サブスクライフの町野社長は、SDGs強く意識した戦略を発表した。
記者会見を編集部キャプチャ(左)、ソーシャルインテリア提供(右)
「当社は2019年のサブスクブームの波に乗って注目され、2020年のコロナ危機で家具の需要が変わったことも追い風になった。そして2022年のSDGsへの関心の高まりは3つ目の追い風になる」
subsclife(サブスクライフ)の町野健社長は、そう語る。
2018年3月にローンチした家具の月額課金サービスsubsclifeは、日本におけるサブスク市場の拡大とともに成長。2022年2月のGMV(流通取引総額)は前年同期比4倍に増加、売り上げも3倍に増えている。
勢いづくサブスクライフが、さらなる成長に向け目を付けたのがSDGsだ。
不要になった家具を返却できるサブスクモデルのニーズが高まると見据え、3月18日には社名をサブスクライフから「ソーシャルインテリア」に変更した。
さらに約22億円の資金調達を実施し、コロナでオフィス家具需要が変化しつつある法人オフィスへの営業を強化する。
事業が成長フェーズに入ったいま、社名を変えてまでSDGsに振り切った理由を、町野氏に聞いた。
コロナで家具は「所有」から「利用」へ
提供:ソーシャルインテリア
ソーシャルインテリア(旧subsclife)の特徴は、月額で支払う料金の合計が、家具の定価を超えることはないという点にある。
利用者は少額から高級家具を使い始めることができ、家具の代金を払い終わればそのまま所有物になる。購入する場合と違って、月額課金をキャンセルして家具を返品することもできる。
ソーシャルインテリアは、個人向けと法人向けにサービスを展開するが、現在は売り上げの多くを法人向けが占めている(具体的な割合は非公開)。
そして法人向けの「家具サブスク」にとって追い風になったのがコロナだった。
Business Insider Japanのオンライン取材に応じた町野氏は、こう話す。
「コロナによってオフィスの役割が変わった。オフィスをフリーアドレス化したり、リラックスしてコミュニケーションする場所を作ったりしたことで、オフィスに求められる家具も変化した。
とはいえ新しいオフィス家具をそろえるのは多額の費用がかかってしまうため、家具を所有するのではなく、利用する意識になってきた」
コロナ禍の2020年夏以降、大企業からの問い合わせや契約が特に伸びたという。
「大企業の顧客は15件に1件程度だったのが、2020年夏以降は10件に1~2件に増えてきた。大企業は億単位の契約になることもある」
企業が意識するESG投資
環境意識の高まりから、廃棄方法も考慮して家具を購入する企業が増えているという。
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コロナによる追い風に加えて、町野氏がさらなる追い風と捉えているのが、SDGsへの関心の高まりだ。
「大手企業を中心に家具の廃棄を減らしたいという意向が強まっている。当社は家具の提案からファイナンス、回収、処理まで提案できる。家具の廃棄を減らすため、1社で全てを回せるのは日本には他にない」
環境に配慮したオフィス家具を使いたい企業が増えていることに加え、株主に対するイメージアップを考える風潮も高まっている。
「各企業のSDGsの取り組みは暗中模索が続いているが、特に海外投資家は環境への取り組みをよく見ることが当たり前になっている。契約企業の中には『再生素材を使っているものを明示してほしい』などの声もある」
例えば、岡山放送では自社のSDGs推進の一環として、オフィス家具の廃棄を減らすためサブスク家具を契約した。
今後はさらに、ESG評価に気を配る企業に対し、FSC認証を取得した木材(持続可能な森林利用の認証の一つ)を使った家具や、脱プラスチックで設計された家具などの提案をしていくという。
家具メーカーにも利益還元
返却された中古家具の再利用も強化する。
創業初期ソーシャルインテリアでは、返品された家具を中古販売業者に売却していたが、2021年2月から自社で再販売事業を開始した。
一度返品された家具をクリーニングした上で、再度サブスク商品として提案したり、法人や個人に販売したりしている。
家具の中古販売が成立した際には、売り上げの10%を家具メーカーに支払う仕組みも導入した。
町野氏はこの取り組みについて、「環境に配慮したいい商品を循環させることで、メーカーにも継続的に収入が得られる仕組み」と説明する。
22億円調達で「インテリアコーディネーター」採用
家具サービスでは珍しく、メインビジュアルに人物を多く採用したという。
提供:ソーシャルインテリア
ソーシャルインテリアは社名の変更と同時に、VCと金融機関からの融資を合わせて約22億円の資金調達も発表した。引受先はJICベンチャー・グロース・インベストメンツなど。
調達した資金は、サブスク用の家具購入の費用や、オンライン広告などのマーケティング費、人材確保に充てるという。
人材面では、現在約10人いるインテリアコーディネーター人材の獲得を進める。
ソーシャルインテリアの法人顧客は2022年3月現在、1000社を超えている。取り扱うサブスク家具・家電のブランド数は600ブランド、商品数は12万種にのぼる。
法人への提案を強化するにあたり、オフィスに合った家具を提案するコーディネーターが必要になるという。
無印のサブスク「マーケットが違う」
ソーシャルインテリアでは、在庫を持たず、注文が入った場合に借り入れる仕組みを整えている。
提供:ソーシャルインテリア
SDGsを押し出した戦略で、競争力を高めたいソーシャルインテリアだが、サブスク市場は競合の参入が相次ぐ市場でもある。競合の脅威をどう感じているのか?
町野氏は、2018年3月に他社に先駆けて家具サブスクサービスを始めたことに加え、家具サブスクは参入障壁が高い点に優位性があるという。
「サブスクでは家具を最初にそろえる必要があるため、お金が先に出ていくビジネス。当社の場合は注文が入った時に、銀行などから費用を借りる独自の仕組みを導入している。資金のないベンチャーは難しい」
一方で大手メーカーでは、無印良品が商品のサブスク事業を始め話題になった。だが、町野氏はこう言い切る。
「600ブランドを提供する我々とはマーケットが違う。これからもサブスク市場への新規参入はあるかもしれないが、レッドオーシャン化はしない。これまでも強い競合はありませんでした」
(文・横山耕太郎)