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Spotify、音楽配信1位独走でも「4億ユーザー獲得してようやく黒字」のビジネスモデルに潜むリスク

会計とファイナンスで読むニュース

Shannon Stapleton/Reuters

「リモートワークになって、自宅で音楽を聴く機会が増えた」という方も多いのではないでしょうか。その影響か、コロナ禍により打撃を受けた業界も多いなか、ライブが開催できないなどの課題はあったものの音楽業界は全体で見れば比較的健闘しているようです。

国際レコード連盟(IFPI)の年次レポート「Global Music Report」によれば、世界のレコード音楽市場は2021年に18.5%の伸びを示し、なかでもストリーミングは24.3%(有料・無料合計)も成長したそうです(※1)。

その音楽ストリーミングでシェア1位を誇るのがSpotify Technology S.A. (以下、Spotify)です。音楽配信事業はいまや、アップル、アマゾン、グーグルなど名だたるテックジャイアントが参入するレッドオーシャン市場ですが、Spotifyはその激烈な競争を勝ち抜いてトップシェアを維持しています(図表1)。

図表1

(出所)Mark Muligan, “Music subscriber market shares Q2 2021,” MIDIA, 18 Jan, 2022.

音楽を聴く際のツールは、かつてのレコードから、ウォークマン、CD、MDへと変遷し、2000年以降はiPodに代表されるMP3プレイヤー、そして2010年代には現在主流になりつつあるストリーミングが登場しました。Spotifyは、この音楽ストリーミング市場の先駆者です。

2010年前後までは、デジタル音楽市場の85%をiPodが占めるというアップルの一人勝ち状態でした。しかし、音楽ストリーミングという新形態を引っ提げたSpotifyの登場は、王者アップルがiTunes(楽曲データの購入・ダウンロード)からApple Music(定額聴き放題の音楽ストリーミング)へとビジネスモデルを転換させざるを得なくなるほどの破壊力でした。

それほどの凄みを持つSpotifyですが、気がかりがないわけではありません。

図表2をご覧ください。Spotifyの株価は、2021年2月に365ドルをつけたのをピークにじりじりと下落し、2022年3月18日時点では145ドルと、ピーク時から6割近くも下げています。時価総額(=株価×発行済株式数)では、ピーク時の約693億ドル(約8兆5200億円、1ドル=123円換算)から279億ドル(約3兆4300億円)への落ち込みです。

Spotifyの株価推移

(出所)Yahoo!Financeより筆者作成。

株価とは株式市場の期待を反映したもの。下落傾向が続くSpotifyの株価トレンドからは、株式市場が同社にリスクを感じていることが見てとれます。いったい何にリスクを感じているのでしょうか?

そこで今回は、会計とファイナンスの視点からSpotifyのビジネスモデルを分析することにしましょう。

急成長しているSpotify

Spotifyは、2006年にマルティン・ロレンツォンとダニエル・エクによって設立されたスウェーデン発の企業です。

Spotifyのサービス開始は2008年10月。まずはスウェーデン国内でローンチ、次いでヨーロッパ諸国へと進出すると、2011年にはアメリカ進出とFacebookとの提携を実現。60カ国目となる日本では2016年にサービスがスタートしています。

Spotifyの最大の特徴はなんと言っても、「無料でもフルで音楽が聴ける」こと。現在、音楽のストリーミング配信サービスはSpotify以外にも数多く存在しますが、広告付きの無料配信で音楽をフルに楽しめるというコンセプトを打ち立てビジネスモデルを軌道に乗せたのは、Spotifyが実質的に世界初と言っていいでしょう。

あのスティーブ・ジョブズですら、2003年4月にiTunes Music Storeを発表した際、「僕たちは、サブスクリプションを誤った方法だと思っている」(※2)と、ストリーミングによる聴き放題に否定的な見方をしていました。Spotifyがアメリカに進出しようとする際にも、ジョブズはレコード業界の友人に「どうして音楽を無料でくれてやろうとするんだ?」と言ったとされています(※3)。

ジョブズほどの慧眼をもってしても、Spotifyの「無料+聴き放題+音楽ストリーミング」というビジネスモデルがここまで大成功を収めるとは当時予想できなかったということでしょう。

しかしSpotifyはジョブズの予想を裏切る快進撃を続け、今や月間平均ユーザー数(MAU:Monthly Average Users)は4億人を超えるまでに成長しました。ネットフリックスやTwitterのユーザー数は2億人強ですが、Spotifyはその両者を足し合わせた規模の会員数を有していることになります(図表3)。

Spotify MAU 及び年間成長率

(出所)Spotify Technology S.A. FORM 20-Fおよびshareholder letterより筆者作成。

また、先の図表1から推定するかぎり、SpotifyはApple MusicとAmazon Musicの会員数合計よりも多くの会員を抱えています。SpotifyのMAUの年間成長率は徐々に鈍化してきているとはいえ、いまだに年間18%以上の成長ペースを維持していることも驚異的です。

なかなか利益を生まないSpotifyのビジネスモデル

では、Spotifyの財務状況はどうでしょうか。売上高、営業利益、当期純利益の推移は図表4のとおりです。

Spotifyの売上高・営業利益・当期純利益

(出所)Spotify Technology FORM 20-FおよびStrainerより筆者作成。

なんと、Spotifyが営業利益ベースで黒字化したのは2021年のこと。2006年の創業からごく最近の2020年まで、営業利益はずっと赤字続きでした。当期純利益に至っては2021年でもまだ赤字という有様です。

「赤字」といえばこの連載でも以前、メルカリSlackアマゾンなど赤字が続いた企業を何社か取り上げてきましたが、Spotifyの赤字期間の長さを見ればそれらの企業がかわいく見えるほどです。

なぜこれほどまでに利益が出ていないのでしょうか?

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