サミュエル・ジョーダンは、オンラインゲーム・プラットフォーム「ロブロックス(Roblox)で大人気のファッションデザイナーだ。
Samuel Jordan
サミュエル・ジョーダン(Samuel Jordan)は、大人気のファッションデザイナーだ。しかし、ユーザーが制作した1100万以上のゲームをホストするオンラインゲーム・プラットフォーム「ロブロックス(Roblox)」を利用している人以外は、彼のことを知らないかもしれない。ロブロックス上でジョーダンは、ビルダーボーイ(Builder_Boy)というハンドルネームを使っている。
これまでジョーダンは、ロブロックス上でヘッドバンドや帽子といったデジタルアイテム2300万点を販売した。その中でも最もよく売れたのはダイアモンド・スタッドイヤリングで、200万点を売った。単価は75ロバックス(Robux)、約0.94ドル(約114円、1ドル=122円換算)だ。
ジョーダンはこうしたバーチャルアイテムの販売によって、2020年に60万ドル(約7300万円)、2021年には実に90万ドル(約1億1000万円)の利益を挙げた。
ジョーダンは、初めからロブロックスを気に入っていたわけではない。10代の頃にロブロックス上でゲームを始めた頃は、ブロック状の見栄えが退屈だと感じていた。
しかしジョーダンは、ゲームそのものがロブロックスの面白さではないと、すぐに気付く。むしろ、日々の生活をシミュレーションし、クリエイティブに過ごす空間があるということの方が面白いのだと。
数年後、友人たちからゲーム作りを手伝ってほしいと依頼された。ジョーダンは次のように振り返る。
「当時はお金になるようなものではなくて、ただ子どもが遊びたいものを作って楽しんでいただけでした。あの時はまだチュートリアルもなかったから、ゲーム上のマップやステージ、キャラクターを作るためのビルディングシステムの使い方を試行錯誤で学習しました」
その後数年間、ジョーダンは、他のゲームのステージ、マップ、環境などをデザインする仕事も請け負った。
ロブロックス上にはジョーダンが「Builder_Boy」名義で販売するアイテムがずらりと並ぶ。
Samuel Jordan
新進気鋭のクリエイターとして、2019年にはロブロックスがカリフォルニア州サンマテオの本社で主催したアクセラレーター・プログラムに参加した。同社の専門家と接点を持ちながら、ゲームのアイデアを育てる支援が受けられる4カ月間のプログラムだ。
その後ジョーダンは、ロブロックスのアバター・マーケットプレイス・プログラムに参加し、プレイヤー向けのデジタル・ファッション・アクセサリーをデザインするようになる。それまでアイテムのデザインはロブロックスの社内で行われていたが、2019年にはプレイヤー自身がデザインできるようになった。これがきっかけで、バーチャルアイテムに対するジョーダンの関心が爆発的に高まったという。
ゲームデザインも手がけたが、ビジネスとして最も成功したのはバーチャルファッションの分野だという。また、ステラ・マッカートニー(Stella McCartney)のロブロックス・アクセサリー・ラインの立ち上げにも関わったほか、フォーエバー21(Forever 21)のメタバース・ファッション・コンサルタントとして、同社のロブロックス市場への参入戦略の立案に携わったこともある。
「過去数年間まったく同じことをしてきただけなのに、メディアやブランドに注目されるようになったのは本当に不思議です」とジョーダンは語る。
「ロブロックスでレイヤードウェア(Layered Clothing)のリリースのために考えてきたすべてを皆さんにお見せできることに、とても興奮しています。デザインに命を吹き込むため、ノンストップで作業してきました」
バーチャルアイテムが売れるのはなぜか
ロブロックスについてはいろいろな誤解がある、とジョーダンは言う。そのひとつが、ロブロックスは単なるゲームという認識だ。
「ロブロックスは単なるゲームではなく、ソーシャル・プラットフォームです。コミュニケーションの場なのです」
ロブロックスはソーシャルな側面を持つ。人々はオンライン上で会うとき、非言語表現である顔の表情やその他多くのコミュニケーションの手がかりを失う。だからプレイヤーたちは自分の容姿にこだわるのだ、とジョーダンは言う。
「つまり自己表現です」
ジョーダンは、創作のためのブレインストーミングをする際、流行に乗ることを避け、自分のアバターやその周りの空間のこと、そしてどうすれば自分を含むプレイヤーたちをよりよく表現できるかを考えているという。
「私は、このプラットフォームで初めてイヤリングを作ったクリエイターなんです。『ロブロックスのキャラクターには耳がないんだから、イヤリングなんて欲しがるわけがない』と思われていたけれど、私自身がプレイヤーとしてずっと欲しいと思っていたんです」
2021年11月の投資家説明会で、ロブロックスは仮想アイテムの売上が全体の25%を占めると発表した。これはエクスペリエンス(ロブロックス内のゲーム)関連の売上成長を上回る前年比50%の伸びで、いかにユーザーがバーチャルな自分のアイデンティティに投資したいと思っているかの表れだと同社は見ている。ロブロックスは2021年、19億ドル(約2300億円)の売上を計上した。
初のUGCレイヤードウェア発売!
ブラック:https://roblox.com/catalog/9039054167/Shiny-Black-Puffer-Jacket
ネオングリーン:https://roblox.com/catalog/9039167421/Neon-Green-Puffer-Jacket
「自分が使って楽しいものを創作する」
ジョーダンが創るようなバーチャルアイテムをデザインするには、ブレンダー(Blender)やサブスタンス・ペインター(Substance Painter)といった3Dアプリケーションを使いこなす必要があるという。しかし、爆発的ヒットとなるゲームは今でも「スタジオ(Studio)」というロブロックス独自のプログラムでデザインされており、これならジョーダンが始めたときと同じように3Dモデリングのスキルは必要ないという。
「自分がどれだけ努力したかで、製品の面白さが決まるわけではありません」とジョーダンは言う。彼自身はゲームデザインやファッションを学ぶのに多くの時間を費やしたが、例えば友達2人が面白半分に作った『思いつき』が大ヒット作品になることもある、とジョーダンは言う。
「ロブロックスには100万通りの創作方法があり、魔法の公式はありません。ここは起業家的な空間なんです。アイデアがあって、それをやっている人が他にいないなら、自分でやればいいんです」
(翻訳・住本時久、編集・大門小百合)