2015年にニューヨーク市のイベントで講演するジャック・ヒダリー。
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アルファベット社内で始まった量子技術部門のサンドボックスがスピンアウトし、ベンチャーによる支援を受けてSaaS企業「サンドボックスAQ」として独立する。
この新会社では、「差し迫ったグローバル課題に取り組むため」量子技術を使った法人向けソフトウェアを開発する予定で、サイバーセキュリティ、医薬品開発、クリーン・エネルギーなどの領域で貢献していくつもりだという。
サンドボックスはもともとグーグルの共同創業者であるセルゲイ・ブリン(Sergey Brin)が作った事業で、ブリンが起業家のジャック・ヒダリー(Jack Hidary)をトップに指名し、チーム編成を任せた。内部事情を知る人によれば、社内では「セルゲイのサンドボックス」と呼ばれていたらしい。
独立するサンドボックスAQは、グーグルのエリック・シュミット(Eric Schmidt)元CEOの支援で資金調達をしており、シュミットが会長に就任する。ブレイヤー・キャピタル(Breyer Capital)、トーマス・タル(Thomas Tull)、ファースト・ライト・キャピタル・グループ(First Light Capital Group)のほか、マーク・ベニオフ(Marc Benioff)のタイム・ベンチャーズ(Time Ventures)も投資家として名を連ねている。正確な調達額は公表されていないが、ヒダリーは「数億ドル単位のものだ」と明かしてくれた。
サンタバーバラに拠点を置くグーグルの量子コンピューター開発部門とは異なり、サンドボックスは量子技術をソフトウェアや人工知能(AI)と組み合わせて活用することに注力している。量子AIを使ってより強力な医療センサーを開発したり、従来のソフトウェア・エンジニアが量子コンピューターを活用できるようにするためのサポートを行ってきた。
コンピューター・サイエンス、機械学習、量子コンピューティングに精通するヒダリーは、独立後もCEOを務め、アルファベット内でサンドボックスに所属していた社員を含めた55人の社員を率いることになる。今回調達した資金でAIの専門家、物理学者やエンジニアをさらに採用する予定だという。
サンドボックスの現在の顧客には、ソフトバンク、ボーダフォン・ビジネス(Vodafone Business)、ニューヨークのマウント・サイナイ・ヘルス・システム(Mt. Sinai Health System)などが名を連ねているという。
「法人向けソフトウェアの規模拡大に期待し、私は、ジャック(・ヒダリー)CEOとサンドボックスAQに投資します。ジャックはセールスフォースがクラウド・コンピューティングの時代の流れに乗ったときのように、量子技術の時代の流れに乗ろうとしています」とマーク・ベニオフは、メールで送られた声明の中で述べている。
また、ブレイヤー・キャピタルのジム・ブレイヤーCEOは、量子技術には医薬分野に「莫大なチャンス」があるものの、サンドボックスAQがいち早く効果を出せるのはサイバーセキュリティの分野だという。
「直近1、2年で実用化されそうなのは、量子技術を使ったセキュリティのあるネットワークの構築です。かつてないほどサイバーセキュリティの重要度が増しつつある中、量子の技術やセキュリティは遠からず不可欠なものになるでしょう」
エリック・シュミットも以前、アメリカ政府に対し、中国に追い抜かれないようにAIや量子コンピューティング分野において対策を取るよう迫ったことがある。
アルファベットから独立することで、サンドボックスAQは「スタートアップ並みのスピードで動けるようになる」、このことは同社にとって重要だ、とジム・ブレイヤーは言う。
ブレイヤーは、アルファベットは今後もサンドボックスAQと緊密な関係を維持するだろうと話している。だがアルファベットの広報担当者によれば、サンドボックスAQと資本関係を持つ予定はなく、「ジャックが会社を独立させる際の力添えができ、当社としても光栄です。今後の成長を楽しみにしています」と言い添えている。
しかしサンドボックスAQが発表したアドバイザリー・ボードメンバーの中には、以下のとおりグーグル関係者の名前も確認できる。
- アンドリュー・コンラッド(Andrew Conrad):アルファベットのベリリー(Verily)事業CEO
- マーク・ポラット(Marc Porat):グーグルCFOルース・ポラット(Ruth Porat)の兄弟
- ウェンディー・タン・ホワイト(Wendy Tan White):アルファベット傘下のイントリンシック(Intrinsic)CEO
- ヨッシ・マティアス(Yossi Matias):グーグルのリサーチ・エンジニアリング部門バイスプレジデント
- スーザン・M・ゴードン(Susan M. Gordon):国家情報部門元プリンシパル・ディレクター
(翻訳・田原真梨子、編集・大門小百合)