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榊英雄監督の性被害を告発した女優らが語る、映画業界3つの「罠」

映画監督・俳優の榊英雄氏から望まない性行為を強要されたと告発する女性たちが後を絶たない。

報道を受けて連帯を表明する映画関係者もいる一方で、ネットでの中傷も多く、女性たちは二次被害に苦しんでいる。

被害がここまで拡大した背景には何があるのか? フリーランスを保護しない労働法制、パワハラ・セクハラの「温床」と呼ばれるワークショップ、俳優と監督という圧倒的な力関係……関係者たちに話を聞くと、映画業界に潜む3つの“罠”が見えてきた。

#MeTooがいまだ“ゴシップ”扱いの日本社会

#MeToo

映画業界に広がる性暴力。榊氏からの性行為の強要を告発した女性たちに、その背景を聞いた。

撮影:竹下郁子

『週刊文春』で榊氏から望まない性行為を強要されたと告発した1人で、現在も俳優を続ける女性は言う。

「ネットで『告発した女優は誰なのか』と探る動きがあり、恐怖を感じています。

それに、こうした反応は性暴力被害が『ゴシップ』としか受け止められていない証拠。憤りも感じます」(女性)

女性はこれまで榊氏以外にも「役を降ろすぞ」と脅されて性行為を強要されたことがあり、「監督やプロデューサーという立場を笠に着て、『女優をなんとかしてやろう』という人は業界にたくさんいる」という。

実際、週刊文春の報道後、自身の性暴力の告発を案じる芸能関係者から“探り”を入れるような連絡が何度も来ているそうだ。

榊英雄

榊英雄氏は週刊文春の報道後、事務所HPで「お詫び」を掲載した。

出典:ファミリーツリーHP

一連の報道を受け、榊氏が監督した映画『蜜月』は一旦の公開中止を公表。榊氏は所属事務所を通じてコメントを出し、文春の記事は「事実であることと、事実ではない事が含まれて書かれております」とした上で、「お詫び」の気持ちを述べている。

謝罪は「映画のプロデューサーやスタッフ」「キャスト及び関係者」「観客」そして、自身の「家族」、最後に「事実の是非に関わらず渦中の人とされてしまった相手の方々(本文ママ)」の順番だった。

最初に謝るべきは被害者ではないでしょうか。これ以上被害者を増やしたくない、性暴力の加害者が性暴力をテーマにした映画を撮影するなんて許せないと思って告発しましたが、何より本人からの誠意ある謝罪が欲しかった。全く反省していないことにあきれますし、悲しくなりました」(女性)

罠1:フリーの俳優を守る法的根拠が希薄

フリーランス

国は第二東京弁護士会に委託して、フリーランスや個人事業主向けの相談窓口を開設している。

出典:厚生労働省HP

その後、芸能関係者が過去に受けた性被害を告発したり、映画監督や映画研究者・批評家などが被害者への連帯と性暴力との決別を表明する声明を出したりするなど、映画界を変えようとする動きも複数見られた。

女性はこうした動きを「心強い」とする一方で、

「映画界で働く俳優やスタッフは、フリーランス個人事業主も多い。組織や労働法制で守られているわけではないですし、狭くて古い業界なので、告発するのは今後のキャリアも含め『生きるか死ぬか』という覚悟が必要なのが現状です。

業界に特化した性暴力を防ぐためのガイドライン相談窓口の設置など、声を上げる人を孤立させない環境づくりをしないと、根本的な解決にはならないと思っています」(女性)

と話す。

石川優実

石川優実さん。2020年撮影。

撮影:竹下郁子

同じく今回、週刊文春内で告発した1人である俳優・アクティビストの石川優実さんも同意見だ。2020年に施行された改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)では、フリーランスが保護の対象から外れていることなどを例にあげ、

「フリーランスを守る法律や映画業界のガイドラインがあれば、こんなことにはならなかったのではないかと思います。2017年にハリウッドで#MeTooが広がってから5年、日本の映画業界は一体何をしていたのだろうという思いが大きいです。

性暴力はメディアに告発するのも、刑事告訴したり民事訴訟を提起したりするのも、被害者にとって負担やリスクが大きい。相談窓口を設置し、作品に入る前に全ての俳優・スタッフにやってはいけないこと、守るべきことを確認・周知するところから始めるべきだと思います」(石川さん)

と語る。

2019年に実施されたフリーランスや芸能関係者を対象にした調査では、61%がパワハラ、36%がセクハラ被害にあっており、当事者団体は改善を求めてきた経緯がある。

国は2020年にフリーランスや個人事業主の労働環境改善に向けたガイドラインを策定。ハラスメントあいまいな契約などについて弁護士に無料で相談できる「フリーランス・トラブル110番」を開設したが、さらなる対策が必要だろう。

罠2:被害が多発するワークショップ

テレビ

※写真はイメージです

GettyImages / flyingv43

これまで週刊文春が報じた榊氏の被害者は7人。図書新聞のコラムでは睡蓮みどりさん(女優・文筆家)も告発している。さらに石川さんの元には今も情報が寄せられており、言葉でのセクハラから性行為の強要まで、35人以上の女性が被害を報告しているという。

なぜここまで被害が拡大したのか。そもそも映画業界には性暴力が起きやすい構造があるのか。

前述のような法律の不備のほかにも、「監督が行うワークショップが温床になっている」と言うのが、『蜜月』『ハザードランプ』共に撮影を務めたカメラマンの早坂伸さんだ。

週刊文春の報道でも、榊氏と知り合うきっかけとして複数の女性がワークショップを挙げている。

居酒屋

※写真はイメージです

GettyImages /taka4332

ワークショップは俳優が受講料を払って監督から演技指導を受けられるもので、1日から数日に渡って行われるものまで多岐に渡る。ワークショップがきっかけでキャスティングにつながることもあるため、俳優にとっては自身をアピールする絶好の機会だ。終わった後は「飲み会」が開催されることも多く、親睦を深める場にもなっている。

「ほとんどのワークショップが健全ですが、中には女優さんを“物色”しようとする監督もいて、ワークショップをきっかけに被害にあうケースが多数報告されています。

ワークショップを主催する会社がセクハラや性暴力を許さないと宣誓し、監督にも誓約書を書かせたり、個人的な連絡先の交換を禁止するなどのルール作りをすべきです。監督やプロデューサーに権力が集中しがちなので、こうした仕組みを作って、被害が起きないよう業界全体で徹底していくしかないと思います」(早坂さん)

罠3:「エントラップメント型」の性被害

エントラップメント型の性被害

「エントラップメント型」の性被害は、どのようにして起きるのだろうか。

出典:「性暴力の被害経験に関する質的調査報告」(法務省・第7回性犯罪に関する施策検討に向けた実態調査ワーキンググループ)

被害にあっても声を上げることができない女性たちも多い。その一因として、深刻な二次被害がある。

石川さんは、榊氏が監督する作品への出演が決まり、その準備中から性行為を強要されていたが、キャスティングを外される恐怖から、当時は拒否も抵抗もできなかったと報じられた。

「報道後はSNSで多くの二次被害を受けました。『ただの不倫。あなたも加害者』『後から告発するのはズルい』と。当時すぐに告発できるような対等な関係なら、あんな要求はされなかったと思います。

こうした暴力を伴わない『エントラップメント(罠)型』の性被害は、被害者も『なぜ断れなかったのか』と自身を責めて告発できずにいる人も多いのではないでしょうか。同意のない性行為は暴力であり、あなたは悪くないと伝えたいです」(石川さん)

「エントラップメント(罠)型」の性被害は、公認心理師・臨床心理士の齋藤梓さんらの研究チームが性暴力被害当事者への調査を行った際、その類型として発表したものだ。

暴行や脅迫を伴わない社会的な力関係を利用した性暴力のことで、加害者は日常的な関係性の中で上下関係を作り出し、逆らうことができない状態に追い込んで性行為を強要する。そのため被害者は暴力であると認識することができず、自責の念に駆られることが多いのも特徴だ。

男性社会に思考停止させられている

女性

※写真はイメージです

GettyImages / monzenmachi

選ぶ「監督」・選ばれる「俳優」という圧倒的な力関係の元で「エントラップメント型」の性被害が起きやすい構造に加え、映画業界には「性のことは全て“グレー”のままで」という一種の事なかれ主義があると冒頭の女性は言う。

「すごく狭い業界ですし悪い噂も広がりやすいのですが、それを本人に確認したり、対処しようと動く人はいません。『あいつは危ないよ、気をつけな』で終わらせたり、見て見ぬふりをすることがほとんどです。

こうした男性社会に思考停止させられて、いわゆる『枕営業』をしないとのし上がれないと思い込んでしまっている女性もいます。女性が搾取される構造ができてしまっているんです」(女性)

女性はこれまでも榊氏以外からの性被害を作品のスタッフ間で告発したことがあるが、結局、調査などは行われず、相手は今も活躍しているという。

「映画界や芸能界は特殊な環境だと思われているけど、私たち俳優だって人間だし、人権があります。今度こそは、絶対うやむやにしてほしくないです」(女性)

被害者は意を決して声を上げた。映画業界、そして社会は、何ができるだろうか。

(文・竹下郁子

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