3月18日、クリミア併合宣言8周年の記念集会に参加したロシアのプーチン大統領。ウクライナ戦争の先行きを示唆する動きに、世界中の投資家が目を光らせている。
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ロシアのウクライナ軍事侵攻以来、市場は不安定な状態が続く。そんななかでも、凄腕の投資家たちは専門性の高い大量のデータセットを駆使して優位に立とうとしている。
数年前とはまた状況が変わって、情報通の投資家がいま足もとで抱える課題は、他に存在しない独自性の高いデータセットを見つけ出すことではなく、(プロバイダが提供する数々のデータから)適切な時間対効果と費用対効果を得られるデータセットはどれなのかを判別することだ。
オルタナティブ・データの領域はまだ未成熟で、実用的なインサイト(=データ分析を通じて発見される不可視の価値)を得られるケースは多くない。特定の市場イベントが対象の場合は特にそうだ。
そのため、ヘッジファンドや他のインベストメントマネジャーらは、バトルフィン(BattleFin)のようなオルタナティブデータ活用プラットフォーム(マーケットプレイス)を頼りにしている。
それらのプラットフォームは新規参入組を含めたデータベンダーをたえずチェックし、コモディティ市場の追跡調査やサプライチェーンの監視を手がける企業、地政学リスクコンサルタントなど、購入見込みのある顧客につなげる役割を果たしている。
以下では、ヘッジファンドから大企業、政府機関まで、バトルフィンの顧客企業や組織団体がウクライナ戦争の状況把握に活用し、いま最も注目されるデータプロバイダーを紹介しよう。
EOSデータアナリティクス(EOS Data Analytics)
衛星データは、情報戦で優位に立ちたい投資家たちが活用する基本的なオルタナティブ・データのひとつ。
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EOSデータアナリティクスは人工知能(AI)を活用した衛星画像解析企業。オルタナティブ・データ分野のバズワード(専門的流行語)を詰め込んだような事業を展開する。米カリフォルニア州メンローパークに本拠を置き、ウクライナ軍や人道支援団体と協力し、ロシア軍とその作戦行動にかかわる衛星画像の解析を行っている。
同社のアレクセイ・クリヴォボック最高科学責任者(CSO)は次のように述べている。
「ロシアのウクライナ軍事侵攻が続くなか、ソフトウェアデベロッパーからサイエンティスト、R&D(研究開発)部門まで、当社に所属するすべての専門家が緊密に連携して事業に取り組んでおり、ウクライナ政府の中枢と24時間365日接続を維持するため、深夜早朝含めたシフト制で対応しています」
アクアン(Auquan)
米マクドナルドは3月上旬、ロシアで展開する850店舗を閉鎖すると発表した。
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アクアンの提供する「ポートフォリオ・アクティビティ・モニター」は、ヘッジファンドが運用管理するポートフォリオに影響を及ぼす可能性のある重要な、可視化されていない情報をモニターするツール。
ある企業にとって直接的な影響がないように見えても、紛争によってサプライチェーンやグローバル労働市場が危機に陥れば、国内向けに限定したビジネスを展開する企業まで含めて、二次、三次的な影響が広がり、そこに巻き込まれる可能性もある。
アクアンのプラットフォームは、防衛関連のコントラクター(契約事業者)の予想利益から海運航路の障害、製造業における変化まで、投資家のポートフォリオの個別銘柄にかかわる経済制裁や企業撤退の影響を追跡する。
もちろん、上記のような二次、三次的な波及効果だけでなく、マクドナルド店舗のロシア撤退のような直接的影響もモニターしている。
モーニング・コンサルト(Morning Consult)
市場の先行きや政府決定が市場に影響を与えるタイミングを知ることは、投資の大きな要素だし、有権者が何を考えているのかを知ることも投資においては有用だ。
モーニング・コンサルトは2月25日、ロシアのウクライナ軍事侵攻をめぐる世界のセンチメント(心理)を追跡するための世論調査に着手した。
同社はこの世論調査データについて、アメリカや欧州連合(EU)の今後の動きや、ウクライナ紛争の経済的影響に対する一般市民の受けとめ方の予測に活用できるとしている。
EPFRグローバル(EPFR Global)
単一国に投資するタイプの上場投資信託(ETF)あるいはミューチュアルファンドの資金フローは、その国の地政学的立ち位置を示す。
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英データプロバイダー大手インフォーマの傘下企業。世界のミューチュアルファンド(=オープンエンド型投資信託)や上場投資信託(ETF)の資金フローを追跡し、投資家の資金の動きに関するインサイトを顧客に提供する。
ウクライナ侵攻の直後、ロシア関連ファンドからの急速な資金流出が起きているが、その資金の着地先に関するデータは、投資家が注視する重要なポイントになっている。
Insiderの取材に対し同社は、2008年のジョージア(当時の呼称はグルジア)侵攻など、ロシアによる近隣諸国への過去の軍事侵攻時も、ロシア関連のミューチュアルファンドやETFからの資金流出が発生し、紛争終結後間もなく投資家が舞い戻ってきた経緯があったと指摘する。
リウィ(RIWI)
カナダのトロント大学マッセイ・カレッジが開発し、2009年のH1N1型パンデミックインフルエンザ(豚インフルエンザ)対応のデータ収集に使われた市民センチメント(心理)トラッカーの運営元。
RIWIは、ロシアのウクライナ侵攻を「軍事リスク紛争指数」を通じてモニタリングしている。同指数は、地政学的紛争リスクの高い5地域(ロシア・ウクライナのほか、イラン・イスラエルや中国・台湾など)に暮らす市民の、軍事衝突激化に対する集団的認識の変化を示す。
このデータセットを使えば、世界のさまざまな紛争に対する現地市民の支持度を把握できる。また、同社はリアルタイムで越境避難のパターンも追跡している(例えば、ウクライナを出国した市民数を把握できる)。
同社のグレッグ・ウォン最高経営責任者(CEO)は次のように語る。
「当社の軍事リスク紛争指数は、国内および国家間の紛争や対立の急激な悪化時に状況を把握するという、急場のニーズ対応に特化して設計したものです」
タイダル・マーケッツ(Tidal Markets)
空売り筋に関するデータは、ヘッジファンドにとって非常に価値が高い情報であることが明らかになっている。
2021年初頭、オンライン掲示板「レディット」フォーラムユーザーによる集団的な買い攻勢で巨額損失を出したメルビン・キャピタルやD1キャピタル・パートナーズら空売りファンドの二の舞になるのを避けるためだ。
タイダル・マーケッツは空売り筋を直接追跡するのではなく、ターゲットに空売りを仕掛ける際の借入先となるレンディング(貸株)市場の動きを追う。
そうして得られたデータを使い、世界中の株式市場のボラティリティ(=価格変動性)を分析評価することで、アナリストやエコノミストらが海外投資の安定性をウォッチするのに役立ててもらう。
例えば、ロシアのテレビ局やインターネット企業が2021年末時点ですでに激的な不安定化を見せていたことがタイダル・マーケッツのデータから判明しており、2022年はロシアの株式市場全体が乱高下の幕開けとなることが予想されていた。
データプロバイダ・ドットコム(Dataprovider.com)
ウェブデータは最も一般的なオルタナティブ・データのひとつだ。
Tirza van Dijk/Unsplash
投資家や企業のブランドマネージャー向けデータを提供する同社は独自のウェブトラッキング手法をロシアに適用。200以上のデータポイントを使って、ロシアのドメイン名、各ドメインで使われている技術、各ドメインの運用状況に関する情報を取得している。
同社によれば、EC事業者からソーシャルメディア運営会社まで、ロシアのデジタル経済がウクライナ紛争にどう対応しているかスナップショット(=瞬間ごとの全体像や動態図)を提供できるという。
ケプラー(Kpler)
石油タンカーの追跡は足もとのエネルギー状況を理解するのに不可欠だ。
Tim Chong/Reuters
2014年、フランス・パリで創業。いま世界で最も著名なコモディティおよびサプライチェーントラッカーのひとつに成長を遂げた。
同社の提供するデータには、原油、天然ガス、化学製品、石炭の海上輸送に関するリアルタイムの更新情報が含まれる。現在までのところ、ウクライナ紛争のもたらす最大の影響のひとつはエネルギー市場に広がっており、アメリカや欧州は天然ガス価格の急上昇に見舞われている。
シックス(SIX)
ロシア産キャビアのような高級珍味は経済制裁の影響で当面輸入できない状況が続きそうだ。
Jean-Blaise Hall/Getty Images
スイス証券取引所の運営など総合金融サービスを提供するシックスグループのデータ収集・管理会社。
企業や国家に科された多様な制裁措置を追跡する「サンクションド・セキュリティーズ・モニタリング・サービス(SSMS)」がいま注目を浴びている。
同サービスを利用することで、企業のコンプライアンス部門は最新の地政学関連ニュースを常時チェックして、制裁対象あるいは制裁に関連する取引を手作業で選り分ける労力から解放される。
テックセラレータ(Techsalerator)
ロシア南部の国営ロスネフチ製油所を訪問し、作業員と話すロシアのプーチン大統領(中央)。
AP/RIA-Novosti,Presidential Press Service,Alexei Nikolsky,Pool
2020年創業。新型コロナウイルス感染拡大が各分野の企業にもたらす影響を追跡するのが設立当初の目的だった。
現在は、企業やその従業員、消費者に関する数億のデータポイントを使って、ウクライナ紛争や西側諸国による苛烈な経済制裁にロシア企業がどう対応しているか、トラッキングを行っている。
創業から日が浅い同社だが、フィードを毎週更新し、ロシアのビジネス環境全般についてインサイトを提供するとしている。
[原文:Big investors are navigating the Russia-Ukraine conflict right now by turning to these 10 data sets]
(翻訳・編集:川村力)