ソフトバンクグループ創業者の孫正義会長兼社長。
REUTERS/Kim Kyung-Hoon
小規模事業者に財務会計レポートを提供するスタートアップ企業Digits(ディジッツ)が、ソフトバンクグループが主導する資金調達ラウンドで6500万ドル(約79億円、1ドル=122円換算)を調達した。
Digits共同創業者のウェイン・チャン(Wayne Chang)氏はこう語る。
「私たちはZoomでマサ(Masa)と面会し、30分足らずで資金調達のシリーズCラウンドの主要投資家を見つけることができました」
「マサ」ことソフトバンクグループの孫正義氏は同社の提供するサービスに感銘を受け、即座に投資を決めた。
サンフランシスコを拠点とするこのフィンテック企業は、注目の2人の起業家によって設立された。ツイッター(Twitter)に買収され、次いでグーグル(Google)に買収されたソフトウェアのスタートアップ企業Crashlytics(クラッシュリティクス)の設立に関わった起業家ジェフ・セイバート(Jeff Seibert)氏とウェイン・チャン氏だ。
ウェイン・チャン氏とジェフ・セイバート氏。
Digits
最新の資金調達ラウンドを含めると、Digitsの資金調達総額は9750万ドル(約118億円)となり、同社のバリュエーションは5億6500万ドル(約689億円)にのぼる。
Digitsによれば、全ての資金調達ラウンドにおいて先制タームシート(起業家が資金調達をする前に投資家側から出資のオファーをすること)を受け取るか、募集額を上回るオファーがあったという。つまり、ピッチデック(投資家向けのプレゼン資料)を作成する必要さえなかったということだ。
ソフトバンク・ビジョン・ファンドの投資家であるエイラル・カイン(Eylul Kayin)氏はDigitsについて、「投資先の企業の商品やサービスが特定の業界・業種に資することはありますが、Digitsは『あらゆる事業にとって役に立つ』のです」と語る。
孫正義氏が投資を即決したほどの同社の強みとは一体何だろうか?
財務情報をリアルタイムで確認、すぐ意思決定できる
「企業の財務活動の現状は、時代遅れの状況だ」とチャン氏は語る。
「これまで、企業は会社の財務レポートを手作業で更新しなければなりませんでした。このプロセスは退屈で、人的なミスも発生しやすく、何より非常に時間がかります。会計士や経理部門に質問しても回答に数日から数週間もかかるのは、これが主な理由です」
チャン氏は、財務活動は受け身であり、データの検証は「事後」にしかできないため、「先んじる」方法はなかったと続けた。
しかしDigitsを使えば、機械学習を利用して企業の会計情報をリアルタイムで可視化できる。経営陣はいま知りたい財務状況を確認し、即座に意思決定を下せるのだ。同時に、検索やデータ抽出などの追加機能も提供している。
なお、今回調達した6500万ドルの出資者には、これまでも投資していたVC(ベンチャーキャピタル)であるGV(旧Google Ventures。アルファベットによるVC)、Benchmark、20VCGrowthなども名を連ねる。
「(Digitsがターゲットとする)小規模事業者は暗黒の時代に取り残された顧客グループです」と、20VCGrowthのハリー・ステビングス(Harry Stebbings)氏は言う。
「Digitsには検索機能と詳細なデータ抽出機能があるので、規模を保ちながらもビジネススピードを維持するのに役立ちます。企業にとって財務情報は非常に重要ですから、戦略的意思決定を行う際に利用するデータは精度を高める必要があります」
Digitsは当面、アメリカ市場に注力する計画だ。今回調達した資金は同社の基礎的技術の向上と事業の拡大に充てられる。
(編集・野田翔)