2022年3月28日、ロシア版Instagramとも言うべき「Rossgram(ロスグラム)」のロゴが投資家、スポンサー、メディアに公開された。
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ロシア政府は2022年3月14日、ロシア国内でInstagram(インスタグラム)へのアクセスを公式に禁止したが、その前日、メッセージアプリ「Telegram(テレグラム)」上に、「Rossgram — official community(ロスグラム オフィシャルコミュニティ)」というチャンネルが開設された。
Instagram禁止初日には、こんなメッセージが現れた。「2022年3月28日、ロシア版Instagramともいうべきサービスを立ち上げます。Instagramのような機能に加え、AndroidやiOS向けのモバイルアプリも提供します」
一見すると、Rossgramのアプリはデザインも名前も、オリジナルのInstagramと酷似している。ロゴの色も明るいピンクとオレンジで、Instagramを彷彿させるものだ。
ロシアのクリエイターがInstagramにアクセスできなくなり、収入の柱を失って苦境に立たされる中、RossgramはロシアのクリエイターのためにInstagramの代わりとなることをめざすという。
Instagramで100万以上のフォロワーを持つカリーナ・ニーゲイ(Karina Nigay)は、ワシントンポストの記事の中で次のように語る。「Instagramは私にとって、仕事なんです。もし完全に仕事をクビになって収入がゼロになってしまったら、と想像してみてください。家族のためのお金も必要だし、部下にも給料を払わなくてはならないのに、突然従業員に払う資金がなくなってしまったらどうでしょう」
Rossgramは、これまでインフルエンサーたちが活用してきたInstagramの収益関連機能(アフィリエイトリンクやブランドコンテンツ、ショップ機能など)をすべて実装するという。さらに、サブスクリプションやクラウドファンディングなどの新機能も準備する予定だ。
しかし多くのクリエイターは、RossgramがInstagramの代わりになるとは思っていないようだ。
YouTubeで100万以上のフォロワーを、Instagramでは約40万フォロワーを持つカーチャ・コナソバ(Katya Konasova)は、Telegram(テレグラム)にこう投稿している。「(Rossgramの)ロゴはグラフィックソフトのPaint(ペイント)で作ったみたいに見えるし、こんなの誰が使うんだろう」
クリエイターたちはフォロワー数を維持し収益を稼ぎ続けようと、代わりとなるアプリに群がっている。多くの人がメッセージアプリ「Telegram」や、ロシアのSNS「VKontakte(フコンタクテ)」に切り替え、新アプリに移行してくれたフォロワーに特別プレゼントを贈呈するなどの対策をとっている。
しかしフォロワーに移行してもらうのは難しいし、TelegramやVKontakteのユーザーエクスペリエンスはInstagramとは異なる。
難局でもRossgramには期待薄
Rossgramの言う通りに運ぶのであれば、今後もSNSで食べていこうとするクリエイターの生命線は確保されることになる。ただし本当に順調に進めば、の話だ。Rossgramにはいろいろな意味で首をかしげざるを得ないと言うクリエイターもいるのだ。
クリエイターのアルチョム・グラフ(Artem Graf)は2022年3月17日にYouTubeに上げた動画の冒頭、Rossgramの発表について次のようにコメントしている。
「正直言って、最初は冗談かと思ったよ。Instagramのデザインを文字通りパクって、新しいロゴに加工しただけだよね」
グラフはYouTubeで35万人以上、Instagramでも10万人のフォロワーを持つ。Insiderに宛てたTelegramのメッセージの中で、クリエイターも多い友人の大多数はRossgramのニュースに「ユーモアを交えて」反応しているという。
それにはいくつかの理由がある。まず、Rossgramという名前。愛国的すぎるし、Instagramのマネだ。次に、Rossgramの用途は限定的になると考えられることである。
「Instagramは全世界とつながる自由を与えてくれましたが、RossgramはロシアのSNSとして設計されています。つまり、ロシア以外の世界とは切り離されてしまうんです」
クリエイター仲間と会話し、彼らの反応に耳を傾けた結果、90%のクリエイターはRossgramに懐疑的だとグラフは言う。
別のクリエイター、デニス(Denis、政治的問題を避けるためファーストネームのみ公開)もYouTubeで成功している一人で、Rossgramについて論じる動画を何本か作成している。Insiderのメール取材に対し、「Rossgramは物笑いの種になるだけだと思う」と述べている。彼もグラフと同じように、Rossgramに期待していないクリエイターは多いと感じている。
Rossgramの暫定インターフェイスが、TelegramやVKontakteのRossgramアカウントで公開された。
Rossgram
グラフやデニスの動画に対するコメントからは、他のユーザーも前向きには受け止めていない様子が伝わってくる。
あるユーザーのコメントにはこうある。「RutubeとYouTubeみたいなものになるんじゃないかな。つまりパクリでしょ。結局のところ、オリジナルと同じレベルにはなれない」
ロシアの開発者が「西側」のSNSプラットフォームに代わるロシア版を作ろうとしたのは、今回が初めてではない。最もよく知られているのはYouTubeを模したRutubeや、短命に終わった写真アプリ「Snapster」(2015〜2017年)だ。ロシア版InstagramはRossgramのほかに、「Limbiko(リンビカ)」というものが、やはり最近登場した。
多くのクリエイターにとって、既存アプリの模倣は最初から失敗しているも同然だ。
「Instagramはすでに大きなコミュニティであり、ひとつのライフスタイルであり、思い出の場所であり、人によっては仕事であり職場でもあります」と話すのは、SNSマーケティングに詳しく、自社の宣伝にもInstagramを活用しているセルゲイ・プラキーディン(Sergei Plakidin)だ。
「Rossgramは、ロシア語の表現を借りれば『自転車を再発明する』ようなものです。つまり、既存のものをわざわざ改めて作り直しているんです」
プラキーディンはRossgramのアプリ開発スピードには疑問符が付くという。3月半ばの発表で4月の公開を目指すとしているが、それでは質の良いプロダクトを作るために十分な時間をかけているとは言えないというのだ。
「そんな短期間じゃ、Instagramのまがい物すら作れませんよ」
Rossgram開発側は自信満々
インフルエンサーからは疑いのまなざしを向けられているが、Rossgram共同創業者は楽観的なようだ。
RossgramのTelegramページには9万フォロワーがいる。共同創業者の一人、アレキサンダー・ザーボフ(Aleksandr Zobov)は、ロシアの報道機関に「今後1カ月で100万ダウンロードを想定している」と語っている。
ザーボフはInsiderのメール取材に対し、Rossgramアプリの基本機能はInstagramに似たものになるが、その他はInstagramとは異なるものになると答えている(現在公開されている暫定インターフェイスを見るかぎり、そうは思えないが)。
「Instagramのコードは1行たりともコピーしません。デザインも似たものにはしません」
Rossgramアプリは「ロシア市民」のためのものだとザーボフは強調する。開発者にとっては、Instagramが禁止されたことでRossgramのニーズが生まれたことこそが重要なのだという。
「こういうタイミングに巡り合えるのは一生に一度しかないと思います。この好機を逃したくないですね」
(翻訳・カイザー真紀子、編集・大門小百合)