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台湾の最新世論調査「中国は軍事侵攻しない」が約6割の“意外”。なぜか日本は「侵攻懸念」が8割超で…

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3月12日、台湾軍の予備役訓練(台湾北部・南勢埔)を視察した蔡英文総統。

REUTERS/Ann Wang

ウクライナ危機が深刻化するなか、アメリカの台湾防衛への信頼感が低下していることが、台湾で実施された複数の世論調査から明らかになった。

バイデン大統領が「ウクライナに派兵しない」と明言したことが影響した可能性もある。

「中国がこの機を利用し台湾に侵攻するか」との質問に対し、「心配していない」が回答の過半数を占めた調査もあり、中国との軍事緊張下にある台湾市民の冷静な現状認識が伺われる。

アメリカの台湾防衛「信じる」は3割

今日のウクライナは明日の台湾 ——。ロシアがウクライナ侵攻を決行して以来、台湾の蔡英文政権や同国メディアはウクライナと台湾を重ね、台湾統一を「歴史的使命」にする中国が軍事侵攻を急ぐのでは」との危機感を煽ってきた。日本でも同様だ。

そんななか、ロシアの侵攻開始(2月24日)からほぼ1カ月が過ぎた3月22日、台湾の大手ケーブルテレビ局TVBSが行った世論調査の結果を発表した。

「もし(台中)両岸で戦争が起きた場合、アメリカは台湾に派兵し防衛すると信じるか」との質問に対し、「信じる」は30%(「強く信じる」12%、「まあまあ信じる」18%)で、「信じない」の55%(「まったく信じない」22%、「あまり信じない」33%)を大幅に下回った。

11年前(2011年1月)の調査結果と比較すると、「信じる」は27ポイント減り(当時57%)、「信じない」が28ポイント(当時27%)増えたことになる。

当時の台湾は国民党の馬英九政権下で、台湾海峡の両岸の直行便が解禁され、中台経済連携協定(ECFA)が調印されるなど、中台関係が大幅に改善された時期にあたる。

台湾のメディアは概して日本以上に政党支持色が鮮明だが、前出のTVBSは中国資本が入っているものの世論調査には長い実績があって、信頼性も高い。

念のため、与党・民主進歩党(民進党)に近い「財団法人台湾民意基金会」の世論調査(発表日はTVBSと同じく3月22日)にもあたってみた。

「もし中国が台湾に武力侵攻した場合、米軍は台湾防衛に協力すると信じるか」との質問に対し、「信じる」と答えたのは34・5%(「大いに信じる」10・5%、「まあまあ信じる」24%)、「信じない」は55・9%(「まったく信じない」26・5%、「あまり信じない」29・4%)にのぼった。TVBSと大差ない結果となった。

こちらは前回調査(2021年10月)と比べると、「信じる」は30・5ポイント減り、「信じない」が27・4ポイントも増えている。

アメリカの立場とそのほころび

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3月26日、ポーランドの首都ワルシャワを訪問して演説したバイデン米大統領。ロシアのウクライナ侵攻前時点で米軍を派兵しない考えを明らかにしている。

Slawomir Kaminski /Agencja Wyborcza.pl via REUTERS

ここで、台湾防衛について、アメリカの基本的な立場を抑えておこう。

アメリカは台湾の国民党政府との外交関係を断って中国と国交正常化した1979年、連邦議会が台湾に防衛兵器を継続して供与する「台湾関係法」を成立させた。

一方で、歴代のアメリカ政府は「一つの中国」政策のもとで、中国による台湾への武力行使については対応を明らかにしない「曖昧(あいまい)戦略」を堅持してきた。

北京に対して「一つの中国」政策を維持する安心感を与えつつ、台湾に対しては「武力で台湾を守る」立場を否定しないことで、中国の武力行使を抑止する「二重の効果」があるとされる。

ところが、ウクライナ危機でのアメリカの対応は「曖昧」をかなぐり捨てる内容だった。

バイデン大統領は2月10日、米NBCテレビのインタビューに応じ、ロシアがウクライナに侵攻しても米軍を派遣する考えはないと明言してしまったのだ。

その理由は、(1)ウクライナは北大西洋条約機構(NATO)加盟国ではないため、アメリカには防衛義務がない、(2)ロシアは6000発以上の核弾頭を保有する核大国で、アメリカが参戦すれば世界大戦になる可能性がある、というものだった。

アメリカのメディアや識者のなかには、そうしたバイデン大統領の「弱腰」が、ロシアのプーチン大統領にウクライナ軍事侵攻を決断させたとみる向きもある。少なくとも侵攻前は「曖昧政策」で臨むべきだった、と彼らは主張する。

台湾有事でアメリカは派兵するか

アメリカがウクライナに派兵しない理由を中台関係に置き換えてみると、(1)アメリカは台湾を国家承認しておらず、同盟関係にもない、(2)中国もおよそ200発(米国防総省推計、2020年)の核弾頭を保有する核大国で、世界大戦になる恐れがある、ということになる。

とすれば、台湾有事に際しても、アメリカはウクライナへの対応と同様、台湾派兵による防衛には動かないとの疑念を台湾市民が抱いても不思議はない。

台湾の元立法委員(国会議員)で、政治評論家の林鈺祥氏は筆者の取材に対し、世論調査の結果は「ウクライナに派兵しないアメリカの決定に対する直感的反応」との見方を示した。

ただし、林氏は「派兵と台湾防衛は区別して考えるべき」として、次のように語った。

「アメリカは最新のデジタル技術を駆使して、ウクライナ情勢も台湾情勢もほぼ完全に把握し、台湾海峡の安全をめぐって宇宙から海洋、陸上に至るまで(さまざまな形で)介入できる準備がある。したがって、世論調査にあるような『派兵するかどうか』との問いはもはや意義を持たない」

台湾侵攻を「台湾より」懸念する日本

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3月25日、台湾北部の新竹で訓練を行う台湾軍の兵士たち。

REUTERS/Ann Wang

TVBSによる世論調査でもうひとつ興味深いのは、冒頭でも少し触れたように、「中国大陸はこの機を利用して台湾に侵攻すると思うか」との質問に対して、「不安ではない」が57%と、「不安に思う」の37%を大幅に上回ったことだ。

一方、日本の民放テレビ局の世論調査では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻が「中国による台湾や尖閣諸島での『力による現状変更』につながる懸念ことを「懸念している」との回答が86%にものぼっている(調査実施は3月5・6日)。

中国と直接的な緊張関係にある台湾のほうが、軍事侵攻に不安を感じて不思議ではないのに、なぜ懸念する声は日本のほうが圧倒的に多いのか。

前出の林鈺祥氏は、台湾側の理由として、(1)台湾人の多くは中国が海峡を越えて軍事侵攻するのはきわめて困難とみていること、(2)政治的対立にもかかわらず、中国との貿易は台湾の貿易総額の5割近くを占めること、(3)台中の人的往来は密接で、双方をまたぐ婚姻数も増えている、という3点を挙げ、台湾の市民は「台湾侵攻は実際にはできないとみている」と説明する。

一方、日本で台湾侵攻懸念が多かった理由としては、岸田首相がロシアのウクライナ侵攻前から「力による現状変更を許せば、アジアにも影響が及ぶ」と強調し、ロシアを中国に、ウクライナを台湾に重ね合わせ、(名指しこそしないものの)軍事侵攻の恐れを訴えたことで、その効果が民放による世論調査にも反映された可能性がある。

また、そのような岸田首相の主張が受け入れられたのは、翼賛化しつつある日本の中国に対する厳しい世論が土台にあることも指摘しておかねばならない。

安倍前首相は相変わらず「台湾有事は日本有事」と

日米のメディアはともに、ウクライナ侵攻に対する中国の姿勢を「ロシア寄り」と報じる。

しかし、中国は何よりも「主権と領土の一体性の尊重」を重視しており、ウクライナ侵攻を支持しない立場を明確にしている。ロシアの侵攻を支持すれば、台湾の独立を支持する外国にも反対できなくなるからだ(このあたりの論理は過去の寄稿を参照してほしい)。

にもかかわらず、安倍元首相は3月23日に台湾の蔡総統とオンラインで初会談し、「台湾有事は日本有事」と日台運命共同体論をあらためて提起し、中国の脅威を煽っている。

安倍・菅・岸田の直近3政権に共通するのは、日米間の安全保障を「対中同盟」に変質させ、沖縄など南西諸島のミサイル要塞化を急ぐために「台湾有事」論を利用していることだ。

日本がそのような状況だからこそ、今回の台湾の世論調査から読みとれる冷静な対中認識に学ぶところは多い。

(文・岡田充


岡田充(おかだ・たかし):共同通信客員論説委員。共同通信時代、香港、モスクワ、台北各支局長などを歴任。「21世紀中国総研」で「海峡両岸論」を連載中。

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