労働者は大挙して退職や転職をしており、CEOたちに人材の奪い合いをさせている。
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- 新型コロナウイルスのパンデミックが続く中、リモートワークからオフィス勤務に戻す会社が増えている。
- しかし、全員が元のやり方に戻したいと思っているわけではない。特に持病を抱える人々は戻りたくない。
- 会社の復帰要求に抵抗した3人の従業員に話を聞いた。
あるPR会社の従業員は、パンデミックのためにリモートで1年以上働いたあと、同僚とともにオフィスに戻るように1週間前に通告された。
ヒアリングも猶予も選択肢も無かった。ただオフィスに1週間で戻ることを要求されたのだ。仕事や私生活や育児スケジュールを考え直す時間もなく。
2020年3月以来、多くの会社が断続的にリモートワークを実施した。そして最近になって、デルタ株やオミクロン株の出現にもかかわらず、多くの会社が従業員にオフィスに戻るよう要求している。
しかしパンデミック期間中、労働者は手放したくないリモートワークの恩恵を見つけた。通勤が無く、休憩中に運動もできるし、外食ではない健康な食事ができる。そしてスケジュールをより思い通りにできるから、自分にとって重要なことのために時間を作ることができる。子供を学校に迎えに行くために仕事を早く始めて早く切り上げることもできるのだ。その結果、もっと良い状況を得たいと気づいて仕事を辞めるワーカーが続出した。彼らは「大退職」と呼ばれるムーブメントに参加しているのだ。
先述のヘルスケア広報会社で働く従業員(自分のキャリアを守るために匿名を希望した)は、リモートで仕事を継続できる可能性について会社の人事部に連絡を取った。
「(会話は)すごく事務的で、あまり心がこもっているようには思えなかった」と彼女は言う。
「なぜ、それほど急いでいるのか、オフィスに戻ることにどんな代価があるのかについての説明はなかった」
しばらくの間は週に1日だけの出勤で良いという条件に会社は同意したが、彼女は最終的にこの仕事をやめてフルリモートの仕事を見つけた。大きな要因は彼女の子宮内膜症だった。その病気によってオフィスにいる時に突発的な痛みに襲われるかもしれないという不安があったのだ。
「家にいれば穏やかに過ごせる」と彼女は言う。
「通勤や居心地悪いオープンなオフィス空間にいること自体、それに費やすエネルギーで疲れてしまい、自分を労ることができなくなってしまう」
医薬販売で働くもう一人の労働者がInsiderに語ったところによると、リモートで働き始めたら心と体の健康が改善したという。そのうえ、彼女の営業成績は販売目標を平均で15%上回ったのだ。
だから、オフィスに戻る時だと上司に言われた時に彼女は抵抗した。在宅で働いて成績が良いのに、なぜ戻らなければならないのかと。
抵抗は実を結ばず、彼女は会社を辞めた。
彼女は当時を振り返り、今思えば自分は大量退職時代の最前線にいたのだろうと言う。職場の中でオフィス勤務に戻すことに対して最初に疑問を呈したの彼女だった。「昔からずっとそうしてきたから」という雰囲気があったからだ。
「経営幹部たちには従業員の声を聞く気がなかった。従業員の満足よりも管理の方が大事という会社にはいたくなかった」と彼女は言う。
彼女が辞めた後、リモートワークが大きく推進された。会社はリモートワーク監視役を配置したが、彼女は既にフルリモートが可能な仕事に転職していた。
「健康や幸福という点での満足度は高くなった。生産性が上がって、ワークライフバランスも良くなった」と彼女は言う。
Insiderに話をしてくれたもう一人の労働者はビデオゲームの開発者で、2020年3月から在宅で働いているが、上司はオフィス勤務に戻す準備をしている。彼と同僚は週に2~3日であれば出勤することを受け入れるが、5日ということになれば、柔軟性のある働き方を探す人が多くなるはずだという。
「気が散らない快適な環境で在宅勤務できる人はオフィスで働くよりも生産性が高いが多い」と彼は言う。
「在宅勤務の成功例が知られている今となっては、全員が(オフィスに)戻るように義務付けるのは時代遅れで厳し過ぎるように見える」
労働者たちの経験には共通点がある。それは、パンデミック中に在宅勤務でうまくいくことが証明されているのに、オフィスに戻らなければならない現実的で具体的な理由はあるのか、ということだ。先述の医薬品販売会社で働いていた労働者が言うには、オフィスに戻ることを命じられた時、心と体の健康が悪化するのをすぐに感じたという。
「(パンデミックによって)自分の人生を見つめ直し、何が自分にとって重要なのかを再確認する必要に迫られた」と彼女は言う。
その再確認の結果が、フルリモートの新しい仕事に就くことだった。
(編集:Toshihiko Inoue)