コンビニ各社は脱プラの取り組みを進めている。
撮影:三ツ村崇志
コンビニやスーパーで配布しているスプーンやフォーク。ホテルの洗面所に並ぶ歯ブラシやカミソリなどのアメニティ。アパレル店に並ぶハンガー……。
4月1日以降、私たちの生活に身近なプラスチックの姿が、様変わりするかもしれない。
2022年4月1月から、企業にプラスチックの使用量を削減するよう求める新しい法律(通称:プラスチック資源循環促進法)が施行されるからだ。
コンビニ3社「カトラリー有料化」はしない方向
【図1】コンビニ大手3社のスプーン・フォークの取り扱いをまとめた。
コンビニ各社へのアンケートをもとに、編集部が作成
新法では、プラスチックカトラリーやハンガー、歯ブラシなど12品目を「特定プラスチック使用製品」として指定し、これらの製品を年間5トン以上取扱う小売業などに対して「合理化」を求めている。
ファミリーマート、ローソン、セブンイレブンのコンビニ大手3社では、新法の施行に向けて準備を進めてきた。
Business Insider Japanでは、3社に対してカトラリーの取り扱いや、カトラリー以外の「脱プラスチック」の取り組みについて共通したアンケートを実施した。
まず、スプーンとフォークについては【図1】で示した通り、各社バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックの使用、あるいは持ち手部分に穴を開けるなど、プラスチックの使用量を削減することで対応する方針だ。
Twitterなどでは、今回の新法施行に伴い、
「コンビニのスプーンやフォークが有料になるのでは?」
という噂も流れていたが、各社有料化は避けている。
また、ファミリーマートでは、プラスチックの使用量を削減したフォークや、生分解性プラスチックを使ったフォークの導入を進めている一方で、最終的にはフォーク(および先割れスプーン)の配布を「取りやめる」(時期は未定)ことを前提に、実証試験を進めているという。ファミリーマートでは、ストローについても全店舗で生分解性プラスチック製ストローとバイオマス5%配合したストローの導入が完了。マドラーも2020年3月以降、本体が木製で、外装の袋が紙製に変更されている。
ローソンでは、店舗が希望すれば、木製のカトラリーを消費者が選択的に導入できる仕組みを4月から開始。もともと2021年8月から都内ナチュラルローソンで実験的に進めてきた試作だったが、4月から関東と近畿地区の店舗を皮切りに全国に広げていく方針だ。
セブンイレブンでも、2019年からストローには生分解性プラスチックを採用。2022年3月の段階で全店に導入が完了したとしている。
コンビニ商品の脱プラは、スプーン・フォークだけじゃない
ファミリーマートでは、すでにプラスチック使用量を削減したスプーンの取り扱いを始めていた。持ち手に穴が開いている。
撮影:三ツ村崇志
4月から施行される脱プラ新法では、特定プラスチック製品に指定された12品目の使用量の削減が求められている。とはいえ、脱プラの目的や世界的な要請を考えれば、規制されているかどうかに関わらず、プラスチックの削減が求められている状況だ。
そこでコンビニ大手3社に、自社PB商品などのカトラリー製品以外でのプラスチック削減策を尋ねると、次のような回答があった。
ファミリーマート
「2021年8月から、直巻おむすびの包材を薄肉化および、バイオ素材の配合に変更することでプラスチック使用量を減らし、年間約70トンのプラスチック削減効果を見込んでいます。
2021年6月には、パスタ商品の一部容器を植物などの再生可能な有機資源を原料としたバイオPP容器に変更しました。サラダ全品の容器(約30種類)にバイオマスプラスチックなどを使用した環境配慮容器を使用しています。
これにより石油系プラスチックが年約900トン削減されました」
ローソン
「3月14日より順次、オリジナルペットボトル飲料の緑茶、烏龍茶、麦茶、ほうじ茶、ジャスミン茶、アールグレイ(無糖)の計6品のラベルを、従来の使用量の約50%にします。これまでは、ペットボトル全体を覆うようにラベルを貼付していましたが、このたびハーフラベルに変更しました。これにより、年間約100トンのプラスチック削減が見込めます」
セブンイレブン
「惣菜シリーズ『カップデリ』の容器のフタを『トップシール』に変更し、従来の容器に比べ、1個当たり約25%のプラスチック使用量を削減しました。この他にも『チルド弁当』定番4種の本体容器の紙化や、グループのPBセブンプレミアムの一部のパッケージに、グループで回収したペットボトルリサイクル素材を使用しております」
4月1日からの新法の施行に伴い、各社のカトラリー製品の取り扱いに目が向きがちだが、プラスチックの包装容器に溢れたコンビニの中では、少なからずさまざまな商品の脱プラ・減プラが一歩ずつ進んでいると言える。
※各社の取り組みは、これが全てではないことに注意
「使いにくい」「慣れない」にどうこたえるか?
撮影:三ツ村 崇志
コンビニとともに春からの動向が気になるのが、ファストフードなどの外食チェーンだ。
外食大手のすかいらーくグループでは、1月から持ち帰り・宅配用に提供していたバイオプラスチック製のスプーンやフォークなどを、全て木製に変更している。
ハンバーガーチェーンの最大手マクドナルドは、この2月から横浜エリアの一部店舗で木製カトラリーの試験提供を開始している。提供の開始から1カ月ほど経過した現状を尋ねると、
「全体的に大きな問題がなく進んでいると思います。ただ、お客さまからのお声の調査をしていると、2つのユニークな特徴がありました。ブランドイメージが良くなったという意見がある一方で、『使いにくい』『慣れない』という声も上がってきています」(日本マクドナルドサプライチェーン本部の大塚翔さん)
と率直に状況を語った。
マクドナルドの木製カトラリーと、紙製ストロー。
撮影:三ツ村崇志
機能性が悪く使いにくいのか、単に慣れないから使いにくいのか判断は難しいものの、改善は今後の課題の1つだという。何より、課題を正確に抽出したいからこそ、全国約3000店舗に展開する前に実証試験を進めているわけだ。
ただ、先行して進んでいるグローバルでの取り組みに比べて「日本における要求水準は高い」と、日本仕様にカスタマイズすることの難しさはあると大塚さんは指摘する。
また、店舗レベルの問題として、これまでプラスチックごみ用のゴミ箱にフォークやナイフのアイコンを印字していたことから、木製カトラリーがプラスチック用のゴミ箱に捨てられてしまうという混乱も起きているという。
「全国に展開するときには、こういった部分も全て改善していきたいと思ってます」(大塚さん)
マクドナルドでは、今後課題を抽出し、全国展開の準備を進めていくとしているものの、Business Insider Japanの取材に対して、「この4月の段階で何か変更することはありません」と春の段階では大きな変化はないとしている。
「脱プラ」できないものも……
ハッピーセットでは、紙製の玩具も提供している。
撮影:三ツ村崇志
マクドナルドでは、持ち帰り用のバッグなど、消費者に提供されるすべてのパッケージを2025年までに「再生可能な素材」「リサイクル素材」または「認証された素材」に変更することを目標として掲げている。
ただ、脱プラを進めていく上では、木製や紙製などにすることが難しいものもある。
「曲がるストローは、子どもやお年を召した方(吸引力が弱い方)にとって必要になる場合があります。一定程度、プラスチックを使わざるを得ない部分もあると思っています」(大塚さん)
脱プラの取り組みを進める上で考えなければならないのは、企業活動を営む事業者はもちろん、消費者である私たち自身が、どこまでプラスチックを使わない状況を受け入れられるのかということだろう。
「いろいろな方が見たときにも『そこはしょうがないよね』と思えるところは、プラスチックを使うこともあると思います。不便さを感じて飲食の場から離れてしまうのは、もったいないことです」(大塚さん)
マクドナルドでは、子ども向け商品「ハッピーセット」に付属する玩具に使用する素材についても、2025年までにサステナブル素材に変更。化石資源由来の原料を新しく使ったプラスチックを90%削減する方針を示している。
また、マクドナルドでは、各店舗にプラスチック玩具の回収ボックスを設置しており、回収した玩具は、マクドナルドで商品を提供する際に使われる緑色のトレイの一部として再利用されている。マクドナルドによると、プラスチック玩具のリサイクルにおいては国内最大規模の活動で、2021年の回収実績は約305万個にものぼる。
春から施行される新法では、こういった「リサイクル」の促進も各事業者や自治体に求められている。
ただ、いくら企業側がリサイクルに乗り気になったとしても、消費者の協力がなければうまく回収することはできない。
この春施行される新法では、事業者にさまざまな取り組みが課せられているが、その裏側では改めて消費者である私たちも試されている。
(文・三ツ村崇志)