ドイツのミュンヘンにあるBMWの工場でBMW車種の組み立てを行うロボット。
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この2年間で、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うサプライチェーンの問題が、半導体市場を混乱させている。
コロナ禍が始まった2020年から、突然在宅勤務を余儀なくされた人たちやオンライン授業を受けなければならなくなった学生らの事情により、半導体の需要が急拡大した。この混乱は、2021年に自動車業界で需要が急回復したことでさらに加速した。
需要の拡大はディーラーには利益をもたらしたものの、自動車メーカーの一部は厳しい状況に追い込まれた。フォードはエントリーレベルのトラックの生産遅延を余儀なくされ、アメリカで販売台数1位のGMは部品不足により一部のラインで生産を縮小せざるを得ず、2021年の販売台数首位の座をトヨタに明け渡すこととなった。
半導体の供給はかなり遅れているため、供給不足は2023年まで解消されないだろうと専門家は見る。バイデン政権は半導体製造を支援するため、520億ドル(約6兆6500億円、1ドル=128円換算)の補助金を出す法案を打ち出しており、EUも増産に向けて490億ドル(約6兆2700億円)の官民資金の投入を検討している。
自動車市場においてコロナ禍の影響による受注残、サプライチェーンの混乱、インフレにもかかわらず好調だったのは高級車セグメントだ。
BMWは、米サウスカロライナ州の工場における2021年の生産台数が過去最高となり、これが海外への販売促進と業界平均水準を上回る伸びをもたらしたと発表した。フォルクスワーゲン傘下のベントレーやランボルギーニといった高級車は、サプライチェーンの混乱が比較的少なかったことが2021年の記録的な販売台数につながったと発表している。また、テスラは高級車ブランドとして販売台数がアメリカ国内第3位にまで躍進した。
本稿では、世界の自動車ブランドが課題に直面するなか、高級車メーカーがこれをどう克服したのか詳しく考察する。
大衆車より販売サイクルの予測がつきやすい
高級車に乗る人は実際のところ、車を買うのではなく通常は3年ほどリースして、維持費やローン金利その他のコストを節約している。顧客が次にいつ戻ってくるか分かるため、高級車のディーラーは部品その他の必要なものを把握できるのだ。
これは、事故、整備状況、広告効果といった不確定要素に左右される大衆車の購入サイクルとは大きく異なる。業界が景気後退や部品不足などの問題に見舞われるなか、このリースによる利点は重要だ。大衆車のように、いったいいつ売れるのだろうかとひたすら待ったり、当てずっぽうで部品の発注をしたりしなくていいからだ。高級車のディーラーは予約注文の情報を大衆車より多く得られる。
米ニューハンプシャー州在住のマーカス・ストーバー(Marcus Stover)はアウディA6を所有しているが、この土地で家族と暮らすためには4WD車が必要だということもあり、この車を気に入っているのだという。この車の2022年モデルは5万6000ドル(約710万円)だが、いずれこの後継車をリースするときには代金は少額で済むだろうとストーバーは語った。
アズベリー・オートモーティブ・グループでディーラー業務を7年間担当してきたジェームズ・ボーニング(James Boening)は、ディーラーは自社の顧客が車をリースするタイミングを把握し、そのことを活用すれば、高級車の販売の35%までは事前に確保できると言う。
「高級車の消費者は、常に次に乗る車のことを考えています。高級車をリースする人たちは事前に計画して同じサイクルで乗り換えるものなので、ディーラーやメーカーは在庫レベルを予測でき、リースに際して必要になるものを予測できるのです」
事前に計画を立てやすい
販売サイクルが予測可能であることを活用するには、事前の準備と先を見越した供給戦略が必要だ。BMWは半導体メーカーとの契約により、記録的な水準の生産と販売を達成できる体制を整えられたという。また、2021年8月には年間数百万個の半導体を提供してもらう新たな契約を結んだ。契約を発表したプレスリリースによれば、BMW車の多くには数千個の半導体が使われているため、部品供給を維持することが2021年の成功には不可欠だったという。
テスラは、2019年に自分たちが半導体の製造を内製化した際には、コロナ禍によって世界経済が徐々に停止に追い込まれることになるとは予想していなかっただろう。この決断は、半導体不足が深刻化して他の業界が軒並みコスト削減やサプライチェーン崩壊の打開策に奔走せざるを得なくなるまで、注目されることはなかった。テスラの2021年の生産台数は約100万台と、同社の最高記録を更新した。CEOのイーロン・マスクは同年末時点で、2022年の生産台数は約50%増になるとの予測を明らかにした。
国際的な製造・輸送業を営んでいたことがあるテック系投資家のリー・ラシュキン(Lee Rashkin)は、コロナ禍の教訓から、自動車業界やその他の企業がテスラのように部品の内製化に乗り出すだろうと予想する。
「メーカーにとってサプライチェーンはアキレス腱です。業績が良い時には、外注はコスト削減や効率アップに効くのですが、テスラやアップルのようなケースを見ていると、サプライチェーンを極力自社でマネジメントできるというのは非常に強いです。そうすることでサプライチェーン自体を守れるだけでなく、知的財産を保護しつつイノベーションを起こせるようになるため、新しい製品やサービスを生み出したり、新たな市場に参入したりといったことが可能になるかもしれません」
ダメージと痛手を負ったが比較的好調
高級車セグメントは、全体的に見れば半導体の供給を維持できているとはいえ、不足を完全に解消できているわけではない。
一部の高級車メーカーは、車両性能を中心にわずかな影響が及ぶ技術変更を発表した。BMWは一部の車両でタッチスクリーンを取り外した。メルセデス・ベンツの一部の車両ではLEDライトなどの部品が使われないことになった。また、ポルシェは座席のアップグレードを一時的に受付停止にすることを決めた。
またテスラは、コスト削減と半導体が入手困難という理由から一部自動車の部品(ハンドルへのアタッチメントなど)を削減していると、匿名で取材に応じた同社従業員や社内の話をCNBCが2022年2月に報じている。
しかし、大衆車メーカーに比べれば高級車メーカーの方がまだ状況はよいとボーニングは言う。
「高級車は、平均的な自動車やトラックの2、3倍の数の半導体を使用しており、ディーラーやメーカーにとっては巨大な収益源となっています。高級車で部品が不足しないということではありませんが、高級車ブランドには製造を続けるためのバッファーがあるということです」
顧客体験コンサルタントのジョーイ・コールマン(Joey Coleman)はInsiderに対し、消費者はサプライチェーンの重要性をこれまで以上に認識しているため、部品供給がうまくいけばPR活動やカスタマーリレーションにも良い影響が生まれるだろうと指摘し、こう続けた。
「コロナ禍により、欲しいものを欲しいときに手に入れたいという期待は劇的に変化しました。買いたいものが実際に手に入らなければ、いい購買体験は得られません。逆に製品を確実に顧客に届けることができる企業は、顧客ロイヤリティ(訳注:顧客が特定の企業に対して信頼や愛着を持つこと)を高め、メディアで好意的に取り上げられ、ひいてはおそらく増収増益も見込めるという、大きな報酬が得られるでしょう」
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・大門小百合)