2011年8月、中国を訪問したバイデン米大統領(当時は副大統領)と招へいした習近平国家主席(当時は副主席、次期国家主席内定後)。投資管理の専門家たちによれば、中国にグローバル市場重視へのシフトの動きがみられるという。
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世界の大企業の株価がそろって20%、30%上昇することはほとんどないし、そうしたチャンスをトレーダーたちがそろってうまく乗りこなすのはさらに稀(まれ)なケースだ。
2021年、中国政府は独占的とみなされる企業行動の排除を目的に、ソーシャルメディア、Eコマース、ゲーム会社を対象とする大規模な規制を導入。テクノロジー業界を中心に多くの中国企業が当局からの圧力に苦しめられた。
また同時期、米中間の緊張の高まりを背景に、中国政府は個人情報など国家機密にかかわるデータを大量保有する企業がアメリカで上場することに懸念を表明。政府審査を義務づけるなど規制を強化する方針を明らかにした(2021年7月10日)。
一方、アメリカ側でも2022年に入って動きがあった。米証券取引委員会(SEC)は3月14日、財務状況を示す書類に対する監査を拒否しているとして、上場廃止措置の対象となる可能性のある中国企業5社を公表。中国株(米国預託証券[ADR])に売りが殺到する引き金となった。
この株価急落を受け、中国の劉鶴副首相は火消しに動いた。
中国政府は金融市場の活性化と経済成長を促進するため、資本市場の安定に向けた有益な政策を打ち出す考えを表明し、3月16日の派手なリリーフラリー(=安堵感からの相場反騰)につながった。
また、劉副首相は(不動産大手・恒大集団の再編問題など)投資家の懸念の種となっていた同国の不動産セクターについても、安定化を目指す考えを明らかにしている。
投資家は中国株の上昇を歓迎
米投資顧問会社ワサッチ・グローバル・インベスターズが管理運用する投資信託「グローバル・オポチュニティーズ・ファンド」のアジェイ・クリシュナンによれば、テクノロジー企業に対する締めつけが緩和されたことには「きわめて大きな意味がある」という。
クリシュナンは、過去5年間で最も優れたパフォーマンスを発揮したファンド運営会社に贈られる「リフィニティブ・リッパー・アワード(中小型株部門)」を最近受賞している。
クリシュナンはInsiderの取材に対し、次のように語った。
「中国政府の(締めつけ緩和の)動きからは、プラットフォーマー企業を対象とする『是正』の取り組みを可能な限り早期に完了させたい考えがみてとれます。従来の敵対的な政策から、少なくとも中立的な政策へのシフトを進めていることを示す明確なシグナルです」
また、米投資会社カラモス・インベストメンツのグローバル戦略責任者兼共同最高投資責任者(Co-CIO)ニック・ニジオレックは、今回の政府発表について、世界の株式市場へのアクセスを保全していく中国のスタンスを投資家たちが再確認できた点が大きいと評価する。
「中国における資本主義は死に絶えたのではないか、中国共産党は同国の株式市場の行く先をもはや気にかけていないのではないか。(政府発表以前は)そんな根本的な疑念を抱き始めていた投資家も多かったと思います」
ニジオレックはさらに、中国が一部の企業に対してアメリカで監査を受けることを許可する一方、国家機密にかかわるデータを保有するいくつかの企業については監査を許可しない、そんなシステムの構築をアメリカと中国の規制当局が進めているとの見方を示した。
その場合、アメリカでの監査受け入れを禁止された企業はおそらく香港証券取引所での上場を目指すことになる。
中国株は3月第3週、15日まで記録的な売りが続いたあと、16日に先述の劉副首相発言を受けて急上昇。翌17日に小幅な下落を見せて一服したものの、18日には習近平国家主席が「ゼロコロナ」政策の見直しを指示したことを受け、再度上げに転じている(編集部注:その後、週明け3月21日の中国株式市場は下落して引けた)。
中国政府は新型コロナの感染再拡大を未然に防ぐため、検査陽性者がひとりでも出るとロックダウン(都市封鎖)を発令する厳格な措置をくり返してきた。前出のクリシュナン、ニジオレックともに、同政策が中国株の不調をもたらす目下最大の問題と指摘してきた。
ここまで指摘したような、テクノロジー企業への締めつけや上場廃止のリスク、パンデミック以外にも、中国株にとっての難題は数多く存在する。
不動産市場におけるバブルとその崩壊に対する懸念、国家経済の成長鈍化、グロース(高成長)株全般の低迷……最近ではそこにロシアとの関係の不確実性も加わった。
そうしたさまざまな難題や懸念の結果として、2021年の中国株のパフォーマンスは悲惨なものに終わった。
アリババ(阿里巴巴)やバイドゥ(百度)、メイトゥアン(美団)などITプラットフォーム大手はわずか1年で時価総額が半減。上場投資信託「クレーンシェアーズCSIチャイナインターネットETF」は70%価格下落した。
とは言え、これだけ多くの銘柄が大幅下落する状況は、逆に見れば、優良企業に割安あるいは格安で運用資金を配分できるチャンスでもあるはずだ。
英投資運用会社モンドリアン・インベストメント・パートナーズで投資信託「新興国市場バリュー株ファンド」を通じて数十億ドル規模の中国株投資を担当するギニー・チョンは、「数々のリスクがしっかり価格に織り込まれた現在は、投資家にとって大きなチャンスです」と指摘する。
注目すべき中国株
中国の株式市場が直面するあらゆる問題を踏まえたうえで、前出のファンドマネージャー3人は、中国ハイテク銘柄の投資判断を強気とする理由がいくつもあると太鼓判を押す(ただし、ハイテク株に限らず中国株全般に話を広げた場合は意見が分かれる)。
ニジオレックは目下、アリババ、バイドゥ、テンセント(騰訊)など「中国政府の締めつけのターゲットにされてきた」大手プラットフォーマーへのエクスポージャー(=資産をリスクにさらす割合)を増やしている。
「ファンダメンタルズ(=経済の基礎的条件)はここ数年来変わらず力強さを維持しており、それゆえに現在の株価バリュエーションは(割安で)より魅力的に感じられます」
推奨銘柄はスポーツアパレルのリーニン(李寧)や業績好調ないくつかの保険会社。不動産投資会社もポートフォリオに組み込み始めている。理由は明快単純で、株価が下落して割安感があるからだ。
ニジオレックは、習近平国家主席の発言通りに政府のコロナ封じ込め政策が緩和されれば、マカオのカジノやレストランへのエクスポージャーも増やしていくとも語る。
一方、クリシュナンは中国のハイテク大型株には投資していないものの、台湾証券取引所に上場する中国のアナログ集積回路(IC)専業シラジー(矽力傑)に注目する。
「アナログIC設計は長期持続性の高いビジネス。アメリカで言えば、テキサス・インスツルメンツやアナログ・デバイセズがそれです。両社は中国の半導体市場の成長の恩恵を直接受けてビジネスを拡大してきました。
中国政府が(産業政策「中国製造2025」に明記して)半導体の国産化計画を推進するなか、シラジーのような半導体企業はまさにそのニーズを満たす存在と言えるでしょう」
また、チョンは(担当する新興国グロース株ファンドの)ポートフォリオの3分の1を消費者向けインターネット企業銘柄に配分している。保有する主なポジションは、アリババ、バイドゥ、テンセント、自動車小売大手オートホームなど。
残り3分の2は、ワイン・スピリッツ飲料のウーリアンイエ(五粮液)などの一般消費財銘柄、招商銀行(CMB)やピンアン(中国平安保険)など金融銘柄、太陽光発電関連のロンギ(隆基緑能)やシンイーソーラー(信義光能)のような優先的政府支援の対象となる産業分野の銘柄に配分している。
中国政府は建国100年を迎える2049年を長期的な「闘争」と位置づけ、中間所得層の増加をはじめ国全体の生活水準を上げることを重視した発展目標を掲げている。
チョンはこう強調する。
「中国は常に長期的視点にもとづいて政策を運営しており、とりわけ現在の指導部はきわめて長期の視点を持っています。投資家はこの中国政府の姿勢を、自国経済と市民生活の直面するリスクを軽減しようとする意思のあらわれと受けとめるべきです」
(翻訳・編集:川村力)