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- 2022年3月14日、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、核戦争が「起こりうる領域に戻った」と述べた。
- ロシアは以前、新型ミサイルでアメリカのさまざまな場所を消滅させることができると発言している。
- ロシアの核攻撃があるとすれば、ノースダコタ州やモンタナ州といった重要な標的に集中するだろう。
ウクライナでの戦争により、NATO(北大西洋条約機構)がロシアとの直接的な戦闘に引き込まれようとする中、ロシアが核戦力を警戒態勢に置くと警告したことを受け、アントニオ・グテーレス国連事務総長は、核戦争が「起こりうる領域に戻った」と述べた。
2017年に採択された核兵器禁止条約にアメリカやロシアが参加することはなく、冷戦時代のライバルが再び互いを標的とする体制に戻ると、ロシア国営メディアは、ロシアがアメリカの都市や地域をいかにして消滅させようとしているのか、その方法を詳述した。ロシアの政権は極端な政策を取る傾向にあり、これは衝撃的な脅威となった。
ロイター通信が報じたところによると、ロシア国営テレビは、当時の最新型の核弾頭を搭載できる極超音速ミサイルを誇示し、バージニア州のペンタゴン(アメリカ国防総省)、ワシントン州のキャンプ・デービッドとジム・クリーク海軍無線基地、メリーランド州のフォート・リッチー、カリフォルニア州のマクレラン空軍基地が標的になり得ると述べた。
しかし、後者の2つは20年以上閉鎖されており、標的としては奇妙な選択だった。
ロシア政府や、その政府によって厳しく検閲されたメディアからの情報は、疑ってかかった方がいいだろう。Insiderは、ロシアが攻撃しそうな場所について、ロシアの言葉を鵜呑みにするのではなく、専門家の意見を聞いた。
冷戦以来、アメリカとロシアは、核戦争でいかにして相手を出し抜くか、計画を練ってきた。標的として文化的に大きな影響を与える大規模な人口密集地を選ぶのは当然のように思えるかもしれないが、軍事ストラテジストは、核攻撃とは敵の核施設を制することだと考えている。つまり反撃される前にそれらを破壊するということだ。
「Atomic Audit: The Costs and Consequences of US Nuclear Weapons Since 1940」の著者であるスティーブン・シュワルツ(Stephen Schwartz)によると、冷戦の進行とともに核兵器や情報収集の技術が向上し、核兵器の照準をより正確に合わせられるようになると、標的の重点が都市から核兵器の備蓄施設や核関連のインフラに移ったという。
シュワルツが作成した下記の地図は、アメリカの核戦力を一掃するためにロシアが攻撃するであろう重要な地点を示しているという。
Map: Shayanne Gal/Insider Source: Stephen Schwartz
この地図は、アメリカの核インフラ、兵器、指揮統制センターなど全面攻撃の標的を表しているが、このような大規模な攻撃を行っても、その効果が保証されているわけではない。
「攻撃が完全に成功する可能性は極めて低い」とシュワルツはInsiderに語っている。「このような攻撃を完璧にやり遂げるには、多くの不確定要素を制御しなくてはならない。そしてそれは完璧でなくてはならない。わずかな兵器でも破壊しそこなうと、それに反撃されることになる」
アメリカの大陸間弾道ミサイル(ICBM)の保管庫、大量の核兵器、核搭載爆撃機がすべて破壊されたとしても、アメリカの原子力潜水艦が報復するだろう。
シュワルツによると、アメリカは常時4、5隻の核武装した潜水艦が「厳戒態勢で哨戒域に待機し、発射命令に備えている」という。
アメリカ軍の高官でさえ、所在を知らないこれらの潜水艦をロシアが追跡して攻撃するのは不可能であり、そうなる前に潜水艦の方が攻撃するだろう。5分から15分もあればそれが可能だとシュワルツは言う。
とはいえ、比較的人口の少ない地域への攻撃でも、風向き次第ではアメリカ全土に死と破壊をもたらす可能性がある。放射性降下物のせいだ。
危険な放射性降下物が降り注ぐ地帯は、核爆発の後、急速に縮小する。
Brooke Buddemeier/Lawrence Livermore National Laboratory
アメリカは、核攻撃の標的ともなる核施設の大部分を、人口密集地から離れた場所に戦略的に配置している。しかし、もしICBM保管庫の隣に住んでいたとしても、心配はいらない。
シュワルツによれば、ロシアがアメリカに対する核攻撃で生き残る可能性は「0.0%」だという。我々は皆、核兵器という「ダモクレスの剣(常に危険と隣り合わせの状態)」の下に生きているが、ニューヨークやロサンゼルスなどの大都市に住む人々は、核兵器による攻撃を心配する必要はないだろう、とシュワルツは付け加えた。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)