にとってこの注目すべきニュースは、追加購入すべきか現状維持か、それとも売却すべきかを検討するきっかけになりそうだ。
アマゾンの株式分割は1999年以来
巨大企業にとって株式分割は珍しいことではない。イーロン・マスク率いるテスラは2020年8月に同様の動きをして話題を呼び、投資家から好感をもって受け入れられた。グーグルの親会社であるアルファベットやアップルも、近年株式分割を行った大企業に名を連ねている。
株式分割をしたからといって、企業の市場価値が変わるわけではない。分割によって1株が5株、10株、20株になったとしても、分割時の保有株式の価値は変わらない。
しかし、取引の流動性や当該銘柄に対する投資家のセンチメントを改善することは可能だ。株式分割が適切に行われると、個人投資家にとって株式を保有することの魅力が増す。それまで手元資金が不足していて単元株に手を出せなかった個人投資家が、株式分割によって、単元未満株ではなく単元株を保有できるようになるからだ。
アマゾンの株価は現在1株3000ドル(約35万7000円)近くと、比較的少額の投資ポートフォリオを持つ投資家なら購入を躊躇しそうな水準だ。投資において「単位バイアス」はよくある現象で、多くの人は、たとえ金額上の価値が同じであっても、単位未満株を所有するより単位株を複数所有することを好むものだ。
3月9日の取引終了後に発表されたアマゾンの株式分割は、同社が初めて分割を行った1999年以来のこととなる。1999年の発表時に比べ、今回のほうが注目度は高い。
3人の専門家は今回の自社株買いをどう見るか
今回あわせて発表された自社株買いは、すでに実施されている50億ドル(約5950億円)の自社株買い計画に代わるものだが、それでも同社の時価総額に比べればはるかに小さな金額だ。
自社株買いは通常、需要やセンチメントを高めることで株価に貢献するが、アマゾンのような巨大企業にとって、100億ドル(約1兆1190億円)の自社株買いをしたところで株価に顕著な影響を与えるかは非常に疑問だ。
1.7兆ドル(約202兆3000億円)規模の資産運用会社フェデレイテッド・ヘルメス(Federated Hermes)のグローバル株式担当シニア・ポートフォリオ・マネジャー、ルイス・グラント(Lewis Grant)は、この動きを「センチメントの勝者」と表現し、次のように述べる。
「アマゾンの株式分割は、事業のファンダメンタルズを変えるものではないが、より多くの個人投資家の手に届くようになり、ダウ・ジョーンズ指数に採用される可能性も高くなるため、センチメント的には有利です。同業他社の株式分割は市場から好意的に受け止められており、特に今回発表された自社株買いと合わせて、アマゾンの動きにも好意的な反応が示されるでしょう」
一方、ミラボード・エクイティ・リサーチ(Mirabaud Equity Research)のテクノロジー・メディア・通信業界(TMT)リサーチ担当のニール・キャンプリング(Neil Campling)は、アマゾンの動きに実体が伴っているか懐疑的だとして、次のように言う。
「今回発表された100億ドル(約1兆1900億円)の自社株買いは、1兆4000億ドル(約116兆6000億円)規模の時価総額を誇るアマゾンにとってはおそらく形だけのジェスチャーでしょう。会社の規模からすれば、たいしたことではありません。
株式分割も、投資家が単元未満株を購入できるようになった現在では、やはり何の意味もありません。アマゾンは、50億ドル(約5950億円)の自社株買いすら完了させていないことにも注意が必要です。
アマゾンの前四半期が好調だった主な要因は、リヴィアン(Rivian)ヘの出資です。それによって時価評価を大きく伸ばしました。しかし、リヴィアンの株価は、今年に入ってから57%下げています。他の条件が同じなら、次の四半期には逆に時価評価を下げる要因となるでしょう。リヴィアンは、株式分割と自社株買いという2つの形だけのジェスチャーよりも、中期的にはるかに重要な影響を与えます」
欧州最大の個人投資家向け株式仲介会社ハーグリーブス・ランズダウン(Hargreaves Lansdown)の株式アナリスト、ソフィ・ルンド=イェーツ(Sophie Lund-Yates)は、次のように語る。
「アマゾンが提案した株式分割は、取引の世界がいかに変化したかを物語っています。株式分割はあまり大きな意味を持ちませんが、個人投資家にとっては(投資信託経由ではなく)個別銘柄としてのアマゾンへの投資がしやすくなります。
(個人投資家が)安い手数料あるいは手数料なしで株式売買を行えるアプリの存在感の高まりもあり、株式分割の重要性は以前より増しています。もちろん、ここ最近で分割を発表したハイテク企業はアマゾンだけではなく、グーグルの親会社のアルファベットをはじめ、他の巨大企業も同様の決定をしています。
自社株買いは、アマゾン株を買う一つのインセンティブとなりますが、その規模は提示されたとおりにはならないかもしれません。既存の50億ドル(約5950億円)の自社株買い計画は2016年から実施されていますが、実際にこれまで買い付けたのは20億ドル(約2380億円)強に過ぎません。
ここ数カ月間でIT銘柄が経験した打撃を考えると、アマゾンが今回決定した大型の自社株買いは、意味のある動きといえます」
(翻訳・住本時久、編集・常盤亜由子)