アマゾンがドローン配送の構想を最初に明かしたのは2013年だった。
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アマゾンは2022年、1300名の参加者を集めてプライム・エアのドローン配送プログラムに試験参加してもらう計画だ。これにより、自立操縦できるドローンで空中配送を行うというアマゾンのビジョンに一歩近づくことになる。
Insiderが入手した資料によれば、この実証実験はカリフォルニア州ロックフォードとテキサス州カレッジ・ステーションの住民を対象にしたもので、9月から配送を開始する。顧客は重さ5ポンド(約2.3キログラム)未満の約3000の商品ラインナップから注文することができる。主に医薬品、化粧品、ペット用品だ。アマゾンは1度の配送で1商品を1時間以内に届けることを目標にしているという。
これは、プライム・エアのプログラムが大幅に拡張されるということであり、プライム・エアとしては最大規模の実用化試験になる。入手した資料、および4人のプライム・エアの社員や元社員の話によれば、アマゾンは少なくとも過去1年半の間、オレゴン州の一部地域やカリフォルニア州クロウズ・ランディングなど、自社のドローン施設近辺でこれよりかなり小規模な試験を極秘に行ってきている。この試験では20名強の人を対象にしていたが、そのうちアマゾンの社員でない人は少数派だったという。
試験の参加者は、サプリメントのボトルやカードゲームのUNO、アップル社のヘッドセットなど、3月25日時点では対象者に表示されていたウェブサイトから、30種類ほどの小ぶりな商品を注文することができた。このポータルサイトについてプライム・エアの広報にInsiderが問い合わせたところ、サイトは無効にされてしまった模様だ。
創業者のジェフ・ベゾスは10年近く前に『60ミニッツ』のインタビューでドローンによる配送サービスのビジョンを明かしていたが、今回の試験規模の拡大は、プライム・エアにとって社外向けの大きな一歩となる。資料によれば、アマゾンは最終的には145のドローンの発着場を設置し、常に250のドローンを飛ばし、年間5億個の配送を行うという野心的な目標を掲げている。
ただし、法規制上の課題、社員の激しい入れ替わり、安全性に関する懸念などの理由から、プライム・エアの事業はこれまでスムーズに進んでおらず、この計画の内容は今後変更になる可能性もある、と内部関係者は言う。
1万2000回のテスト飛行
資料によると、今回の実証実験は、2022年末までに少なくとも合計で1万2000回のテストを完了させるというアマゾンの計画の一環だという。1万2000回のうち、約5000回が試験対象の顧客向けの実用化飛行、残りの7000回が別途行われる耐久性と信頼性の試験になる予定だ。
アマゾンが当局から認可を取得するためにはこれらの試験飛行が必要になる。資料によれば、プライム・エアは最新モデルのドローンについて連邦航空局から、飛行機の設計や安全に関する承認である型式証明を取得しなければならない。顧客主導型の試験飛行を行うことで、「システムの成熟度とサービス拡張が可能であることを示す」ことができるという。型式証明の申請は、耐久性および信頼性の試験が「完了次第提出される」予定だという。
アマゾンはここ最近、プライム・エア事業の進捗についてはほとんど沈黙を守ってきた。直近の大きなマイルストーンは、2020年8月に「無人航空システム」の使用許可を連邦航空局から取得したことだった。
ベゾスは遡ること2013年に、「4~5年以内に」ドローンで商品配送を行えるようになるだろうと話していた。また、アマゾンの小売部門のCEOだったジェフ・ウィルケ(Jeff Wilke)は2019年6月に「数カ月以内に」サービス開始すると発表していた。しかし実際には想定外のことも何度か起こっており、スムーズに進んでいない状況だ。
最近進捗が芳しくないのは、社内不和と激しい社員の入れ替わりも一因だ。プライム・エアは2021年、新たな経営陣と元からいた社員の間に軋轢が生じており、退職率は2割にも上った。これはアマゾンの他部門と比べても高い。また2021年にイギリスのオフィスも閉鎖しており、Wiredによれば100人を超える社員が失業している。
アマゾンの小売部門のトップ、ジェフ・ウィルケは2019年、アマゾンのロボティクスのイベント「Re:Mars」でプライム・エアのドローン新機種を発表していた。
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それ以外にも、社員が現場にまで手を出していることも遅れの一因かもしれない。倉庫の作業員ではないプライム・エアの社員がテスト配送の梱包を行っており、またテスト配送用サイト上の商品は、すべてドローンに入るサイズであることを確認してからラインナップに追加する必要があるのだという。
ある関係者によれば、医薬品は小ぶりで安全なものが多いためドローン配送に向いており、今後商品ラインナップを拡大するために、プライム・エアはアマゾンの医薬品部門と検討を始めたという。
顧客の会員登録プロセスも規模拡大の障壁になっている。トライアル顧客がプライム・エアの登録を行うには現在最長6週間かかるという。「バックヤード・アンバサダー」と呼ばれるプライム・エアの社員が各ユーザーの家をチェックし、配送ルートに障害物がないことや、ドローンがスキャンするQRコードを設置するための裏庭のスペースが十分あることを確認しなければならない。
アマゾンは今後会員登録プロセスを2週間に短縮しようとしており、最終的にはライダー・センサー(訳注:レーザー光を照射し反射光や散乱光を検出することで、対象物までの距離や形状を測定する装置)などの新しい技術を使って自動化したいと考えているという。
試験配送では顧客からの評価は賛否両論で、対象顧客の側からドローン配送を使いたいと思ってもらえるよう腐心しているという。アマゾンはプライム・エアのテストに参加してもらうために、注文してくれた顧客にはアマゾンのギフトカードを配るなどインセンティブも使っている。
「車よりリスクが低い」
プライム・エアにとっての大きな懸念事項はおそらくドローン配送の安全性だろう。プライム・エアの7つの社是の1つめが「安全第一」となっている。
過去1年間でプライム・エアのドローンは8回落下しており、そのうち1回は160フィート(約48メートル)落下したあとに数エーカー(1エーカーは4046平方メートル程度)に及ぶ火災を起こしているのをInsiderは確認している。直近の墜落事故は2022年2月のことだ。ドローンの試験によってけが人は出ていないとアマゾンは言う。
プレゼン資料には、ドローン配送について「車道を走る車での配送よりリスクが低い」と顧客には説明する予定だと書かれている。「プライム・エアのドローンは配送の際に着陸する必要がないように設計されており、配送するエリア付近に物も人もペットもいないことを確認してから商品を落とす。安全が確保できないと判断したら配送しない」という。
顧客の裏庭にドローンが商品を落とすというのは、アマゾンが当初構想していたドローン配送とは異なる。もともとは顧客の庭に着陸して商品を置き、離陸するという想定だった。関係者によると、この変更は、犬やその他の障害物にぶつかることを避け安全性を高めるためだったという。
2021年にRedditに投稿された動画では、オレゴン州コーバリスでプライム・エアのドローンが約6フィート(約1.8メートル)の高さから商品を落としているのが確認できる。また、プライム・エアの元役員であるガー・キムチ(Gur Kimchi)も先ごろLinkedIn上で動画をシェアしており、「アマゾンのMK27が実際に配送する様子を見られて嬉しい」とドローンの型番に言及している。
資料によれば、プライム・エアのベータ試験を拡大する前に、規制当局から安全措置の緩和についての承認を取得することをアマゾンは予定している。連邦当局は現在、アマゾンのドローンが人間、車道、建物の上空を飛ぶことを禁止している。アマゾンはこうした規制の緩和を申請しているが、当局側からの回答はまだない。
(翻訳・田原真梨子、編集・大門小百合)