米バズフィード(BuzzFeed)がニュース部門の組織改編と早期退職募集の開始を発表した。
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米デジタルメディアのバズフィード(BuzzFeed)が、ニュース部門の扱う内容をネットカルチャーなどに特化させ、長期の調査報道からは撤退する方針を決定。人員削減のために早期退職を募集することを発表した。
3月22日にオンラインで開かれた従業員総会では、激怒したニュースルームのスタッフたちが経営陣に対して罵声を浴びせた。
Insiderが独自に入手した総会の録音によれば、バズフィードのジョナ・ペレッティ最高経営責任者(CEO)はスタッフらに対し、不採算のニュース部門立て直しに向けてビジネスサポート部門の強化を目指しており、そのためのコスト削減策として早期退職を募集することになったと説明した。
ペレッティは「人員削減はいずれにしてもきわめて困難で厄介な仕事だ。できることなら(早期退職の募集に応募してもらい)レイオフ(整理解雇)で首を切る形にはしたくない」と発言。
調査報道から撤退後の新たな戦略については、「その日最大のニュースとスクープ、インターネット、カルチャー、ライフ、ヘルス分野の徹底取材、よりスピード感のある調査」(ペレッティ)に重点を置くという。
ペレッティはニュース部門の維持継続を約束したうえで、「ただし、他部門の収益で(ニュース部門の)不採算を埋め合わせる考えはもうない。過去から脱却する必要がある。赤字補てんはもう何年も続いてきたことだが、いまこそニュースを持続可能なビジネスに変えなくてはならない」と語っている。
バズフィードのニュース部門は10年前の2011年、政治専門メディアのポリティコから移籍したベン・スミスが自らを編集長として設立。政治および調査報道を通じて名を売り、もともと有名だったポップカルチャーブランドとの双頭として知られるようになった。
2021年には、衛星写真などデジタル技術を駆使して中国・新疆ウイグル自治区におけるイスラム教徒の集団拘束など一連の人権問題に関する調査報道により、初めてピュリツァー賞を受賞している。
バズフィードは今回、2021年12月の上場後初めてとなる四半期決算を発表し、同時に早期退職者の募集を明らかにした。
また、特別買収目的会社(SPAC)との合併上場とセットで発表していたコンプレックス・ネットワークス(Complex Networks)の買収に伴い、従業員を1.7%レイオフすることも発表した。
同社の2021年第4四半期(10〜12月)の売上高は前年同期比18%増だったが、利払い前・税引き前・減価償却前利益(EBITDA)は同12%減の3420万ドル(約41億円)だった。
上記の発表と同時に、ニュース部門の幹部クラス3人が退社することも明らかにされている。
バズフィード・ニュースのマーク・シューフス編集長がそのひとりだ。
従業員総会でシューフスは、個人的には「こうした変化は望んでいなかった」と発言。次のリーダーについては、「特定のテーマにしぼり込んだもっと小さなニュースルームを経営陣は(黒字化のために)必要としていて、それは私が実現したいと思うビジョンとは異なる」と語った。
Insiderはシューフスに追加でコメントを求めたが拒否された。
副編集長のトム・ナマコも退社を発表し、米NBCニュースのデジタル部門エグゼクティブエディターに就任することを明らかにした。エグゼクティブエディター(調査報道担当)のアリエル・カミナーも退社する。
なお、今回の早期退職募集は、ニュース部門で調査報道、差別問題、政治、科学の各担当チームで少なくとも1年以上勤務する、労働組合に参加していないスタッフが対象となる。
一方、労組参加のスタッフについては、ニュース部門の暫定リーダーでエグゼクティブエディター(戦略担当)のサマンサ・ヘニグによれば、組合員向けの早期退職プログラムを別途提案するという。
従業員の発言前に総会を退席したCEO
バズフィード最高経営責任者(CEO)のジョナ・ペレッティ。
REUTERS/Albert Gea
3月22日の従業員総会。バズフィードの複数の大株主がニュース部門の完全閉鎖を求めているとした米CNBCの報道に関してなど、従業員からの質問が出始めたころ、ペレッティCEOはすでに退席していた。
同社の広報担当はInsiderの取材に対し、従業員総会当日のペレッティは同社上場後初の決算発表のために終日予定が立て込んでおり、それでもニュース部門のスタッフからの、もしくはニュース部門についての、あらゆる質問に答える準備はあったと語った。
ペレッティとヘニグにメールでコメントを求めたが返答はなかった。
さて、ペレッティ不在の総会はその後、ニュースルームのスタッフが不満をぶちまける場と化した。
あるスタッフは次のように発言した。
「我々がマーク(・シューフス編集長)から受け取ったメッセージと正反対じゃないか。この2年間、我々はより長めの、問題を掘り起こすニュースを追求してきた。それなのに、いま聞いている話はまったく逆だ。ニュースが嫌いな株主が一部いる、という以外に何が問題なのまったく分からない」
別のスタッフの発言はこうだ。
「本当に腹の虫がおさまらない。(従業員質問の前に)ジョナ(・ペレッティ)が退席したのはきわめて失礼、無礼千万(fucking disrespectful)だ。心から失望した。ひどいじゃないか。労働組合があるのにこのザマだ(fucking union)。従業員に対してこんな扱いがあっていいのか」
別の従業員も同調した。
「すべての従業員が動揺していると分かっていながら、ジョナ(・ペレッティ)はこの総会から出ていった。ジョナはその前に、ニュース部門がバズフィード社内の慈善事業であるかのような口ぶりで、他部門の利益から『補助する(subsidize)』つもりはないと語った。あれは侮辱だ。士気に関わる問題だ」
さらに別のスタッフは、メインサイトのエンタメコンテンツと(調査報道から撤退したあとの)新たなニュースコンテンツをどう差別化していくのか質問。暫定リーダーに指名されたヘニグは次のように回答した。
「いちばん大事なのは我々がジャーナリストだということ。そこが一番の差別化ポイントだと思う」
加えて、ニュースルームスタッフにもレイオフの可能性はあるのか、まだ検討の俎上に乗っているのかとの質問に対し、ヘニグはこう答えた。
「経営側はあくまで早期退職の募集を通じてコスト削減を実現しようとしている。(2020年11月にバズフィードが買収を発表した)ハフポストのビジネス再建支援にあたったビジネス部門のチームが、今回のニュース部門の財務体質改善も担当することになる」
ヘニグは総会でこうも語っている。
「読者や視聴者のために役割を果たし、世界をより良くするジャーナリズムに取り組み、未来に向けた成長と投資を継続するためにコストを回収できる持続可能なビジネスモデルの上に立ち、そうした活動を続けていくにはどうしたらいいのか。それらの課題に対するひとつの結論が、我々の目の前にある会社の決定だ」
(翻訳・編集:川村力)