「大転職時代」到来でじわり広がるリファレンスチェック。早稲田大学・入山章栄教授×エン・ジャパンが語る転職市場の動向

コロナ禍で転職市場に変化が起きている。企業も変化に合わせて採用力を強化する必要があるが、採用の場面で効果を発揮すると期待されているのが「リファレンスチェック」だ。海外では候補者の前職での評判を調査するリファレンスチェックが一般的に浸透しているが、日本市場では導入が始まったばかり。リファレンスサービス「ASHIATO(アシアト)」を開発したエン・ジャパンの福村知久氏と、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授に、日本の転職市場の動向とリファレンスサービスの可能性について語り合ってもらった。

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福村知久(ふくむら・ともひさ)エン・ジャパンが開発したリファレンスチェックサービス「ASHIATO」責任者。大手企業中心に採用支援のセールスを経て、エン・ジャパンの人事部へ異動。約7年間新卒・中途の採用担当として毎年200名規模の採用に従事。その後、大手総合家電メーカーへ出向し中途採用の戦略立案業務を行なう。現在は、人事と兼任で同サービスの責任者を務める。

——直近の人材市場をどのように分析していますか。

入山章栄教授(以下、入山) 2022年は「大転職時代」の元年です。コロナ禍でもすでにその兆候は表れていて、デジタル系の人材の転職市場が活発です。それに加えて、大企業からベンチャー企業への転職が大きな動きになるでしょう。

昨年まで、世界はカネ余りで、行き先を失った資金がベンチャー企業に集まっていました。その流れがいよいよ日本にもやってきて、ベンチャー企業の資金調達環境が劇的に良くなってきました。大企業がベンチャー投資を加速させているのも大きいですね。少し前までシリーズAで1億円調達だと「すごい」という世界でしたが、今は10億円集まります。資金調達したベンチャー企業が最初に投資するのは人材です。今年はベンチャー企業の給料が大企業を上回る。それによって人材がベンチャーに一気に流れていくでしょう。

福村知久氏(以下、福村) 変動の予兆は我々も感じています。これまで日本の人材市場は世界と比べて異質さが目立っていました。一言で言えば、雇う側も働く側も保守的。しかし、2、3年前から20~30代の意識がガラリと変わりました。直近はコロナ禍への不安から一時的に転職に歯止めがかかる層もありましたが、既に流動化に向かっていて、その流れは止まらないと見ています。

入山 コロナで具体的なアクションは止まっていても、マインドの変化は加速していますよね。これまではみんなオフィスに出社していたので、「職場=島(オフィス内での部署ごとのデスクの集まり)」であり、それが、その企業で働くことのアイデンティティの一つになっていました。しかしリモートワークで「島」がなくなり、「あれ? 自分はなぜこの会社で働いてるの?」と考えるようになった。従業員の企業に対するエンゲージメントは落ちているので、コロナ禍という歯止めがなくなった瞬間、堰を切ったように流れていくと思います。

人材流動化の時代はジョブ型雇用が必須

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今回の対談はオンラインで実施した。
入山章栄(いりやま・あきえ)。早稲田大学大学院経営管理研究科教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。 三菱総合研究所で主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』がある。

——人材の流動化の動きに、企業はどう対応しているのでしょうか。

福村 両極端ですね。人事がレガシーなままの企業もあれば、経営に近い視座を持ち「人事のかじ取り次第で経営が傾く」という危機感を持っている企業もあります。当然、人材獲得競争で強いのは後者です。

入山 レガシーな企業の人事部には“いい人”が多いのですが、いい人過ぎて受け身なんです。 ただ、たまに感性のいいCHRO(最高人事責任者)もいて、そういう方がいる企業はジョブ型雇用を取り入れ始めていたりする。

人材の流動化を前提にすると、ジョブ型雇用は不可欠です。中途採用するとき、いまだに「〇〇社にいたのか。ならばうちでも」と考えてしまう人事もいますが、本当は「何ができます」が全て。メンバーシップ型のままだと、採用したものの求めているスキルを持っていなかったというミスマッチの事例が今以上に増えていくでしょう。

福村 ミスマッチは日本企業の課題です。実は日本の採用面接は、ここ10年ほとんどアップデートされていません。面接は、主観的な短時間のコミュニケーションでいかに良い印象を持ってもらうかの勝負。その傾向はコロナ禍でオンライン面接になっても同じです。

私は、短時間の面接2~3回で人を見極めるのは難しいと考えています。ところが現実には「人を見る目に自信を持っている」と考える経営者や人事担当者の方が少なくない。そういう企業はジョブディスクリプション(職務記述書)が抽象的なのはもちろん、採用の要件定義すらアップデートできていないケースが多い。不確実な印象に引きずられて採用していれば、ミスマッチが起きるのは当然です。

今、採用現場で求められる「リファレンスサービス」とは

リファレンスチェックとは?

提供:エン・ジャパン

ミスマッチを防ぐ手法の一つが、応募者の前職での実績や人物像を確認するリファレンスチェックだ。エン・ジャパンは2020年10月、リファレンスレポートサービス「ASHIATO」の提供を開始。日本では草分けのサービスだが、2022年3月現在、約1年半で400社の導入実績を誇る。

——日本でもリファレンスチェックが注目され始めています。

入山 欧米ではごく一般的です。アメリカでは、学者の世界ですらリファレンスチェックを普通に実施しています。研究実績が残りやすい研究者に対しても普通にやっていますから、民間企業ではそれ以上に活用されていますね。

福村 かつて日本で行われていたのは「反社会的勢力と関連はないかどうか」「経歴に虚偽はないか」という与信管理中心のネガティブチェックでした。

しかし、今や「リファレンス」の定義が変わりつつあります。「リファレンス」は、これまでの仕事で積み重ねてきた信頼とスキルのポートフォリオです。先進的な企業が「前の職場でこれだけ信頼を築きあげてきた人なら、うちの会社に合う」とマッチングを判断する材料として使い始めています。

自分が得た信頼が可視化されることは、転職者にとってもメリットが大きい。不採用になるより、合わない会社に採用されて時間やキャリアを無駄にする方が不幸です。

従来のネガティブチェックだけではなく、信頼を可視化して最適なマッチングを生み出していく——。そういう世界観をつくりたくて「ASHIATO」をリリースしました。

入山 多くの会社の採用支援をしてきたエン・ジャパンだからこそ、ノウハウを生かしたサービスが提供できそうですね。

福村 当社には約15万社の採用支援を実施してきた実績に加えて、30年以上の実績をもつ自社開発した適性テストのノウハウもあります。「ASHIATO」は、リファレンスチェック機能だけでなく、他己分析結果も併せて可視化し、人事データとして有効活用してもらえるツールになっています。

将来は蓄積した「信頼データ」の活用も視野に

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入山 リファレンスサービスが普及すると、職場にいい意味での緊張感が生まれる効果もあります。たとえば同僚を出し抜いて自分本位で実績をつくればいいという人は、悪いリファレンスを書かれてしまう。いつか転職する可能性を考えると、周りといい関係を築いておいたほうがベター。パワハラの類も減るし、今の仕事をより大切にする人が増えるのではないでしょうか。

福村 私たちは「信頼貯蓄」と呼んでいますが、これまでの職場で積み上げてきた信頼を数値化して、職場を移ってもリレーできるような世界観をつくりたいんです。「ASHIATO」の特徴の一つは、調査にデジタルを活用していること。デジタルはスピードが速くて低コスト。さらにデータを貯めやすい利点があるので、その特徴を活かせればいいなと。

データは企業側も活用できます。例えば入社後の活躍データと組み合わせて、「こういうリファレンスのある人ほど我が社に合っている」といった分析もできる。その分析を採用側にフィードバックすれば、より精度が高いマッチングメリットができるでしょう。

入山 これまで与信の信用スコアはあっても、職場での信頼データはありませんでした。そのデータが蓄積されて企業・転職者ともに活用できるようになると、面白い世界が広がりそうですね。期待しています。


企業、転職者双方にとって重要なのは、経験やスキルはもちろん、カルチャーまで含めてお互いにマッチすることだろう。リファレンスサービスは履歴書だけでは表現しきれない個性を伝える貴重なツールとなる。自社にマッチする人材を確実に見極めるために。「大転職時代」が到来する今後、リファレンスサービスが転職市場で果たす役割は大きくなりそうだ。

リファレンスサービス「ASHIATO」について詳しくはこちら

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