今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。
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なぜこの連載が続いたのか
こんにちは、入山章栄です。
なんと今回は連載100回目! いつもご愛読いただいている読者のみなさんに、改めてお礼申し上げます。
※先生への祝賀メッセージ、ご質問などはこちらからどうぞ!
この連載を立ち上げたBusiness Insider Japan編集部の常盤亜由子さんもうれしそうです。
BIJ編集部・常盤
入山先生、やりました!ついに連載100回達成です。
コツコツやっていたら、いつの間にか100回ですね。連載が始まったのがいつでしたっけ?
BIJ編集部・常盤
連載開始は2020年の春でした。ところがその直後にコロナで外出自粛になってしまって。
やむを得ずZoomによる取材に切り替えたのですが、それまで誰もオンラインで取材をしたことがなかったので、慣れるまで手探りでした。
いまとなってはコロナのなかった世界が想像できませんが、この連載はZoom取材ができなければ続かなかった気もしますね。
BIJ編集部・小倉
そうですね。今回も前回に引き続き、入山先生はマニラにいらっしゃいますが、以前だったらこんなときは取材をあきらめていたでしょう。
BIJ編集部・常盤
やはりコロナ以前と以後とで、私たちの常識がガラッと変わったと実感しますね。
この2年間、常盤さんはいかがでしたか?
BIJ編集部・常盤
いやもう毎回、どんなネタを振っても必ず打ち返してくださる入山先生の引き出しの多さに驚いてばかりでした。
この連載を読んでいる方からも、「何を聞いても答えてくれる入山先生はすごいですね」とよく言われるんですよ。
ありがとうございます。途中で編集担当がBusiness Insider Japan編集部の小倉宏弥さんにバトンタッチしましたね。
BIJ編集部・常盤
毎回斬新なタイトルをつけて、小倉カラーを出してくれています。
それにしても、今回100回を迎えてしみじみ思うんですけど、やっぱり何かを長く続けるということは、それもまた1つの能力ですよね。
例えば長く続くビジネスと、短命で終わるビジネスの違いはどこにあるのでしょうか。
なるほど、今日のテーマはそれですね。
まず結論から言うと、僕は何かを始めるとき、「これは長く続けるものか、それとも長く続けなくていいものか」をあらかじめはっきりさせておくことが大事だと思うんですよ。特に仕事ではそうです。
ほとんどの人は、意外なくらいここを決めないんですけど。すなわち、「時間軸の感覚」です。人は「これをやろう」と意思決定したら、それを「いつまで続けるのか」の時間軸を最初に持つのがすごく重要だと思っています。
例えば僕は2~3年前から文化放送で「浜松町Innovation Culture Cafe」、通称「浜カフェ」というラジオ番組を始めました。現在も放送中ですが、実はこの番組を始めるときに「これは長く続けよう」と、最初に決めたんです。
なぜならラジオ番組というのはテレビに比べ、長寿番組が多い。これは長く続けることでリスナーがパーソナリティに親しみを持ったり、その世界観のファンになるからです。
つまり、ある程度時間をかけて番組とリスナーの信頼関係ができるから、そこがコミュニティのようなものになっていくわけですね。特にこの浜カフェという番組は、立ち上げたプロデューサーさんがコミュニティ作りをすごく意識されていました。
だから始めるときに、これは「とにかく続ける」ということを1つのゴールにすると僕のなかで決めました。コミュニティを作りたいのなら、続けないと意味がないわけです。
ラジオ番組が続くためにいちばん大事なこと
「浜カフェ」、最初は2時間番組として実験的に始めたので、半年で終わる予定でした。というのも文化放送では4月から9月にかけてのプロ野球シーズン中は「ライオンズナイター」を放送している。
逆に言うと野球のない10月から3月の半年は、その枠がまるまる空く。そこに毎回実験的な番組を入れるというのが文化放送のやり方でした。すると野球シーズンが始まる4月には自動的に終わってしまうわけですね。
でも僕はたった半年で番組が終わったら、コミュニティができないと思っていた。
なので僕は番組が始まるとき、プロデューサーに「こういう番組をやるなら絶対に長く続けたほうがいいですよ」と言いました。それで半年すぎた後も、幸い若干人気もあったので1時間番組になって続けさせてもらったんですね。
だけどいろんな編成の関係で、続けられるかどうか分からなくなった。でもこのプロジェクトの目的は「続ける」ということだから、何が何でも続けるにはどうすればいいかという発想になります。
そうするとラジオにとって続けるために必要なことは何かというと、もちろんいい番組をつくることも、聴取率も大事だけれど、それが最重要ポイントではないのです。
みなさんもお気づきかもしれませんが、ポイントは「企業スポンサーがいる」ということです。
僕は途中で「あ、これは続けるにはスポンサーがいないとだめだ」と気づいた。でもこの番組はコンセプトが新しいので、文化放送の営業さんでもなかなかスポンサーをつかまえてくることが難しい。
そこで、いまの大口スポンサー企業さんは僕が声をかけて連れてきたんです。
BIJ編集部・小倉
そこまでしたんですか! パーソナリティの域を超えていますね。
例えば、いま某大手エネルギー会社さんに大々的にスポンサーになっていただいていますが、あれは僕が同社の役員さんに談判してスポンサーになってもらうことをお願いしたんです。
もちろん、我々の番組の意義や価値を理解して共感いただいたので、入ってもらっているわけです。
ただ、そもそもその番組の意義や価値が分かっているのは、何よりもパーソナリティである僕ですから、自分で営業するのがある意味一番いいんですよね(笑)。
BIJ編集部・常盤
続けるために、そこまでコミットされているんですね。
ええ、そういうわけで「浜カフェ」という番組は、僕が営業に一部貢献しています。
正直言うともっとたくさんのスポンサーに入ってもらうこともできるのかもしれませんが、これ以上スポンサーが入るともう30分番組では収まらなくなって編成にも課題が出てくる。
ですから、今現在はそれほど営業していません。スポンサーになってくださったエネルギー会社さんにはとても感謝しています。
BIJ編集部・常盤
それも先生の続けるという目的があるから、「続けるためにはどうすればいいか」という発想になるわけですね。
それで言うと、会社におけるいわゆるゴーイング・コンサーン(継続企業の前提)ってありますよね。「会社というのは継続するのが前提だ」とおっしゃる方もいれば、スタートアップでエグジットを狙っている方もいる。
でも後者は最初の段階で目的がはっきりしているわけですから、例えば3年後にエグジットもありと思われますか?
繰り返しですが、大事なのはそういう「時間軸の感覚」を持つことだと思うんですよ。だいたい人間ってやりたいことをやるときはワクワクしているでしょう。けれども問題はそのゴールがいつ実現するかです。
その時間軸がすごく重要だと僕は思っていて、「われわれの語るビジョンは何年先に実現するのか」という時間軸の感覚が弱いまま勢いで走っていると、だんだん惰性で動くようになって、そのままグズグズになる。
こういうパターンは事業でもプロジェクトでもよくありますよね。
ですから、これもまた繰り返しですが、みなさん何かを始めるときは、「このプロジェクトは長く続けるものか、時間軸を短くしてある程度結果が出たらすぐに止めるものか」をはっきりしておくことが重要だと思います。
BIJ編集部・常盤
じゃあ、この連載のゴールはどうしましょう。
僕はこの連載をすごく楽しみにしているんです。正直、最初のころは「いつまで続けようかな」と思ったこともあったんです(笑)。
でも、常盤さん、小倉さん、そしてライターの長山さんまでもが、毎回思いもよらないテーマを振ってくださるでしょう。
これが大喜利みたいに頭を使うので、自分にとってもとてもいい刺激になるんです。冒頭で常盤さんから、この連載を読んでいる方が僕がどんなお題でも返すとおっしゃっていますが、まさに僕にとって「思考の拡張・鍛錬」のいい場になっているんですよね。
さらに言えば、みなさんと様々なトピックを話しながら言語化することで、自分でも頭が整理されて、いろいろな発見があるんですよ。
僕はよく「知の探索」の重要性をこの連載でも言いますが、そのためには遠くの様々なものを見たり感じた後で、それについて自分はどう考えるか、何を考えたかを「言語化」する、アウトプットする機会がすごく重要だと思っています。
言葉にして整理しておかないと、いざと言うときにその知見が使えないですから。この連載は、まさにそういう場だと思っていて、たまに自分でもこの連載を読み返しているんですよ。だからぜひ続けたいと思います。
BIJ編集部・常盤
ありがとうございます。入山先生にそうおっしゃっていただけてうれしいです。次回、101回目から気持ちも新たに頑張りましょう!
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(構成:長山清子、撮影:今村拓馬、連載ロゴデザイン:星野美緒、編集・音声編集:小倉宏弥、常盤亜由子)
入山章栄:早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)教授。慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所に勤務した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクールアシスタントプロフェッサー。2013年より早稲田大学大学院経営管理研究科(ビジネススクール)准教授。2019年から現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』『世界標準の経営理論』など。