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出生前診断「新指針」で年齢緩和も。若者が抱くイメージと実情のギャップを専門家に聞いてみた

20代前半の筆者は、友人と集まると「結婚・出産」の話題で盛り上がるのがあるあるだ。

「高齢出産は避けたいし、●歳くらいには子どもを産みたいよね」

「そうすると、●歳までには結婚していないとじゃない?もう数年後じゃん!」

と、タラレバ話に花を咲かせる。

そんな話題の中で出てきたキーワードが、「出生前検査」だ。

20代がリアルに抱く出生前検査のイメージ

妊婦と産婦人科

Z世代やミレニアル世代が、妊娠、出産を経験する際には、出生前検査が選択肢として当たり前に存在している環境が整いつつある(画像はメージです)。

takasu/Shutterstock.com

「出生前検査を受けたら、事前に子どもの障がいを知ることができるし、心の準備もできそう」(25歳・女性会社員)

出生前検査についてカジュアルに話す友人たち。他にも、障がいのある子どもを育てられるのかという不安から出生前検査を受けたいと話す友人もいた。

一方で、

「検査を受けたことによって疾患が発覚した時に、産むべきか産まないべきかを悩みたくない」(23歳、女性学生)

「障がいが分かったとしても中絶をしてほしいとは思えないため、検査をする意義を感じられない」(23歳、男性学生)

と、若者の間でも、出生前検査に対して後ろ向きな人もいた。

2022年2月には、日本医学会からいわゆる「新型出生前診断」(正しくは「母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)」)の新しい指針が公表された。

新しい指針では、適切な「遺伝カウンセリング」や情報提供などを受けた上であれば、検査の受検について「妊婦本人の意思を尊重する」としている。つまり、出生前検査に興味を抱いている若者世代でも、実際に検査を受けられる環境になりつつある。

選択肢として出生前検査が当たり前に存在する時代に出産を経験するであろうZ世代やミレニアル世代は、何を考えておくべきなのか。

東京医科歯科大学で生命倫理研究センター・遺伝子診療科の吉田雅幸センター長と、同大学の臨床遺伝専門医・周産期専門医である江川真希子准教授(血管代謝探索講座)に話を聞いた。

新指針、背景に「無認可施設」の拡大

吉田先生

東京医科歯科大学、生命倫理研究センター・遺伝子診療科の吉田雅幸センター長。

提供:東京医科歯科大学

—— NIPTとはどういう検査なのでしょうか?

吉田雅幸センター長(以下、吉田):出生前検査というものは、赤ちゃん(胎児)の状態を正確に知ることを目的とする検査です。

女性の出産年齢が高くなると、若干ではありますが、染色体が変化した赤ちゃんの生まれてくる割合が高くなります。

従って、35歳以上のいわゆる「高齢出産」とされている方(※)に対しては、このような検査が考慮されても良いのではないか、ということで検査が始まりました。


※日本の場合、35歳以上での出産を「高齢出産」もしくは「高年出産」とし、基準の一つとして考えるケースが多い。なお、父母ともに若くても染色体が変化した子どもが生まれることもある。

—— 新指針では、年齢制限が緩和されています。どういった経緯があったのでしょうか。

吉田:日本医学会は、この検査が始まった当初(2013年)から認証制度を設けていました。ただ、認定を持たない専門外のクリニック(美容クリニックなど)でも検査することができるので、実際にたくさん実施されていたんです。

無認可の施設の中には検査前後の対応(事前の遺伝カウンセリングや検査後のフォローなど)をしてくれない施設もあり、検査を受けた妊婦が困ってしまう状況も起きています。そういった無認可施設では年齢制限なく検査しているところもありました。

このように妊婦さんが困惑される事態を避ける意味でも、遺伝カウンセリングをしっかり行う体制が取れるように制度全体を見直す中で、年齢制限の緩和についても話し合われてきました。

Google

Googleで「出生前検査」と検索すると、上位に出てくるのはクリニックが多い。ただ、指針改定前に認定されていた施設の中にクリニックはない。

撮影:三ツ村崇志

現在日本医学会では「出生前検査認証制度等運営委員会」を設置し、NIPT実施施設に対する施設認証を開始しています。6月上旬にはNIPT実施についての基幹施設や検査分析機関の審査結果が広報される予定です。

—— なぜ無認可施設が増えてしまったのでしょうか?

江川真希子准教授(以下、江川):認定施設では夫婦そろっての遺伝カウンセリングを求めるところが多く、遺伝カウンセリングには1時間程度要します。認可外施設では遺伝カウンセリングがないところがほとんどです。受診してすぐに採血が可能だったり、結果も受診せずに(郵送で)受け取れたりなど、利便性から選ばれているのでしょうか。

吉田:NIPTは採血(※)だけで済むのですが、その結果から分かることやその後何が起こるのかを理解してもらうプロセスが必要になります。これを「遺伝カウンセリング」といいます。

遺伝カウンセリングを経て不安になる方もいらっしゃいます。だからこそ、検査を受ける方の頭の中でプロセスを十分に理解し、想像し、どんな結果にも備えるという時間的な経過が必要だと思います。その上で、検査をするかしないかを考えることがすごく大事なんです。

※妊婦の血液中に存在する赤ちゃんのDNAの断片を調べる。

—— 無認可施設ではそうしたプロセスが抜けているということでしょうか?

吉田:そうですね。来院してすぐに採血ができて、それで終わってしまうところもあるようです。

新指針における認定施設の条件

出生前検査に詳しい産婦人科専門医などの専門人材がいること、遺伝カウンセリングに十分な時間を取る体制がとられていること、出生後の医療やケアの実施、あるいはそういった対応ができる連携体制があるかなど、さまざまな条件がある。

認証条件の詳細はこちら

※3月16日から、新たな指針に基づいた認証申請が始まっている。審査結果は6月上旬に公表される見通し。

認可施設と無認可施設における検査前説明の有無に関する調査結果。

認可施設と無認可施設における検査前説明の有無に関する調査結果。

出典:第1回NIPT等の出生前検査に関する専門委員会資料より引用

タイトなスケジュール、心構えとシミュレーションが必須

—— 実際にNIPTを受ける場合は、どういう流れになるのでしょうか?

吉田:まずは全体のプロセスへの理解を深めていただく「遺伝カウンセリング」のために、パートナーと2人で来院していただく必要があります。カウンセリングの時間は、大体1時間ほどです。一般的に、初回に採血はしません。

たくさんの情報をお伝えするので、それらを一度持ち帰って2人で相談していただきます。出産するのは女性ですが、男性側にも十分に考えていただくことがすごく大事なんです。

—— 検査ではどんなことが分かるでしょうか?インターネット上には、なんでも分かるかのような物言いの広告なども見かけるのですが……。

吉田:今、日本医学会、日本産科婦人科学会で認定しているNIPTでは、3つの染色体の変化についてのみ検査をすることになっています。

NIPTで判定できること

ヒトは23組(46本)の染色体を持っており、1〜22番までの番号が付けられている(23組目は性染色体)。NIPTでは、このうち13番、18番、21番染色体のトリソミーの可能性を判定できる。トリソミーとは、染色体が3本ある状態のこと。それぞれ、パトウ症候群、エドワーズ症候群、ダウン症候群の原因だとされている。

出典:第2回 母体血を用いた出生前遺伝学的検査(NIPT)の調査等に関するワーキンググループ 資料

—— 3つだけなのですか?

江川:胎児の状態で診断を確定させることができるのは、現時点では染色体疾患のみです。その中でもこの3つに限定しているのは、分析的・臨床的な妥当性がきちんと証明されているからです。

ただ、NIPTはあくまで「非確定的検査」です。検査後の選択として妊娠の中断を考えている方には、その後、確定的検査(※)を受けて、きちんと診断をつけた上で判断をしてもらいます。

海外や無認可施設であれば、他の染色体の変化を調べる検査をオプションのようにつけているところもあります。しかし、NIPTは13、18、21トリソミーの3疾患以外の疾患については、分析的妥当性や臨床的妥当性が現時点では十分に確立されていません。検査対象疾患を拡大するには、まずは医学的意義や社会的影響等についても考慮して検討していく必要があります。

NIPT後に実施する確定的検査

診断を確定する検査として、「羊水検査」と「絨毛検査」がある。どちらも子宮内に針を刺して検査をする侵襲性の高い検査だ。検査時には、破水するリスクが1%程度、流産するリスクが0.1〜0.2%程度ある。

出典:妊知る.jp

NIPTスケジュール

NIPTを受けた場合のスケジュールのイメージ。妊娠の中断を考える場合は、確定的検査が必須となる。妊娠を継続する場合は、検査結果にかかわらず継続が可能。確定的検査を受ける必要もない。

出典:取材をもとに編集部が作成

—— NIPTを受検できる期間は決まっているのでしょうか。

吉田:妊娠10週以降で受けることができます。

—— 逆に「何週目以降は受けられない」などの制限はないのでしょうか?

吉田:制限はありません。

ただ、妊娠を中断する可能性がある場合、確定診断をつける必要があります。妊娠の中断は妊娠22週未満に実施する必要がありますので、検査に要する期間などから逆算して検査実施週数を定めている施設が多いと思います(妊娠を継続する場合は、検査結果にかかわらず継続が可能。確定的検査を受ける必要もない) 。

江川:間違えて欲しくないのが、NIPTでは結局3つの病気についてしか分からないということです。これは赤ちゃんの生まれつきの病気の本当にごく一部です。それ以外にも赤ちゃんの病気はいろいろあります。

この3つさえ分かれば安心というわけではなく、分かることはかなり限定的だということを理解した上で選択して欲しいと思っています。

—— NIPTの採血から確定的検査にいたるまで、通常はどれくらいの期間がかかるのでしょうか?

吉田:妊娠の12〜13週で採血をして、その後2週間、14〜15週で結果が分かります。

陽性であれば、赤ちゃんの細胞を取って検査をする確定的検査に移ります。それが大体16〜17週目でしょうか。その結果は(羊水検査の場合)19〜20週くらいに分かります。

—— 確定的検査の結果が出てから最終決断まで、あまり時間はないですね。

吉田:そうなんです。だからこういうシミュレーションや心構えをNIPTの受診前からパートナーと話し合って欲しいんです。一度検査結果が出てしまったら、このスキームは走り出してしまう。

もちろん多くの場合は陰性です。ただ一定の確率で陽性の方はいて、そういう方は「こんなはずじゃなかったのに」と悩んでしまう。でも、刻一刻とお腹は大きくなっていきます。

多くの無認可施設では郵送やメールで結果が通知され、これほどショッキングな内容を、妊婦一人で受け止めることになってしまうんです。

NIPTで疾患の重症度は分からない

検査陽性者の妊娠転帰

NIPTで陽性になった人の経過。トータルの「妊娠中断率」は約8割。「胎児期に子宮内で亡くなってしまうケース(IUFD)」も一定数存在する。疾病があった場合に育てていく自信がない方が受診するケースが多いため、中断率が高くなっている。

出典:第4回NIPT等の出生前検査に関する専門委員会資料より引用

—— 若者に話を聞くと、「準備のため」にNIPTを受けたいと考えているようでした。「こういう人なら検査を受けたほうが良い」というような条件はありますか?

江川:特にないと思います。

その結果を、カップルがどう使いたいか。検査の結果はどのような結果であってもカップルで受け止めてもらう必要がありますので、その点を理解された方が選択することなのかと思います。

吉田:今、NIPTを受けている方は、多くは35歳を超えて妊娠されている方です。

「準備のため」ということであれば、私たちももちろん情報提供や、専門の医師を紹介することもできます。また、例えばダウン症のお子さんたちがどのように生活をされているか、大人になったらどうなるかについて、僕たちも情報発信をしなければいけないと思っています。

江川:ただ、実際に赤字で「陽性」と結果が返ってくると、その決意が揺らいでしまうこともあります。本当に「準備のため」という覚悟を持てているのかどうか、実際はとても難しい問題です。

また、この検査(NIPTや確定的検査)では、赤ちゃんの実際の症状や病状の程度は分からないということは知っておいて欲しいと思います。

ダウン症アンケート結果

日本ダウン症協会が公表している自立度の調査結果。食事や衣服の着脱など、日常生活にサポートが必要になる場合も多いが、一人で全くできないという人の割合は少ない。

出典:日本ダウン症協会

—— 症状にはグラデーションがあると。

江川:例えば、ダウン症候群という体質を持つ方の中にも、合併症があって生まれてすぐ手術が必要な赤ちゃんもいれば、大学にまで進学される方もおられます。海外ではモデルや気象予報士として活躍されている方もいらっしゃるようです。国内でも多くの方が将来的には仕事に就いています。

ダウン症の方に対するアンケート調査(第3分科会資料参照)でも、多くの方が「友達ができて、毎日楽しく暮らしています」などと回答しています。

このような点もお伝えした上で決めていただくことになります。

—— この先、NIPTの受検を検討する方、若者に事前に知っておいて欲しいことはありますか?

吉田:新指針では、検査施設を拡大する方向ではありますが、それはどんどん検査を受けていただきたいということではありません。受診を考えるにあたっては、十分な説明をしてもらえるところで受診して欲しいと思います。

江川:「こんな検査があるんだ、自分ならどうするか」を考えるだけでなく、検査によって苦渋の選択をするカップル(夫婦)もいることを知ってほしいと思います。その選択はすべて尊重されるものです。

若い人たちにはこのような現状を知った上で、選択の裏には社会的な圧がないか、日本は障がいのある人を育てやすい、障がいのある人たちに優しい社会なのか、改めてこれから日本をどのような社会にしていきたいのかを考えてもらいたいと思っています。

(取材、文・戸田彩香 取材、編集・三ツ村崇志

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