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ゼレンスキー大統領は、国会演説で日本を想起させるレトリックを散りばめた(全文)

オンラインで演説するゼレンスキー大統領(2022年3月23日)。

オンラインで演説するゼレンスキー大統領(2022年3月23日)。

衆議院インターネット中継

ウクライナのゼレンスキー大統領は3月23日、日本の国会でのオンライン演説に臨んだ。ゼレンスキー氏はロシア軍の侵攻を「残忍な侵略の津波」と表現。侵攻を止めるために、日本とアジア諸国の一致団結を呼びかけた。

外国の元首が日本の国会でオンラインで演説したのは史上初めて。演説はおよそ12分間だった。

ゼレンスキー氏は、これまでも各国の議会でオンラインを通じて演説している。各国の歴史や文化を連想させる言葉を用いて聴衆を惹きつけつつ、ウクライナへの支援協力を呼びかけてきた。

例えば、イギリスではシェイクスピアの『ハムレット』の一節や第二次世界大戦中のチャーチル首相による演説、アメリカでは真珠湾攻撃や米同時多発テロ、キング牧師の演説。ドイツでは「ベルリンの壁」を想起させる「壁」などのレトリックを用いてきた。

日本に向けたオンライン演説の内容は──。

結論から言えば、東日本大震災やそれに伴う福島第一原発事故、1995年の「地下鉄サリン事件」などを想起させる言葉を随所に散りばめていた。

演説の前半、ゼレンスキー氏は日本がいち早くウクライナ支援を表明し、ロシアに制裁を科したアジアで最初の国であると言及し、謝意を述べた。

一方で、ロシア軍が原子力発電所を制圧・攻撃したことへの懸念や、「サリン」などの化学兵器や核兵器による攻撃の懸念を示した。


私たちは、特にサリンを用いた化学兵器で(ロシア軍が)攻撃してくる可能性について警告されています。シリアでそうであったように。


ゼレンスキー氏はロシア軍の都市への攻撃で死者の埋葬すらままならないウクライナの悲惨な現状にも言及。「数千人もの人々が殺されました。うち121人が子どもです」と訴えた。


ロシアの占領下に置かれた多くの町や村では、殺された親族や友人、隣人を尊厳を持って埋葬することさえできません。
壊れた家の庭や道路の近くなど、できる場所なら、とにかくどこでも埋葬しなければならないのです……。


また、日本が今後もロシアへの制裁を継続することを要請。日本がアジア諸国と一致団結し、ロシア軍による「残忍な侵略の津波」を阻止するためにも、対ロ貿易禁止やロシアからの企業撤退、ウクライナ将兵へのさらなる支援も呼びかけた。

戦争による市場の混乱、環境問題、食糧問題などあらゆる世界の危機への懸念も示し、各国の協力を求めた。


私は、あなた方のパートナーであるアジア諸国が、情勢を安定させるために、ロシアが平和を求めるように向けさせ、そして私たちの国ウクライナへの残忍な侵略の津波を止めさせるために、一致団結することを求めます。


いま最も重要なことは、地球上の全ての侵略者(すでに侵略者だと明らかな者と潜在的な侵略者の両方)に、戦争を起こすことが強力な罰につながり「戦争を始めてはならない」と確信させられるかどうかということです。


加えて「日本の皆さんにもきっと分かるはずです。自分の故郷に帰らなければという気持ちが」と呼びかけ、戦争が終わった後のウクライナの復興への協力も要請。ゼレンスキー氏は日本の「輝かしい発展の歴史を知っている」と戦後日本の復興を想起させるような言葉も用いた。

さらに、目の不自由な子どもたちのために、オレーナ夫人が日本の昔ばなしをウクライナ語で朗読したオーディオブック(書籍を朗読した音声コンテンツ)に参加したエピソードも披露した。

アメリカやイギリスなどでの議会での演説とは異なり、日本の歴史への直接的な言及などはなかった。軍事的支援を求める発言もなかった。

ただ、演説の中では国連を中心とした国際機構の機能不全を指摘。侵略に対応できる新たな国際機構をつくるために、日本がリーダーシップをとるよう提案した。

ロシアの侵攻開始から1カ月、深刻な人道危機の懸念

ロシアによる侵攻が始まってから演説翌日の3月24日で1カ月となる。

国連は3月23日時点で81人の子どもを含む977人の民間人が死亡したと発表した。ただ、戦時下のため正確な犠牲者や負傷者の数は把握できていない。

首都キーウ(キエフ)周辺など北部をはじめ、ロシア軍が侵攻している東部、南部の都市への攻撃は激しさを増し、民間人の犠牲者も日を追うごとに拡大している。

激戦地マリウーポリでは犠牲者が3000人を超え、少なくとも20万人が市内に残されている可能性があると国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが報告している。ライフラインの停止や水、食糧、医薬品や衛生用品の不足が報告され、深刻な人道危機も懸念されている

UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)はウクライナの国内外の難民は1000万人に及び、国境を超えてウクライナを脱出した難民は350万人にのぼるという。

国際司法裁判所はロシアに対して、ウクライナへの侵攻を直ちに止めるように命じている

英タイムズなどによると、ゼレンスキー氏はこれまでに暗殺の危機に複数回見舞われるも回避しているという。ウクライナ当局はロシア側が新たな暗殺部隊を投入したと主張しており、大統領をはじめ要人の身の安全に警戒を強めている。

ウクライナ大統領府が公開した演説(ウクライナ語英語)をもとにした全文は以下の通り(※英文を参考)。


オンラインで演説するゼレンスキー大統領(2022年3月23日)。

オンラインで演説するゼレンスキー大統領(2022年3月23日)。

衆議院インターネット中継

細田衆院議長、山東参院議長、岸田首相、日本の国会議員の皆さん、日本の皆さん。

ウクライナの大統領として、日本の国会の歴史の中で初めて皆さまにご挨拶できることを大変光栄に思います。

私たちの国の首都は(日本から)8193キロメートル離れています。ルートにもよりますが、平均すると飛行機で15時間です。

しかし、私たちが思う「自由」との距離は、(日本側と)離れているでしょうか?

私たちが生きることを希望する思いとの距離はどうでしょうか?私たちが平和を望む思いとの距離はどうでしょうか?

2月24日、私には(日本側との)それらの距離は全く見えませんでした。

私たちの首都と(日本との)間には、1ミリたりとも隔たりはありませんでした。私たちとの(日本側との)気持ちの間には1秒ほどの距離もありません。

なぜなら、あなたたちはすぐに私たちを助けに来てくれたからです。そして、私はそのことに感謝しています。

ロシアがウクライナ全土の平和を破壊したとき、私たちはすぐに、世界が真に戦争に反対していることを知りました。本当に自由のために。本当に世界の安全保障のために。真にあらゆる社会の調和ある発展のために。

日本は、アジアにおけるこうした立場のリーダーになりました。

皆さんは、すぐにロシア連邦が始めたこの残忍な戦争を止めるための活動を始めました。皆さんは、すぐにウクライナの、つまりはヨーロッパにおいての平和のために活動を始めました。

そして、これは本当にとても重要なことです。地球上の全ての人にとって重要です。なぜなら、ウクライナの平和がなければ、世界中のどの人も確信を持って未来を見ることができないからです。

「チョルノーブィリ(チェルノブイリ)」とは何か、皆さんはご存じでしょう。

1986年に大爆発を起こしたウクライナの原子力発電所。放射線の放出。その影響は、地球上のさまざまな場所で記録されています。

チョルノーブィリ原発の周囲30キロ圏内は現在も封鎖されています。危険なのです。

原発の爆発による影響を除去する間に、何千トンもの汚染物質や瓦礫、車両などが封鎖区域の森林に廃棄されました。土の中にです。

2月24日、放射性物質の粉塵を空中に舞い上げながら、ロシアの装甲車がこの土地を横切りました。武力によって、武器によって、チョルノーブィリ原発を制圧したのです。想像してください。災害が起きた原子力発電所が占領されたのです。

破壊された原子炉を閉じ込めたシェルター。稼働中の核廃棄物貯蔵施設。ロシアはこの施設を、戦争の舞台にさえしてしまったのです。そしてロシアはこの30キロ圏内の封鎖区域を使って、我が国の防衛軍に対する新たな攻撃を準備しているのです。

ロシア軍がウクライナから撤退した後、彼らがチョルノーブィリに与えた被害を調査するには、何年もかかることでしょう。

放射性物質の処分場がどのような被害を受けたのか。そして、放射性物質の粉塵がどのように地球上に拡散したのかを。

皆さん。私たちの国にはいまも稼働中の原子力発電所が4つあります。15の原子炉があります。そして、それらは全て脅威に晒されています。

ロシア軍はすでに、ヨーロッパ最大のザポロジエ(ザポリージャ)原子力発電所を戦車で砲撃しています。

この戦闘で何百もの工場施設が被害を受け、その多くが特に危険な状態にあります。砲撃は、ガスや石油パイプラインを脅かしています。炭鉱もです。

先日、ロシア軍はウクライナのスームィ地方にある化学工場も攻撃しました。これによりアンモニアが流出したのです。私たちは、特にサリンを用いた化学兵器で(ロシア軍が)攻撃してくる可能性について警告されています。シリアでそうであったように。

世界の政治家にとって主な議論のテーマの一つが「ロシアが核兵器を使用した場合にどう対処するか」という問題です。

世界のあらゆる人、あらゆる国のあらゆる信頼が、完全に破壊されてしまいます。

我が国の軍人は、すでに28日間、英雄的にウクライナを防衛してきました。世界最大の国による本格的な侵略の28日間を。

しかし(ロシアが持つ)能力は世界最大ではありません。最も影響力のある国でもありません。道徳的観点で見れば世界最小の国でしょう。

ロシアはウクライナの平和な都市に対して1000発以上のミサイルを使用しました。数え切れないほどの爆弾もです。ロシア軍は何十もの我々の都市を破壊しました。いくつかは完全に焼き払われました。

ロシアの占領下に置かれた多くの町や村では、殺された親族や友人、隣人を尊厳を持って埋葬することさえできません。壊れた家の庭や道路の近くなど、できる場所なら、とにかくどこでも埋葬しなければならないのです……。

これまでに数千人もの人々が殺されました。うち121人が子どもです。

約900万人のウクライナ人が、ロシア軍から逃れるために故郷を追われました。

ウクライナの北方の領土も、東部も、南部も、空っぽになりつつあります。命が奪われる脅威から、人々が逃げ出しているからです。

ロシアは私たちの海も封鎖しました。通常の貿易ルートです。世界にいる他の潜在的な侵略者に対して、海の航行を遮断することで自由な国々に圧力をかける方法を示したのです。

皆さん。いまの世界における安全保障が完全には破壊されないと保証できるのは、ウクライナとパートナー諸国、そして私たちの反戦連合です。

世界には、国家の自由のための足場が存在するのです。人々のための、そして社会の多様性を維持するための、国境の安全のための、私たちや私たちの子どもたち、私たちの孫たちが平和であることを確認するための足場です。

皆さんは国際機関が機能していないことはお分かりのことでしょう。国連や安全保障理事会でさえも……。

彼らに何ができるのでしょうか?

改革が必要なのです。正直さが必要なのです。効果的なものにするために。議論するだけでなく、本当に決定し、本当に影響を与えるために。

オンラインで演説したゼレンスキー大統領と、演説に拍手を送る日本の国会議員(2022年3月23日)。

オンラインで演説したゼレンスキー大統領と、演説に拍手を送る日本の国会議員(2022年3月23日)。

衆議院インターネット中継

ロシアのウクライナに対する戦争のせいで、世界は不安定になっています。世界は多くの新しい危機に瀕しています。そして明日という日がどうなるか、確信を持てる人がいるでしょうか。

世界市場の混乱は、原材料を輸入に依存する全ての国にとって問題です。環境問題や食糧問題は、かつてないほど深刻です。

そしていま最も重要なことは、地球上の全ての侵略者(すでに侵略者だと明らかな者と潜在的な侵略者)に、戦争を起こすことが強力な罰につながり「戦争を始めてはならない」と確信させられるかどうかということです。

彼らは世界を破壊してはならないのです。

そして、責任ある国家が平和を守るために団結することは、絶対に論理的であり、正しいことなのです。

このような歴史的な瞬間において、原則的な立場を貫いた貴国の姿勢に感謝します。ウクライナへの真の支援に対してもです。

貴国は平和を回復するためにロシアに真の制裁を科し、支持したアジアで最初の国でした。そして、私はあなたがそうし続けることを強く求めます。

私は、あなた方のパートナーであるアジア諸国が、情勢を安定させるために、ロシアが平和を求めるように向けさせ、そして私たちの国ウクライナへの残忍な侵略の津波を止めさせるために、一致団結することを求めます。

ロシアとの貿易の禁止することが必要です。ロシア軍に資金が回らないように、ロシア市場から企業を撤退させる必要があります。ロシア軍を抑えている私たちの国、私たちの防衛者、私たちの兵士へのさらなる援助が必要です。

ウクライナの再建についても、いまから考え始める必要があります。ロシアに破壊された都市や、ロシアによって荒廃した領土に暮らしを取り戻すために。

人々は、自分たちが住んでいた場所に戻らなければなりません。彼らが育った場所に。自分たちの家だと感じている場所に。彼らの小さな故郷に。

この気持ちは、日本の皆さんにもきっと分かるはずです。自分の故郷に帰らなければという気持ちが。

私たちは、新しい安全保障を作り上げる必要があります。平和への脅威が生まれたら、予防的かつ強力に行動できるように。

現状の国際機構にこれは可能でしょうか。このような戦争の後では、間違いなく不可能です。

私たちは、新しいツールを作る必要があります。新しい保証。それはいかなる侵略に対しても、予防的かつ強力に機能するものです。それは本当の意味で助けになるものです。

ウクライナのために、世界のために、日本のリーダーシップは必要不可欠なのです。そのことを提案します。

世界が再び自信を持てるように。明日がどうなるのか、自信を持てるように。

明日という日は必ずやってきて、安定し、平和になると確信しています。私たちのために、未来の世代のために。

皆さん。日本人の皆さん。

私たちが想像している以上に、皆さんと一緒に多くのことを成し遂げることができます。私たちが想像している以上のことをです。

私は、あなた方の輝かしい発展の歴史を知っています。あなた方がいかにして調和を築き、守ることができるか。いかに原則に従い、命を大切にして、環境を守っているかもです。

そのルーツは、あなた方の文化にあります。ウクライナ人が本当に愛しているものです。

私の言葉はお世辞ではありません。これは事実なのです。

2019年、文字通り私がウクライナの大統領に就任した半年後、妻のオレーナは目の不自由な子どもたちのためプロジェクトに参加しました。オーディオブックを作るプロジェクトです。

そして、彼女はウクライナ語で日本の昔ばなしの朗読を担当しました。そのお話が、私たちにとっても、子どもたちにとっても理解できるものだったからです。

そしてそれは、私たちウクライナ人にとって、皆さんへの興味という大きな海の中の一滴にすぎませんでした。

私たちの国と国との間には大きな距離があっても、私たちは皆さんと同じような価値観を持っています。距離など、実際には存在していないのです。

なぜなら私たちは、皆さんと同じように温かい心を持っているからです。

共に努力したおかげで、ロシアへのさらなる圧力のおかげで、私たちは平和を手に入れることができるでしょう。そして、私たちの国を再建することもできるでしょう。国際機関を改革することもできるでしょう。

その時、日本がきっといまと同じように、私たちと一緒に共にあると確信しています。私たち全員にとって重要な時期の、私たちの反戦連合に、です。

ジャークユ(編注:ウクライナ語で「ありがとう」)ありがとうございます!(編注:日本語で)

ウクライナに栄光あれ!(Slava Ukraini!)日本に栄光あれ!

(文・吉川慧)

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