人工クモの糸のスパイバーとアパレル大手が「脱炭素のタンパク質素材」第4弾…課題は「価格」

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ゴールドウインはバイオベンチャー、スパイバーが開発した次世代タンパク質素材を採用したジャケットやデニムなどを発表。2022年秋冬製品として投入する予定だ。

写真提供:ゴールドウイン

アパレル大手と日本の注目バイオベンチャーが商品開発でタッグを組む。

「ノースフェイス」を取り扱うスポーツアパレル大手のゴールドウインは3月24日、次世代のタンパク質素材「ブリュード・プロテイン(Brewed Protein)」で作ったスリーレイヤージャケット、デニム、フリースを初めて披露した。環境に配慮した新プロジェクト「Goldwin 0」として発売する。

ゴールドウインはこれまで同素材を採用したTシャツ、アウトドアジャケット(いずれも「THE NORTH FACE」ブランドより発売)、セーターを販売しており、今回発表した製品は第4弾と位置づけている(※)。発売は2022年の秋冬頃を見込む。

※今回、それぞれ製品に使用した新素材の割合については明らかにしていない

ゴールドウイン社長の渡辺貴生氏は、今回発表したスリーレイヤージャケットやデニムについて、製作時に排出する温室効果ガスの量が少ないなどの環境への配慮のみならず、「着心地が良くて、使い勝手が良いものに仕上がっているのではないか」と自信を語った。

まずは、新製品を写真で紹介する。

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スリーレイヤージャケットは無染色で、日本で最高品質のものと同程度の防水に対応している。渡辺社長は「テクニカルアウターウェアとしての機能は100%満足できるレベル」と語る。

撮影:上代瑠偉

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実際に触ってみたところ、強いて言うならば少しザラザラ感があるといったところだろうか。

撮影:上代瑠偉

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渡辺氏はデニムについては「従来のデニムと比べても遜色ない」と自信を覗かせる。実物の感触は、一般的なデニムと触り心地はほぼ同じ。内側の黒い衣類は、同じ新素材のモールフリース。

撮影:上代瑠偉

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デニムの内側には「Brewed Protein」の文字が刺繍されている。

撮影:上代瑠偉

国内の気鋭バイオベンチャー、スパイバー社とタッグ

新素材を手がけるのは、​​人工合成クモ糸素材で知られる国内のバイオベンチャーSpiber(スパイバー)だ。

Spiber代表の関山和秀氏は、新素材について「簡単に言うと、(植物由来の糖類をエネルギーにする)微生物を使った発酵プロセスで作った、タンパク質の素材だ」と説明する。今回の新製品のようにウール素材やデニム素材など、さまざまな素材に(質感を)寄せられるという特徴がある。

Spiber代表の関山和秀氏。

Spiber代表の関山和秀氏。

写真提供:ゴールドウイン

関山氏は従来の動物素材に関しては、「動物性の繊維は山羊や羊から作られることが多い。山羊や羊は反芻動物でゲップを出す。動物性の繊維は生産の規模自体はさほど大きくないが、温暖化に与えるインパクトはすごく大きい」と説明する。

新素材については「カシミアと比べれば、温室効果ガスの排出量はだいたい数分の1以下に抑えられる。素材を作るときに使う水の量も数分の1で済む。河川や海洋への不栄養化も影響をおよぼしにくいと分かり始めている」と語った。

タンパク質新素材の課題は「価格」

ゴールドウイン 代表取締役社長 渡辺貴生氏

ゴールドウイン社長の渡辺貴生氏。

写真提供:ゴールドウイン

ゴールドウインの渡辺氏は、ロシアによるウクライナ侵攻を念頭に、「新たに人による争いの脅威が世界を襲っている」と前置きして次のように語った。

「今こそ、目先の利益ではなく、企業としてのスタンスを明確に示していかなければならない」

「われわれも小さな動物の毛皮を使って製品を作ってきたことは事実だ。もはやそういう時代ではない。私も『利益を最大化しろ』とは言わない。世の中にとってプラスかどうか、といった価値観が大切なのではないか」

環境負荷が低い、新素材の採用にあたっての課題は「価格帯」だ。

渡辺氏は新製品の価格帯はまだ決まっていないものの、スリーレイヤージャケットが約15万円になるという見通しを示した。記者からは価格帯が高いのではないかという疑問の声もあがった。

渡辺氏は「われわれももう少し多くの人々が買いやすい価格にしたい。量産化のステージが早く進めば進むほど価格が下がっていく」と回答する。

関山氏は「20年先、30年先には普通の方が普通に着られる材料になる。それぐらいの時間がかかると思う」と補足した。

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