撮影:伊藤有
これまで何度か紹介してきた、Oculus Quest 2(Meta Quest 2)で動作する「VR空間に集中部屋をつくる」アプリ「Immersed」(イマースド)。
3月18日前後に大型アップデートを実施。ついに、VR空間上にリアルな部屋の映像を持ち込む、「パススルー表示」ができるようになった。
早速つかってみると、改めてすごい仕事効率化ツールになってきたという手応えがある。
実際に使ってみた様子をレポートしよう。
「パススルー表示」とは何か。対応するとどうなるか
出典:Immersed
今回のアップデートは、VRゴーグルの外の「現実空間」と、バーチャルディスプレイを合成する機能が入ったことだ。
最新アップデートの動画より。現実空間の映像に、PCの表示が浮かんでいることがわかる。操作はすでに以前からコントローラー不要で、指先で押すように「選択」などもできる。
出典:Immersed
この機能はいわゆる「パススルー表示」と呼ばれるもので、Quest 2のゴーグルの周囲に内蔵した空間センサーを使って実現している。
周囲の映像がモノクロになっているのは、Quest 2の仕様のためだ。本来、周囲の映像を見るためのカメラとして設計されていない(あくまで空間認識センサー)ため、こういう表示になる。
これまでOSレベルでは、装着時の周囲確認のために提供されていた。これがアプリ上からも使えるようになると、Quest 2を簡易的な「MR」(ミクスドリアリティ、複合現実)ゴーグルの一種としても使えるようになる。
さっそく、どんなふうになるか、デモ動画を見てみよう。
出典: Immersed
以前の記事では、仮想空間のなかで気分転換したり、集中部屋にしたい、というニーズに反響が大きかった。
ただ、VRゴーグルは一種の目隠しでもあるので、人とのコミュニケーションがとりづらかったり、そもそも手元が見えなくて飲み物を飲むのに苦労した。
パススルーモードは、こうした問題の多くを解決してくれる(ただし、モノクロ映像だが)。
Quest2では、画面録画を使うとパススルー映像が記録できないため、この写真はスマホのカメラを使って撮影している。
撮影:伊藤有
と言っても、実用性は極めて高かった。
「没入感」という意味では、仮想空間の集中部屋とは、また違った良さがある。
集中しているとパススルー映像がモノクロであることはまったく気にならないし、それでいて手元が見えない「目隠しで使っている」ような感覚もない。
例えるなら、VR空間での闘争を描いた映画「レディ・プレイヤー1」(2018年公開)まではいかないまでも、「マイノリティ・リポート」(2002年公開)が近づいてきたくらいの感覚はある。
ちなみに、Quest 2のパススルー映像は、遅延が意外と少ない。だから、例えばVRゴーグルを装着したまま室内を歩いたり、階段を登ったり、物を探したりという日常動作も問題なくできる。
「一部だけパススルー」も実用的
Immersedの開発チームがUXが押しつけにならないよう丁寧に検討していると感じるのは、完全なMRモードだけではなく、VR空間の一部に覗き窓をつくるようなモードも用意していることだ。
現実的に使える、次のような3つのモードを用意してきた。
- KEYBOARD(キーボード) キーボード部分だけに「覗き窓」をつくる
- PORTALS(ポータル) VRオフィス空間の一部に、現実空間の「覗き窓」をつくる
- FULL(フル) 周囲の環境すべてをカメラ経由で表示
それぞれ、1と2を使ってみるとこうなる。
常夏の砂浜の空間に仮想ディスプレイを表示。左下に「キーボード」を、右側には「グラスを見るためのポータル」を設置してみた。
撮影:伊藤有
1つめの機能は、キーボード周辺部分のみ、パススルーする(位置は自由に設定できる)。タッチタイプに慣れていない人から「キー操作」が難しいという声があったことへのアンサーの機能といえる。
筆者はタッチタイプは問題ないが、それでもMacのコマンドキーのコピー&ペーストは時々ミスするときがある(間違えて隣の英数を押してしまう)。
こういうとき、実体のキーボードが見えているのはありがたい。
2つめのポータル機能は、手元のグラスや小物、窓や時計といったものを見る「窓」をVR空間上に表示できる。
不意に手を動かしてコップから飲み物をこぼす……というのはVRゴーグルを使っていて最悪な体験の1つだが、ポータル機能で、こうした悲劇は防げる。
ほかにも、「部屋の窓を見えるようにする」ような使い方や、「物理的な時計を表示させる」、また「コントローラーを置く場所を表示しておく(コントローラーがスリープになるとVR空間から消えるため)」といったことにも使える。
最新版アップデートのメリット・デメリット
常時大きく変化しているわけではないが、休止を挟みながら数時間使っているなかでも遅延(レイテンシー)は、8ミリ秒(左)、24ミリ秒(右)などの違いがあり、アップデート後はやや不安定な印象もある。
作成:Business Insider Japan
丸1日ほど、何時間かに分けて使ってみたところでは、従来のユーザーにとっての「デメリット」らしきものは、映像の遅延(レイテンシー)がやや不安定ということだ。実体験として、アップデートした当初、映像の遅延(レイテンシー)が従来の10ミリ秒前後から30ミリ秒前後に遅くなるという症状があった。
これは数時間使っているうちに、いつの間にか元通りに直ってしまったが、この原稿を書いているうちに、またも30ミリ秒程度の状態をいったりきたりしている。
Quest 2のアプリ側の問題なのか、PC側の問題なのか不明だが、以前にはなかった症状であることは確かだ。
30ミリ秒ほどの遅延があると、動画再生すると微妙な引っ掛かり(ティアリングと呼ばれる状態)を感じる。一方、入力や操作の遅延は30ミリ秒程度なら気にならないので、実用には問題はない。今後のマイナーアップデートで安定するようにはしてほしいところだ。
モノクロカメラでも対応……Quest上位版への布石か
マイクロソフトの「HoloLens」のようなMRゴーグルをイメージしている人からすると「なんだモノクロじゃないか」と思うかもしれないが、Immersedが今この機能を(なかば無理矢理に)実装してきたことには、次の展開を意識しているように思える。
メタ(旧フェイスブック)は、2022年に正規発表予定の新しいVRゴーグル「コードネーム:Project Cambria(プロジェクト カンブリア)」で、パススルー映像をカラー化すると、すでに明言している。
カンブリア自体はQuest 2の後継ではないが(あくまでプロ向けの上位モデルとされる)、おそらくQuest 2の次期モデルが、パススルーをカラー化することは、既定路線と言っていい。
そこまで考えれば、今のうちに力技のモノクロ表示だとしても、MR的な利用の知見とフィードバックを蓄積しておくことは、Immersedとしても重要な戦略と言える。
(文・伊藤有)