わずか1年足らずで23万フォロワーを獲得したライアン・マクニール。
Ryan McNeill
映像プロデューサーのライアン・マクニール(Ryan McNeill)は、「@invisible_influence」というアカウントでTikTokを始めてわずか1年足らずで23万人ものフォロワーを獲得した(編集部注:2022年3月23日時点では約26万フォロワー)。
プロデューサーに転じる前にマーケティングの仕事をしていた経験を活かし、TikTokではマーケティングや広告の裏にある心理を伝える動画を投稿している。
アメリカなどで定番のハミガキ粉「コルゲート」の「5人中4人の歯科医師が推奨」(“4 out of 5 dentists recommend Colgate”)という売り文句はなぜ誤解を招くのか、なぜ人はアディダスが著名ラッパーとコラボして作ったスニーカー「イージー(Yeezy)」に1100ドル(約13万2000円、1ドル=120円換算)も払うのか、といったマクニールの投稿動画には、元マーケティング担当者としての知見が生かされており、コマーシャリズムに懐疑的なTikTokのオーディエンスに受けている。
マクニールは言う。「消費者にとって有益な動画だと思ってもらえているんでしょうね。『なるほど、だから必要なさそうなものまで欲しくなるのか』とね」
マクニールは動画の中で価格戦略や広告戦略を分析し、自らの知見を披露している。こうした活動を通じて、ブランドや企業の役に立ちたいと考えているそうだ。「願わくば、倫理観をもってそうした戦術を活用し、商品を広めていってほしい」という。
以降では、マクニールがどのようにして1年で23万フォロワーを獲得したのか、その秘訣を明かす。扱う内容が何であれ、TikTokで存在感を確立するうえでは応用できるコツばかりだ。
「たくさんの人がフォローし始めたのは衝撃」
コロナ禍の副産物はたくさんあるが、マクニールのTikTokアカウント「@invisible_influence」もその一つと言えるだろう。マクニールはパンデミックを機にTikTokを始めた。ロックダウンが断続的に続くなか、TikTokに投稿するのは「創作の仕方を忘れないための練習みたいなもの。短い動画で実験するような感覚」だったという。
マクニールにとって「多くの人が注目してくれ、フォローしてくれたのは衝撃だった」という。フォロワー数をゼロから23万人へと伸ばすのに必要なスキルは、自らの紆余曲折のキャリアから得たという。
マクニールは広告業界に携わった後、カニ漁を題材としたドキュメンタリー番組『ベーリング海の一攫千金(“The Deadliest Catch”)』のプロデューサーを担当した。その後マーケティング畑に舞い戻り、今度はNPOでデジタルマーケティングの仕事を始めた。
マクニールは言う。「私のキャリアの根底にあるのは、人間に対する興味と、人の購買行動に対する興味です。『広告の効果がどのように決まるのか』でもいいし、テレビのドキュメンタリー番組でもいい。自分とは全く異なる人生を経験することに、すごく興味があるんです」
番組制作の経験があるからこそプロらしい動画制作のスキルが身についたのだし、広告やマーケティングの経験があるからこそどんなコンテンツがオーディエンスに受けそうかが分かるのだとマクニールは言う。
動画の質よりアイデアの質
マクニールのインスピレーションの源は、仕事、本、ポッドキャストなど、さまざまだ。視聴者の役に立ちそうな豆知識を、耳で探す。マクニールは言う。
「アイデアをたくさん溜めておくのですが、実際に動画になるのはそのうち半分以下ですね。せっかく動画の台本を書いても、これはTikTok向きじゃないなと気づくこともあります。複雑すぎたり頭に残らなさそうな内容だと、あまり面白い動画にならないので。
動画に採用するのは、興味をかきたてそうなもの、驚いてもらえそうなもの、視聴者の役に立ちそうなもの。これを心がけています」
TikTokでたくさん再生される動画作りを目指すのであれば良いアイデアが必要であり、良いアイデアこそが作品の質を高める、というのがマクニールの信念だ。
ただし映像プロデューサーの立場では、冒頭3秒に強力なフックが必要だ、とも言う。
「コツは、最初の2秒で関心を引いておいて、一部の情報は最後まで伏せておくことですね。これを『オープンループ(opening a loop)』と言います。効果的に実践できれば、かゆくてたまらないからかきむしりたい、という感じで知りたくなるので、最後まで見てもらえます。そうすれば『オープンループを閉じる』ことができるわけです」
マクニールは、TikTokで成功するのに高価な機材は必要ないと強調する。
「私が使っているのは高性能のデジタル一眼レフとプロ仕様のマイクですが、これもたまたま持っていたから使っているだけ。TikTokなら手持ちのiPhoneで十分」
ただし外付けマイクに関しては、ワイヤレスイヤホン内蔵マイクのような簡易なものでもかまわないので用意したほうがいい、とアドバイスする。
専門家向けオンライン講座を予定
マクニールはTikTokからまだそれほど収益を得ているわけではない。InsiderがTikTokのダッシュボードを確認したところ、2021年3月に収益化し始めてから、TikTokのクリエイターファンド(TikTok's Creator Fund)を通じて258.65ドル(約3万1000円)を得た程度だった。
さまざまなブランドからオファーは来ているが、TikTokで自ら解説してきたのと同じ戦術を使ってフォロワーにモノを売りたいとは思わないという。
一方で、ある分野の専門家が自身の知見をオンラインで伝えていきたいと思っているなら、マクニールが得てきた学びが役立つのではないかと考えている。そこで、ビジネスコーチや起業家向けに、TikTokのフォロワー数を増やす方法を教える講座を開こうと準備中だ。
「ビジネスコーチだろうが起業家だろうがケーキ職人だろうが、関係ありません。TikTokのオーディエンスが知りたいのは、信頼し尊敬できるアカウントかどうか、そして、あなた自身がオーディエンスに価値ある何かを提供できるかどうかです」
ブランド側と協業することはめったにないものの、SNSでフォロワー数が多いと、無料で商品をお試しをさせてもらえるなど得することもあるという。
「ほしいと思ったものは今のところ何でももらえているので、びっくりです」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・常盤亜由子)