アマゾンをもしのぐSpotifyの資金繰り力。営業赤字で上場に踏み切った裏事情と今後の業績左右する不安材料

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2018年4月、Spotifyは赤字ながらニューヨーク証券取引所に上場を果たした。

LUCAS JACKSON/Reuters

Apple Music、Amazon Music、YouTube Musicなど、いまや音楽ストリーミングはGAFAも参入して顧客獲得に火花を散らすレッドオーシャン市場です。そんな厳しい競争環境のなか、業界シェアトップを独走しているのがスウェーデン発のSpotify Technology S.A.(以下、Spotify)です。

前回はそのSpotifyの財務状況を分析し、2008年のサービスローンチから続いていた営業赤字が2021年にようやく黒字化したこと(ただし当期純利益ではいまだ赤字)、原価率(原価は無料会員・有料会員を問わず発生する著作権使用料支払いなどで、Spotifyの原価率は約73%)が高いため利益が出にくいビジネスモデルであることが分かりました。

新規の有料会員であれば約1年3カ月、無料会員に至っては実に約38.8年も継続して利用してくれないかぎり、顧客1人あたりの獲得にかかる費用を回収できない——そう聞けば、いくら業界トップシェアの企業とはいえ「そんなビジネスモデルで果たして立ち行くのだろうか」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。

そこで本稿では視点を変え、Spotifyがどのくらいキャッシュを生んでいるかをまず調べてみることにしましょう。

Spotifyはキャッシュを生んでいるか

図表1は、Spotifyの営業CFと営業利益の推移です。

Spotifyの営業利益と営業CF

(出所)Spotify Technology S.A. form 20-Fより筆者作成。

いかがでしょうか。Spotifyが初めて営業利益で黒字化したのはつい2021年のことですが、実は営業キャッシュフロー(営業CF)で見れば、2016年からずっとプラスだったのです。つまり、このビジネスモデルでもキャッシュは確保できていたということですね。

アマゾンをもしのぐSpotifyの資金繰り力

「営業利益が赤字なのに営業CFはプラス」と聞いて不思議に思われる方もいるかもしれません。こうなる主な理由は、Spotifyの資金繰りの仕方にあります。

Spotifyが支払わなければならない著作権使用料は再生回数に応じて発生しますが、実際には楽曲が聴かれるたびに支払っているわけではなく、一定期間の分をまとめて支払っています。一方で、会員からの収入や広告の報酬はそれより早くタイミングで入ってきます。つまり、資金繰り的には「先に売上が立って、後から著作権使用料を払う」という流れになるわけです。

Spotifyがどんなサイクルで資金を回しているのかをもう少し具体的に見てみましょう。

この際に便利なのが、連載第17回でもご紹介した「キャッシュ・コンバージョン・サイクル(CCC)」です。CCCとは、事業活動を通じて仕入れから販売、現金回収に至るまでの日数を見る指標です。事業活動からなるべく早くキャッシュ化できたほうが資金繰りは楽になりますから、CCCは短い方が望ましいとされ、次のような式で計算することができます。

CCCとは

筆者作成

・支払いまでの期間=仕入債務回転日数

・在庫の期間=棚卸資産回転日数

・入金までの期間=売上債権回転日数

一般的に、CCCはプラスの値になるケースが大半です。まずは仕入れ代金の支払いが発生し、その後で売れた製品・サービスの売掛金が回収できる、という流れです。

CCCがプラスということは、仕入れから入金までの期間に資金の不足が生じるため、その間の運転資金が必要になることを意味します。

資金面から捉えた営業活動

筆者作成

では、SpotifyのCCCはどうでしょうか。

Spotifyの場合は、まず音楽の仕入れが発生しません。ストリーミング配信ですから、ユーザーが楽曲を聴きたくなればいつでも提供できます。そのため、在庫も発生しないことになります。この点は、従来のHMVやタワーレコードなどのレコードショップとは大きく異なりますね。

一方で、Spotifyには音楽配信に応じた著作権使用料の支払いが発生します。しかし、先述のとおりこの支払いはある一定期間の分をまとめて支払うため、音楽が聴かれるつど支払う必要はありません。

以上の点を踏まえてSpotifyのCCCを図解したものが図表4です。

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