大阪大学、島津製作所、シグマクシスは3月28日、3Dバイオプリント技術の社会実装に向けて3者が協業すると共同記者会見で発表した。
これに先立ち、大阪大学と島津製作所は「3Dバイオプリントを応用したテーラーメイド培養肉の自動生産装置の開発」に関する共同研究契約も締結。2025年に開催を予定している大阪万博で、3Dバイオプリント技術を活用した「培養肉」の展示を目指すとしている。
ステーキのような培養肉「自動化で」
画像:島津製作所プレスリリースより引用
今回の協業で基礎的な技術開発を担うのは、大阪大学大学院工学研究科の松崎典弥教授だ。
松崎教授の研究室では、2021年8月、和牛の培養細胞を3Dプリンターを使って組み合わせることで「ステーキ」を作り、大きな話題を呼んだ。
松崎教授が開発した培養肉のステーキ。
画像:大阪大学プレスリリースより引用
細胞を培養して肉を作り出す「培養肉」の研究は、「代替肉」の一つとして世界的に注目されている。
代替肉の業界では、現状では大豆などの植物をベースとした製品が大半。一方で、動物細胞を培養して肉そのものを作ろうとする動きもある。
2020年にはシンガポールで、世界初となる培養肉によるチキンナゲットの製造販売が許可された。開発したのはアメリカのスタートアップ企業「イート・ジャスト」だ。
国内では、スタートアップのインテグリカルチャーが2022年度中に培養フォアグラの市場投入を狙っている。2021年11月には、日揮HDも培養肉の技術開発を目的に新会社を設立した。
培養肉の開発では、ミンチのように肉の繊維が細切れになったものはできていても、繊維が保たれたステーキのような「構造化された培養肉」を作ることは難しい。
これを実現するには、実際に「筋肉の組織」に近い構造を構築する技術が必要となる。
また、「iPS細胞を培養して臓器を作る技術」のように、細胞を培養する中で、うまく筋肉の組織構造を作る研究の方向性もありうる。松崎教授はこれを3Dプリンターを使って実現しようとしているわけだ。
「細胞レベル、1ミリメートル以下の繊維構造を作り、束ねていかなければならない。そこに3Dプリンターが活用されます」(松崎教授)
松崎教授らは2021年夏に培養細胞を使ったステーキ肉を発表したが、これは焼肉の肉から組織標本を取り、作成した設計図に基づいて脂肪や血管、筋繊維を配置することで構築したという。
今回の協業では、基本的に2021年夏に発表した培養肉の作成方法を自動化。世界中のどこででも作成可能にすることを目指す。
自動化する上での技術的な課題はどこにあるのか。Business Insider Japanの質問に対し、松崎教授は
「やはり手作業でやっている部分と、自動化でやるところで大分変わってくるところがある」
と、微細な構造の構築を自動化する際に難しさが生じると語った。
また、今回の協業では培養肉の3Dプリント技術だけではなく、3Dプリンターの可能性を追求する新たな基礎技術の開発にも取り組むとしている。
「心臓の形をプリントするなど、(3Dプリンターを使えば)さまざまな立体構造を作成することが可能になります。そういった新しい技術の開発をこれから進めていきたいと思います」(松崎教授)
大阪大学の松崎典弥教授。
画像:記者会見の動画をキャプチャ
島津製作所、シグマクシスの役割は?
今回の協業における3者の主な活動は以下の通り。
- 3D バイオプリント技術の開発推進に向けた他企業との共同研究
- 周辺技術・ノウハウを有する企業・団体との連携
- 食肉サプライチェーンを構成する企業・団体との連携
- 3Dバイオプリント技術に関する社会への情報発信
島津製作所では、松崎教授らが開発した技術を生かして「3Dバイオプリント技術による培養肉生産の自動化」と「培養肉開発に関わる分析計測技術の提供」を担う。
また、島津製作所の馬瀬嘉昭馬・専務執行役員は記者会見で、培養肉の開発に加えて、将来的には3Dバイオプリント技術を医療面で利活用することも視野に入れていると語った。
培養肉の3Dプリント技術を発展させれば、例えばヒトの臓器モデルのようなものも作成することが可能になると考えられている。
ヒトの組織に近いものが実現できれば、再生医療としての活用はもちろん、動物実験の代用や稀少疾患など創薬分野への研究への応用が期待できる。
シグマクシスは、3Dバイオプリント技術の社会実装に向けたプログラム・マネジメント・オフィスとしての役割を担うとしている。
(文・三ツ村崇志)