有害な職場文化は従業員の離職を招き、会社の評判を落とすなど金銭面以外でもコストが高くつく。
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有害な職場文化は、従業員にとってだけでなく、会社にとってもダメージを与える可能性がある。
マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院上級講師、ドナルド・サル(Donald Sull)博士とその息子のチャーリー・サル(Charlie Sull)、研究者のウィリアム・シポリ(William Cipolli)、カイオ・ブリゲンティ(Caio Brighenti)が行った新たな調査によると、有害な職場が企業にもたらすコストは計り知れないという。
「職場文化が非常に有害であって、そのことで評判になってしまうと企業としての力量を下げることになります」と、ドナルド・サル博士はInsiderに語る。
2022年3月に『MITスローン・マネジメント・レビュー』に発表されたサルの研究は、有害な職場文化とはどのようなものであるかを定義し、こうした文化が企業の運営にどれほどの悪影響をもたらすかを説いている。
また、2019年に人的資源管理協会(Society for Human Resource Management)がアメリカの労働者1000人を対象に行った調査によれば、有害な職場文化が原因で生じる離職によってアメリカ企業が被る損失は、年間500億ドル(約6兆3500円、1ドル=127円換算)近くにのぼるという。
サルらチームは、匿名の会社評価サイト「Glassdoor(グラスドア)」に、500社を超える企業に勤めるアメリカ人従業員から寄せられたレビューを約140万件集め、その回答をAIで分析した。この分析によって得られた職場文化に関する洞察は、データベースとしてまとめられた。
その結果研究チームは、有害な職場には次のような特徴が繰り返し見られることを発見した。
- 相手に対する敬意が欠如している
- インクルーシブでない(社会的包摂性に欠ける)
- 倫理観が欠如している
- 競争が苛烈である
- 従業員いじめやパワハラがある
また、有害な職場文化は高い離職率、雇用主のブランドイメージの低下による人材獲得の難しさ、従業員の意欲・生産性の低下、医療費の上昇、企業の評判への打撃、法的責任リスクの増大につながることも明らかになった。
本稿では、有害な職場環境を見つけ出し、診断する方法についてサル博士から詳しく聞いた内容を紹介する。
1. 有害な職場文化が存在する「特定の場所」を見つける
すべての従業員が有害な職場文化を経験するとは限らない。大規模な組織では、有害な職場文化は「サブカルチャー(特定の集団だけが持つカルチャー)」の中にだけ存在していることが多い。
「職場は『全体的に有害な職場』と『全体的に有害でない職場』に分けられるわけではありません。有害な職場文化が存在するのは、組織の中でも一部だけです」とサル博士は言う。
「平均約10%の従業員が、有害な職場文化を経験しています。健全な職場だと有害なカルチャーを経験したことがあるのは従業員のおよそ2%、相当病んでいる組織でも25〜30%程度でしょう。100%にはまずなりません。有害な職場文化は組織の特定の場所に存在しているのです」
企業内の特定の集団だけにある独特のカルチャーには多くの場合、共通した特徴がある。例えば特定の上司、特定の部署、特定のグループなどに限られたカルチャーであることが挙げられる。
これらの有害かつ独特なカルチャーをあぶり出すことで、組織は悪しき職場文化をマネジメントすることができる。
2. 従業員が発している兆候を見逃さない
しかし、従業員の側にも問題に対処しようという気持ちがないと、有害かつ独特なカルチャーを特定するのは難しい。サル博士は次のように指摘する。
「ここが非常に難しいところなのですが、上司による従業員いじめやパワハラがひどければひどいほど、その下で働いている従業員はそのことを言い出しにくい構造になっています。彼らは報復を恐れていますから。必要なのは、従業員が発しているかすかな兆候を見逃さないことです」
従業員がかすかに発している徴候は、見過ごされてしまうことが多い問題を早期発見できるシグナルであるとサル博士は言う。例えば、「上司について何も語らない」という態度自体が、何かを物語っていると分かるという。
「例えばナルシスト型の上司は、共感力が非常に低いという特徴があります。上司についてのフィードバックで従業員は、『ナルシスト型の上司である』とは書かずに、『共感力が低い』という言い方をするのです。
比較対象となる上司についてのレビューでは、直属の部下の10%が上司の共感力について好意的にコメントしているのに対し、ナルシスト型の上司に対しては、共感力についての好意的なコメントは0%でした」
「もうひとつの指標として使えるのは、従業員の離職率です。ある上司の下にいる従業員の離職率を予測し、実際の離職率と比べます。2つの数値の標準偏差が予想よりも高い場合は、何か問題が発生していると言えるでしょう」
3. 古参上司の影響
職場文化は、職場を率いるチームの影響を受ける。
「経営陣がロールモデルとして非常に重要で、それが組織の雰囲気を決定します」とサルは言う。
経営幹部の行動は、会社全体に影響を及ぼす。例えば、軍隊に所属した経歴を持つCEOが率いる企業は類似の企業に比べて金融詐欺を犯す可能性が70%以上低いことが、ケロッグ経営大学院(Kellogg School of Management)のエフレイム・ベンメレック(Efraim Benmelech)とキャロラ・フリードマン(Carola Frydman)が実施した調査で明らかになった。
ベンメレックによると、これは現代の軍隊が、兵士や司令官がリスクを冒したりギャンブルしたりすることなく意思決定できるように訓練されたヒエラルキー的組織であることが一因だという。
「それほどチームにとってトップの影響は大きいと言えます。経営幹部の行動は組織の他の従業員に対し、何が適切な行動で何が不適切な行動なのかを規定し、それを示すシグナルになっているのです」
(翻訳・渡邊ユカリ、編集・常盤亜由子)